少年貴族と執事の話

桜月雪兎

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「えっと、何て言ったの?」
「はい。お迎えにあがりました。マイロード」
「えっと、それって僕のこと?」
「はい。左様で御座います」
「…………」

少年は困った。
目の前の青年を始め、後ろの方にいる者たちも青年同様に頭を下げているし、そのさらに後ろには野次馬をしている村人たちがいる。
この状況をどうするべきか、少年には分からなかった。

少年が困惑しているのを理解して、青年が説明した。

「マイロードは自らの生い立ちを知らないようですね」
「え?う、うん、知らない」
「そうですか。では、私からご説明いたします」
「うん」

青年の説明に少年は驚かされてばかりだった。

まず、少年はある貴族の血を受け継いでいる嫡子だった。それも正式にその貴族の戸籍に入っている正真正銘の長男と言うことだ。
次に少年の両親は婚約をして結婚する段取りになっていたがある人物のせいで両親が話し合って別れたと言うことだ。

「母さんは父さんに疎まれて追い出された訳じゃないの?」
「まさか、先代もお認めになられた正式な婚約であり、結婚をするはずでした」
「じゃあ、なんで?」
「先代の奥方が無理矢理自分の気に入った女性と御当主を結婚させたのです。勿論、先代も御当主も断っていたのですが、あなたのご両親は先代夫婦の争いが激化していくのを見ているのが心苦しくなり、互いに話し合った上でお別れになりました」
「そう、なんだ」

少年は何とも言えなかった。
なら、自分は父親に疎まれていないと言うことなのかと思った。
青年はなんとなく少年の考えが読めた。

「あなたは望まれて産まれてきました。それは何よりあなたの名前が物語っています」
「僕の名前が?」
「はい。あなたの名前、アルフレッドという名はご両親が御二人で考えた名前なのです。そして、お父上の戸籍に入っているのもその証です」
「そうか」

少年ことアルフレッドは安心したような笑顔になった。
青年はそれを微笑ましそうに見ていた。
アルフレッドはそれに気付いて顔を赤らめながら続きを訪ねた。

「えっと、それで僕の生まれはわかったけど、なんでここに?」
「はい。実は御当主、アルフレッド様のお父上が余命宣告を受けまして」
「え?!」
「それでアルフレッド様にお会いしたくなりましたようで私がお迎えに参りました」

アルフレッドの顔は青ざめた。
アルフレッドは母親を亡くしている。
それは不幸な事故だった。
だが、死に目にも、幼いからと葬儀にも出さしてもらえなかった。
知らない間に大切な人を亡くす苦しみを知っている。
それはいまだに癒えることはない。
そんなアルフレッドを見て青年は優しく声をかけた。

「大丈夫です。余命宣告を受けましたがすぐというわけではありません」
「すぐ、じゃない」
「はい。だいたい3年と言われました」
「3年?」
「はい」

アルフレッドはちょっと安心した。
すぐに父親まで失わないのだと言うことに。

「御当主は残りの3年をアルフレッド様と生活したい、跡目をアルフレッド様にお継がせしたいと考えました」
「あとめ?つぐ?」
「はい。御当主の御子息はアルフレッド様だけなのです。屋敷にいるのはお相手様の連れ子様たちなのです」

青年が言うには養子縁組もしていない連れ子たちに継ぐ権利はなく、親族にも適任者がいない。
年齢、性別的にはいるが能力として足りない。
何より正式に父親の戸籍に入っているアルフレッドを差し置いてなれる人物はいない。

「僕は父さんの所に行けるの?」
「はい。その為に私は参りました」
「えっと、お願いします」
「イエス、マイロード」

アルフレッドがお願いすると青年は嬉しそうに微笑みながら答えた。
そして、青年は思い出した。
実は自分が何者なのかを名乗っていなかったこと、アルフレッドの実家が貴族は貴族でもどのような貴族なのかということを。

「すみません、マイロード。名乗るのが遅くなりました。私、ファルサシア侯爵家執事を勤めますクロードと申します。宜しくお願いします、アルフレッド・ファルサシア様」
「え?あ、うん。宜しく?」

アルフレッドはよく分からなかった。
それはそうだ。
アルフレッドがいくら聡くてもたったの十歳だ。
ましてや村育ちなので爵位のことは分からない。
でも、自分の正式名を初めて知った。


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