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第二章
38、グレイ家次期当主①
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三日後アルシードはリンや弟妹たちを伴って実家に戻……らなかった。
正式な跡継ぎの話をすることになるので城の会議室を使うことになった。
ドラグーンでは古参貴族に爵位に関わらずそれなりに役割が発生しているので後を継ぐ者が誰になるかは意外と竜王にも重要なのだ。なので正式にグレイ家を継ぐとなれば竜王つまりルドワードの承認が必要になる。
なので、城の会議室で行うことになったのだ。リンの告白の後、正式にグレイ家現当主であり、アルシードたちの祖父から依頼があった。もちろん、すぐに会議室を確保し了承の旨を伝えた。
現在、この会議室にはグレイ家の親族一同とルドワードにアリシア、ジャックスやリンもいた。この面子は当事者なので護衛でスカルディアにカイとルイもいる。こっちの当事者と言えば当事者なのだが。
アルシードがこのままリンとの婚約を告げるとしたのだ。
「どうせ何かあるなら全員を前にして言えってんだ」
「アル」
「こういうのを開き直りって言うんだ」
「ええ、そうですよ」
それでもリンは嬉しそうに頬を染めていた。
そうこうしているうちにグレイ一族が集まった。
そのほぼ全てが猫亜人だ。ほぼというのは幾人かは猫半獣人で、他の猫型以外もいた。
最初、リンたちがいるのを不思議がる面々がいたが、リンがアリシアの侍女であることを思い出してそこには触れなかった。
全員が席につくと司会進行としてディスタが声をかけた。
「皆さん、集まりましたね。それではグレイ家の跡継ぎの話をしていきたいと思います」
「では、私から今回のいきさつを話します」
「どうぞ」
「今回、長男であるアルシードから近衛隊所属のまま後を継ぎたいと話がありました。ですが、現在は三男であるガイが跡継ぎとして認識されています。どのような心境の変化であれ、弟の地位を脅かそうとしているのに変わりないかと」
「ガイとアルシードから何かありますか?」
「はい」
ガイはアルシードを一度見てから手を上げた。
アルシードを見たのは確認ではなく、勇気を貰いたかったからだ。
この兄妹は長男が大好きでまっすぐ自分たちの前に立っていてくれる姿は勇気が出る。
「どうぞ」
「僕の跡継ぎは候補でしかなかったはずです。僕にやりたいことがなかったのでできるまでは跡継ぎ候補と云うことになりました。それでも第一候補はアルシード兄様です」
「俺からも」
アルシードはちゃんと言えるようになった三男を見て微笑ましかった。
優しく人の後ろに隠れがちだったガイが自ら前に出たその成長が兄として嬉しかった。
そして、足りないところをフォローするためにアルシードも手を上げた。
「どうぞ」
「今回の事はガイからやりたいことができたと報告をもらった事が起因です。そして、ガイの心境の変化を察した両親から跡継ぎとなるように強要されていた節が見受けられました」
「何を言う!?」
「確かだろ。俺はもともと後を継ぐ覚悟もあった。ただ、近衛隊員となる夢もあった。当主である祖父には許可をもらっていたが納得しなかったのがお前たちだ。だから、優しいガイが跡継ぎ候補となってくれた。その時にすでに話していたはずだ。ガイにやりたいことができた場合は俺が近衛隊と兼任すると」
両親が敵意をむき出しにしているが、アルシードは何でもないことのようにはね除けた。
両親はアルシードのこういうところが気に入らなかった。昔から現当主に気に入られて自分たちを蔑ろにしていると感じているのだ。
だが、それは誤解でそんな態度であり、弟妹たちをまともに育てず、道具のように思っている節があるから嫌われているのだ。我が子たち全員に。
ディスタが書類を確認すると確かにアルシードの話したような記載があった。
「確かに、以前の話し合いの記録には記載されています」
「ガイにやりたいことができた。その段階で跡継ぎはアルシードに移行されるはずです」
「私からいいですか?」
今まで静観していた現当主が手を上げた。これによりグレイ家全員に緊張が走った。
「どうぞ」
「ガイよ、やりたいこととはなんだ?まずはそれを聞かせて欲しい」
「……職人」
「職人?」
「はい、細工職人になりたいんです」
