竜王の花嫁

桜月雪兎

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第一章

10、話し合い

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 アリシアとルドワードが甘い雰囲気を醸し出している中、ルークとディスタは呆れていた。しかし、どちらも今回は邪魔する気が起きなかった。
「どうしましょうか?」
「どうします?」
「諦めて見守りましょうか?」
「そうですね」
 二人はアリシアたちが気付くのを待つことにした。すでにスカルディアに邪魔をされて急いで話をまとめる必要がなくなった。
 アリシアたちが竜王城に着いたのは昼過ぎだった。門前の騒ぎや謁見、それにスカルディアのことですでに陽の色が変わりつつある夕暮れ時だ。話をしていては陽が沈みきり、夜半に馬車を走らせることになる。危険きまわりない行為のためルークたちは泊まることが決定した。
 それはルークがディスタを見た時に肩をすくめ、その手に懐中時計が握られていたからだ。
 そしてアリシアがルークたちに気付いたのはそれから十分後のことだった。その間にディスタはジャックスにユーザリア兵やルークの寝床の手配を任せた。
「す、すみません」
「大丈夫ですよ」
「スカルディア殿のおかげで今日は泊まることになりましたので」
「そうなんですか?」
「はい、時間もすでに夕暮れ時です。このままいって馬車を走らせるのは早くても夜半になります」
「なので今宵は泊まることになりました。ですが話は早めにまとめましょう。長旅でアリシア嬢もお疲れでしょうし」
「そうですね、第一会議室はこちらです」
 ディスタの案内で全員第一会議室に向かった。

 全員が第一会議室に到着し、席に着いた。もちろん主賓席にはルドワードが座り、右隣にアリシアが座った。アリシアの隣はルークが座り、ルドワードの左隣りにディスタが座った。
 アリシアは急にいなくなったジャックスのことが気になった。
「隊長さんはどうされたのですか?」
「ジャックス隊長にはユーザリア兵たちの寝床の手配等をお願いしました」
「ああ、そうなのですね。おられないのでびっくりしました」
「お気遣い感謝します。それでは今後の話をしたいと思います」
 そうして話し合いは始まった。それは今後の式等の日取りなどを話し合った。 話し合いは本当に遅くまでかかりそうであった。
 式場としてはここ首都グランディアにあるラグナ大聖堂にて行うことになったが来賓客などの話で進まない。
 ユーザリア大国からドラグーン大国の首都であるグランディアまで早くても三日はかかる。賓客も厳選しなくてはいけなかった。長時間の馬車移動に加え、ここでの滞在などを考えるとどうしても一週間は最低でも必要となる。それだけの長期間、領地を離れて主席出来るのは数えられる程しかいない。
 国同士の婚儀ともなればユーザリア大国国王であるシリウスも絶対に出席しなくてはいけない。送迎にかかわったルークも同様だ。
「とりあえずユーザリアでは国王と私、四大侯爵家の出席は確実です」
「花嫁様のご家族は?確か伯爵家と聞いていますが?」
「アリシア嬢の生家は国境近く故になるべくは離れて欲しくないのが現状ですかね」
「ですが、接しているのはわがドラグーン大国では?」
「国境沿い故に治外法権を狙って悪さをしやすいのです」
「確かにそれは言えますが……花嫁様もお会いしたいのでは?」
「え?」
 アリシアは急に話を振られて困った。アリシア自身にしては家族の出席ほど嫌なものはない。だがそれを今言えるはずもなくアリシアは困っていた。それを見たルドワードは首を傾げながらも助け舟を出した。
「ディスタ、これは国同士の婚儀だ。ユーザリアに不利になるようなことはできない。無理強いすることでもないだろう」
「ですが、本来婚儀は娘の晴れ舞台ですよ」
「いいのです」
「はい?」
「いいのです、ディスタ様。家には妹がいます。私のが見れずとも妹のが見れれば父は満足しますし、母はもういません。お気遣い感謝します」
「……花嫁様と竜王がそう言われるのでしたら」
「ありがとうございます。宰相様も」
「アリシア嬢……私も国王もあなたの味方です。あなたは何も悪くありません……あなたがこの地で幸せになることを心より願います」
「はい」
 アリシアはルークの心遣いに感謝をした。そして何も言わなくても許してくれるルドワードのことが気になった。
 どうして何も言わずに自分の望みを叶えてくれるのか分からないのだ。誰にも存在自体を許してもらえなかったアリシアにはルークやルドワード、ディスタたちの心遣いに感謝しながらも分からないでいた。
 話は進み、式は十日後の正午にラグナ大聖堂で行うことになった。ユーザリア側には国王を始めとした四大侯爵家に出席可能な侯爵・公爵家が出席することになった。ドラグーン側はほとんどの主要都市を収める当主および爵位継承者の出席と婚儀のパレードはラグナ大聖堂から竜王城までの道を国民のお披露目として通ることになった。最後は竜王城で国王と貴族での夜会をすることになった。
「それではこの予定で準備を行います」
「ああ」
「アリシア嬢」
「はい?」
「私と兵は明日朝一番でここを去ります。次に会うのは式の日となりましょう」
「兵?リリアたちはどうなさいますか?」
 ルークの発言にアリシアは疑問だった。アリシアはリリアたち三人はドラグーン大国に来るまでの付き合いだと思っていたからだ。ルークはそんなアリシアに苦笑して説明した。
「リリアたち三人はここでアリシア嬢の侍女として生きていきます。本人たちからもその旨を確認しております。人間のいないこの国での生活は大変でしょう。彼女たちはこの地で骨を埋める覚悟とあなたにお仕えする意志をもってここにきています」
「リリアたちが私と一緒に?本当ですか?」
「はい、すでにあなた様の部屋を確認し、片づけを終わらせているはずです」
「本当に、本当にいいのですか?」
「アリシア嬢、彼女たちの意思です」
「はい、はい!」
 アリシアは嬉しかった。本当は心細かったのだ。一緒にいてこんなにも楽しかったのは初めてだから離れがたかった。一緒に居れると分かってアリシアは嬉しくて涙を流した。
 そのことにディスタは疑問に思ったが問わなかった。そんな雰囲気ではなかった。
 ルドワードは何も言わずにアリシアのもとに向かい、頭を撫ぜた。
「よかったな」
「はい、ルド様」
 ルドワードはアリシアの涙をぬぐい、その手を取った。
「今日は疲れたであろう、部屋に案内する」
「ありがとうございます。宰相様、ありがとうございました。お休みなさいませ」
「はい、お休みなさい」
 ルドワードに連れられてアリシアは第一会議室を出た。
 残されたルークはディスタの訝しがる瞳と対峙することになった。
「ルー、あの方は何者ですか?」
「何って『花嫁』だよ、シル自らが選んだ」
「何かわけありですか?家族の出席を拒むなんて」
「わけありと言えばわけありだがアリシア嬢が悪いわけではないし、私たちはアリシア嬢から話して欲しいんだ。ルドにね」
「……」
「ルドが知らないことを先に教えるわけにいかない。大丈夫、彼女なら式までに話すよ」
「わかりました、その言葉信じましょう。それに君やシル陛下が選んだ相手、悪い人ではないことぐらい分かります」
「ありがとう。それじゃあ、休ませてもらうよ」
「ええ、寝室はこっちです」
 ディスタはルークの話を信じた。ディスタもアリシアを見ていて悪い相手ではないことを分かっている。いずれ話すのならその時を持つだけだ。それに夫となるルドワードより先に花嫁の秘密を知るわけには確かにいかないことだ。
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