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物語29
しおりを挟む私は最近周りに人から良く言われる。
「君、綺麗になったね」最近常連の客から、そんな風に言われてしまうのだった。
「お世辞を言っても、何もサービスなしですよ」と軽く受け流していた。後輩達からも「チーフ、恋ですか?女性は恋をすると綺麗になるって言うから?」と言われ、慌てて
「何、馬鹿なこと言ってるのよ。仕事しろ、仕事」と言い返したが、仁志さんのことが頭に浮かび慌てた。
そういえば最近自分でも、ツンケンしてないなと感じていた。前はよく苛立ち、アルバイト達を怒り散らしていた物だったが、最近はあまり大きな声は出さなくなっていた。そういう怒る気になれない。不思議だな?何故だろう?
でもそれが起きたのは社長がいつもの通り、店の見回りに来た時だった。私は客の注文のラーメンを作っていた。社長が私の後ろを通った時、普段からはいているジーパンの、お尻当たりがモゾモゾした。
最初はなんだか解らなかった?(あれ?何だろう?)と思っていたら、社長が若い娘達みたいに、私のお尻を触っていた。
思わず「ギャー」と驚いてしまった。(いままではあたしのお尻なんか、全然無視していたのに!どうしたんだろう?)それから社長の言う事が良い
「君、最近綺麗になったよ。お尻も気持ち良く触れたよ」、私、いきなりアッタマに来て
「奥様に言いつけますよ」と大きな声で怒鳴っていた。きっとこの声は客席にも響いたのでは無いだろうか?それほどビックリした。と同時に怒りがこみ上げてきた。
給与を貰ってなく、奥様に報告が出来ないのであれば、きっと警察に行って被害届を出したと思う。
いままでは店の娘に手を出しても、見て見ぬふりをしていたが、こんなに不愉快な物だとは思わなかった。しかし現実に自分が触られると、怒りがこみ上げて来てたまらない。(お前、ふざけるなよ!殺したろうか?)そのうち誰からかセクハラで訴えられると思っていたが、今度は私が訴えてやろうかと思った。
さっそく奥様に電話して社長の悪行を報告!どれだけの娘が被害に遭っているか報告した。
「つい最近はあたしも触られました」など言いつけた。
これで社長がおとなしくなってくれれば良いのだが?
でも社長もどうしちゃったんだろう?いきなりこんな事するなんて。今までもスケベジジイとは思っていたが、私には直接被害が無かったので放置していた。でもまた今度やったら、麺を茹でている鍋のお湯を、掛けてやろうかと思った。
そんな出来事を仁志さんに話した。そしたら彼は頭からユゲを出し
「その社長に抗議してやる」と言い出したので慌てた。
「ダメよ、ちゃんと奥様に報告したので、これからは大人しくなってくれるから大丈夫よ。そんなに怒らないで!」あれほど彼が怒るなんて思ってもみなかった。
でもますます私の気持ちは、彼に引かれていった様に思う。私は一途な仁志さんがますます好きになった。そして彼は
「さくら、僕たちは苦しいときは互いに助け合い、悲しみを半分に、嬉しい時は喜びを倍にする仲良しになろうね」思わずプロポーズかと思い慌てた。そしたら彼は顔を赤くして、
「あーごめん!今のは、その、なんというか、全然そう言うんじゃなくて、これから仲良くして行くのに、心構えというか、なんかうまく言えないけど、つまりその・・」
「何を言っているの?」思わず聞き返した。(プロポーズなら凄く嬉しかったのに、チョットがっかり。)
「ごめん、冗談、冗談だよ」仁志さんは言い訳するように言って、横を向いて黙ってしまった。(凄くがっかり。)思わず抗議した。
「ひどい、あなた、ひどいわ!」
でも彼のプロポーズを期待している自分に、少し驚いていた。
その日の夕食は、お茶漬けと、梅干し一つだけにした。兵糧攻めは何も戦国時代だけの物ではない。現代に生きる女性達の、大切な武器だ。
気まずくなったのか、その日は黙って帰って行った。(あーあ、こんな事いつまで続くのかな)
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