竜王の花嫁

桜月雪兎

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第二章

21、色々と、落ち着きました

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 アリシアがつわりで悩まされる日々がやっと過ぎ去り、体の方も安定してきた。
 こうなってくると今度は周りが落ち着かなくなってきた。
 それはこのぐらいの時期にドラグーンでは変化が起きる。
 そしてアリシアにも変化が起きた。
 それは真夜中のことだった、急にお腹の痛みを覚えたアリシアが唸っていると異変に気付いたルドワードが飛び起きた。
「シア?!どうした?!」
「お、お腹が、急に、ううう~」
「なっ!誰か!誰か来てくれ!!」
 ルドワードはアリシアを片腕で抱きしめながら、緊急の呼び鈴を鳴らした。
 今日の護衛であったアルシードがあわてて中に入ってきた。
「竜王様!竜王妃様!何が?!」
「アリシアが急に痛み出した!すぐに医者を!!」
「分かりました!」
「シア、すぐに医者が来る。がんばれ」
「ルド様~~、うううう」
 アルシードは全速力で医者を担いできた。アルシードに付き添った隊員も医者の診察道具をもって一生懸命について行った。
 医者が到着するころにはラースたちも集まっていた。
 医者が触診等を行うとあることが分かった。
「どうやら、この度のアリシア様の御懐妊はドラグーン方式のようです。卵が下りてこようとしているために生じる痛みのようです」
「た、卵」
「この度はドラグーン方式、ということは……竜王様方は今すぐにお部屋から出てくださいまし!!」
「へ?はぁ?」
「出産は神聖なものです!殿方がいてはいけません!!」
 ラースたち侍女の剣幕に押され、ルドワードたちは扉の外に出た。今回、未出産のリリアたちは誰も入らないように番をすることになった。
 もちろん出産にかかわる医者は女性だ。
 外に出された面々は気が気じゃない。
 時折聞こえるアリシアの苦しそうなうめき声やそんなアリシアを励ます侍女組の声、侍女に指示やアリシアに促す医者の声だけが聞こえてくる。
「だ、大丈夫なんだろうか?」
「リン」
「私にもわかりません。ですが、カナリアさんたちがここを通すなと言われましたので」
「はい。たとえ、竜王様でもここはお通しできません」
「あ、ああ……アリシア」
 ルドワードたちは侍女たちの許可が下りるまでは本当に中に入れない。
 それはリリアたちはアリシア付きの侍女なので、いくら竜王でアリシアの夫であっても、彼女たちに最終命令をできるのはアリシアだけなのだ。アリシアの不利益になったり、意に反することであれば彼女たちはたとえ竜王であるルドワードの命令も無視でき、対立できる。
 それが竜王妃付きの侍女なのだ。
 そして今回のはそれが顕著に表れることだ。
 出産は男性が入れないのであれば、アリシアの出産の儀式を守るのが彼女たちの役割となるからだ。
 それでも全員が時折聞こえるアリシアの苦しそうなうめき声にやきもきしているのもまた事実なのだ。
 それが数時間続いた頃、急に静かになった。
 静かになったら静かになったで不気味なのだ。
 そうしていると医者が出てきた。
「アリシアは?」
「はい。無事に卵はお生まれになりました。今はお疲れになって休まれていますので今日の所は医務室の機械で温めておきます」
「ああ」
「竜王様、どうぞ、ご入室を。アリシア様も整いましたので」
「ああ」
 ナディアに促されるままに自室に入るとベッドにはアリシアが眠っていた。
 その身は清められたらしいが顔には疲労が見て取れた。
「ご苦労様、シア」
「んん~、ルド様ぁ~」
 アリシアはルドワードの温もりを求めるようにルドワードにくっ付いて幸せそうな顔をしている。
 ルドワードももう大丈夫なのだと理解し、ベッドに入った。
 ルドワードがベッドに入ったのを見届けてクシャナたちは一礼して扉を閉めた。
 アルシードたちもひと段落したのだと分かり、それぞれの持ち場に就いた。
 侍女組は部屋に戻り、眠りについた。
 やっとこれで色々落着き、また色々とはじまるということなのだろう。
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