ガイは一瞬、決心を固めるように下を向き、小さめの声で言ったが、すぐにその瞳に覚悟を宿し、宣言した。
それに苛立ったのは両親だった。
正式な跡継ぎの話をすることになるので城の会議室を使うことになった。
ドラグーンでは古参貴族に爵位に関わらずそれなりに役割が発生しているので後を継ぐ者が誰になるかは意外と竜王にも重要なのだ。なので正式にグレイ家を継ぐとなれば竜王つまりルドワードの承認が必要になる。
なので、城の会議室で行うことになったのだ。リンの告白の後、正式にグレイ家現当主であり、アルシードたちの祖父から依頼があった。もちろん、すぐに会議室を確保し了承の旨を伝えた。
現在、この会議室にはグレイ家の親族一同とルドワードにアリシア、ジャックスやリンもいた。この面子は当事者なので護衛でスカルディアにカイとルイもいる。こっちの当事者と言えば当事者なのだが。
アルシードがこのままリンとの婚約を告げるとしたのだ。
「どうせ何かあるなら全員を前にして言えってんだ」
「アル」
「こういうのを開き直りって言うんだ」
「ええ、そうですよ」
それでもリンは嬉しそうに頬を染めていた。
そうこうしているうちにグレイ一族が集まった。
そのほぼ全てが猫亜人だ。ほぼというのは幾人かは猫半獣人で、他の猫型以外もいた。
最初、リンたちがいるのを不思議がる面々がいたが、リンがアリシアの侍女であることを思い出してそこには触れなかった。
全員が席につくと司会進行としてディスタが声をかけた。
「皆さん、集まりましたね。それではグレイ家の跡継ぎの話をしていきたいと思います」
「では、私から今回のいきさつを話します」
「どうぞ」
「今回、長男であるアルシードから近衛隊所属のまま後を継ぎたいと話がありました。ですが、現在は三男であるガイが跡継ぎとして認識されています。どのような心境の変化であれ、弟の地位を脅かそうとしているのに変わりないかと」
「ガイとアルシードから何かありますか?」
「はい」
ガイはアルシードを一度見てから手を上げた。
アルシードを見たのは確認ではなく、勇気を貰いたかったからだ。
この兄妹は長男が大好きでまっすぐ自分たちの前に立っていてくれる姿は勇気が出る。
「どうぞ」
「僕の跡継ぎは候補でしかなかったはずです。僕にやりたいことがなかったのでできるまでは跡継ぎ候補と云うことになりました。それでも第一候補はアルシード兄様です」
「俺からも」
アルシードはちゃんと言えるようになった三男を見て微笑ましかった。
優しく人の後ろに隠れがちだったガイが自ら前に出たその成長が兄として嬉しかった。
そして、足りないところをフォローするためにアルシードも手を上げた。
「どうぞ」
「今回の事はガイからやりたいことができたと報告をもらった事が起因です。そして、ガイの心境の変化を察した両親から跡継ぎとなるように強要されていた節が見受けられました」
「何を言う!?」
「確かだろ。俺はもともと後を継ぐ覚悟もあった。ただ、近衛隊員となる夢もあった。当主である祖父には許可をもらっていたが納得しなかったのがお前たちだ。だから、優しいガイが跡継ぎ候補となってくれた。その時にすでに話していたはずだ。ガイにやりたいことができた場合は俺が近衛隊と兼任すると」
両親が敵意をむき出しにしているが、アルシードは何でもないことのようにはね除けた。
両親はアルシードのこういうところが気に入らなかった。昔から現当主に気に入られて自分たちを蔑ろにしていると感じているのだ。
だが、それは誤解でそんな態度であり、弟妹たちをまともに育てず、道具のように思っている節があるから嫌われているのだ。我が子たち全員に。
ディスタが書類を確認すると確かにアルシードの話したような記載があった。
「確かに、以前の話し合いの記録には記載されています」
「ガイにやりたいことができた。その段階で跡継ぎはアルシードに移行されるはずです」
「私からいいですか?」
今まで静観していた現当主が手を上げた。これによりグレイ家全員に緊張が走った。
「どうぞ」
「ガイよ、やりたいこととはなんだ?まずはそれを聞かせて欲しい」
「……職人」
「職人?」
「はい、細工職人になりたいんです」
ガイは一瞬、決心を固めるように下を向き、小さめの声で言ったが、すぐにその瞳に覚悟を宿し、宣言した。
それに苛立ったのは両親だった。
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