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しおりを挟む馬車が停まったのはかなり立派なお屋敷だった。
門を潜り抜け、玄関前には多くの人が整列していた。
御者が扉を開けるとクロードが先に降りてアルフレッドの手を引いて下ろした。
「「「「お帰りなさいませ、アルフレッド様」」」」
「え?!」
「お帰りなさいませ」
「え?あ、あの。クロードさん」
「マイロード。ここは本来あなた様の家なのです。お迎えに上がるのが遅くなりましたが」
「僕の、家」
「はい、マイロード」
アルフレッドは嬉しくなった。
母親が死んでから表には出さなかったがやはり寂しかった。
どうしても一人でいる家は家とアルフレッドは思えなかった。
母親との思い出の家で暮らしているのに、寂しくて仕方なかった。
「た、ただいま」
「「「「お帰りなさいませ」」」」
「お帰りなさいませ、マイロード」
アルフレッドはクロードの開けてくれた扉から屋敷の中に入った。
アルフレッドが中に入ると全員がそのあとに続いた。
アルフレッドは玄関を見渡して驚いた。
広く大きな玄関には赤い絨毯が敷かれており、明るく綺麗だった。
「大きい」
「左様ですね」
アルフレッドがその場で佇んでいると急によこからドンッ!と衝撃を受けてよろけたがクロードが支えた。
そこにはアルフレッドより年上と思われる少年の姿があった。
「何のつもりですか?!」
「ふん!そんなヤツを連れてくるなんておかしいんじゃないか?ここはファルサシア侯爵家だぞ」
「ええ、ですからお連れしたのですよ。いえ、違いますね。お迎えに上がったのです。我がファルサシア侯爵家嫡男であるアルフレッド様を」
「…………そいつがアルフレッドだと?」
クロードと少年が言い争っている間にアルフレッドは近くにいた侍女に渡された。
怪我をしてないか確認されたのだ。
アルフレッドはいきなりの展開で混乱していた。
そこに階段から降りてこようとしている青年が睨み付けるようにアルフレッドを見た。
侍女たちはアルフレッドを守るように前に立った。
クロードはその最前列に立っている。
その光景が少年と青年には不快に感じた。
「あ、あの。あの人たちは?」
「あの者たちが前にお話ししました。お相手の連れ子、様ですね。年上の方がダグラス……様で、年下の方がローランド……様です」
「そうなんだ」
クロードはアルフレッドに説明するためとは言え、連れ子の二人に敬称をつけるのに抵抗があった。
このファルサシア侯爵家の使用人たちは先代当主の妻もその妻が連れてきた当主の相手も相手の連れ子もファルサシア侯爵家の者として認めていない。
現当主が幼い時に遊びに出てろくに帰ってこない先代の嫁などを使用人たちが女当主として認めるわけがない。
ましてや、そんな相手が連れてきた女、しかも連れ子もいるなど認めるはずがない。
それに現当主には想いあって先代からも認められ、祝福されている相手がいるのにだ。
そんな相手を追い出して連れ子を連れてきた者を女主人と認めるはずもない。
つまり、先代の妻と今代の妻とその連れ子たちはファルサシア侯爵家と見なされていない。
ましてや、連れ子に関しては養子縁組もしていないので、完全に他人である。
「クロード、それがアルフレッドだからと言って連れてくる意味が分からない」
「そうだよ!出ていった女の子供なんて連れてくるなよ!不愉快だ!」
「不愉快は私たちの方です。何の権限があって、貴方たちがアルフレッド様を侮辱しているのですか?貴方たちは養子縁組もされていない完全に他人ですよ?貴方たちを産んだ女が私たちの奥様を追い出したのです。社交場にも連れていかれないのに大きな顔が出来ますね。恥を知りなさい!」
「な、なんだと?!」
「クロード、貴様…」
クロードは取り繕うことをやめた。
やっと本来の主が帰ってきたのに連れ子と言う勝手傲慢な居候に敬う気持ちなどなくなったのだ。
本来ならこのようなことは許されないが、十年と言う長い時間がクロードたちの気持ちを削っていったのだ。
それだけではなく、アルフレッドを一人にしてしまったこと、母親が生きている間に迎えにいけなかったことの後悔もあるのだ。
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