たずねびと それぞれの人生

ニ光 美徳

文字の大きさ
12 / 41

第12話

しおりを挟む
 田原と過ごす日々は、大学時代の感覚が蘇ってきて楽しい。
 久しぶりに夜の街へ飲みにも出た。
 そうそう、こんな感じ!
 こうやってキラキラした時間を過ごしてたなぁと懐かしむ。

 携帯電話は必要な時以外はずっと電源を切っている。東京に来たら、いつもの自分を忘れたくなった。とにかく山口での日常の生活から気持ちを離したかった。
 夫は多分連絡してきているだろうと思ったけど、絶対に出たくない。
 子ども達のことは考えるけど、もう大人だし、正月は元気だったし、何かあれば夫が何とかするだろうと思ったので、携帯のチェックすらしていない。

 何日か経って、夫から田原に電話がかかってきた。
 私は両手でバッテンして、田原に合図を送ったら、とっても上手にしらばっくれてくれた。田原、最高!

 しばらくして、たまには携帯をチェックしておこうと思って電源を入れたら、すんごくいっぱいの不在着信やらメールやら入ってる。麻智からも…。
 あいつ、麻智にも言ったんだ…と思った。この頃は、私の中で、“夫”ではなく“あいつ”になってた。

 ちょっと迷ったけど、子ども達には心配かけて申し訳ないと思い、麻智には連絡した方がいいかな?とは思っていた。
 でも、理由は電話で言うことでもないし、私の不安が払拭されない限り、子ども達には話せないと思った。
 その時ちょうど麻智から電話がかかってきて、かなり躊躇したけど、電話に出た。
「ごめん麻智、私は大丈夫やけえ、しばらく放っておいて欲しいの。もう少し時間経ったらまた連絡するけえ、それまで待って。」
と、それだけを伝えた。
 私の気持ちがグラグラ揺らいで、目的に集中出来なくなると思ったから、それからまた連絡を取らないと決めた。

 田原には[まいうい]ちゃんと連絡取ってもらうことにしたけど、田原が[まいうい]ちゃんに電話をかけると、[まいうい]ちゃんには繋がらず、電話番号が変わっていると判明した。なので、大変申し訳なかったけど[まいうい]ちゃんのアイドル時代に所属していた事務所にも連絡してもらった。でも今は連絡が取れないということだった。

 私は昔のアルバイト先を訪ねることにする。お店の名前は“マパドレ”。個人経営のファミリーレストランだ。お店はまだあったけど、オーナーも従業員も変わっていて、昔の人の情報は全然分からないと言われた。
 なんとか前のオーナーに連絡を取ってもらって、会ってもらえることになった。

 少し時間が開いたけど、後日元オーナーの自宅を訪ねる。
 元オーナーはすごくウェルカムな感じで出迎えてくれた。私のことをまだ覚えていてくれ、好印象で思っていてくれたことを嬉しく思った。
 元オーナーはもう80歳を超えたので、引退したとのこと。家族の中で跡を継いでくれる人がいなかったから、他の人に売り渡したので、自分の時代の書類は全部自宅に持ってきていたのだと言う。

「私はなかなか捨てられない性分でね、もうそろそろ処分しないとと思っていたんだけど、まだ出来てなくてね。ここにあるのは全部私の歴史だからさ。まあ、個人情報に関わるものは責任持ってちゃんとするつもりだよ。」
と言って、昔の履歴書のファイルと、葉書や手紙を出してきてくれた。

「えーっと、大高さんの書類だよね…?あったかなー?もう20年以上経つのか。早いなあ。あの頃の君たちは、皆仲良くて、店の雰囲気がとっても良くて楽しかったなぁ。
 でも、大高さんが急に辞めちゃったんだよね…。」
 元オーナーが履歴書をペラペラとめくりながら、懐かしそうに話する。

「あった、あった、これか。」
 元オーナーが大高さんの履歴書を探し当てた。
「うーん、大学時代に住んでたアパートの住所だけだね。それから、あの頃は携帯とかPHSとか持ってる子が少なくて、履歴書出してもらった時は家電いえでんだからねぇ、繋がるかどうか…?」

「ありがとうございます!ダメ元で連絡してみます。」

「前後になってしまったけど、理由…聞いてもいいかな?
 昔のことで、バイト仲間だけどさ、履歴書っていうのは見せちゃダメなものだからね。」

 確かにそうだ。一応、聞かれても大丈夫なように理由は前もって考えていた。

「あの…この前、実家の片付けしてたら、大高さんに借りてたものを見つけまして…。てっきり返したと思っていたんですけど、返せてなかったんです。
 あの頃のこと思い出したんですけど、大高さんが突然アルバイト辞めて、私は大学が違うので会うこともなく、連絡も取れなくなったので…。
 その借りてたものはアクセサリーなんですけど、結構な高価なものみたいだったので、見つけた以上はなんとかお返ししたいと思って…。」
 もちろん作り話だ。

「ああ、そうですか。横川千夏の旧姓さんは昔も真面目で律儀な人でしたからね、全然変わってないですね。」
 と元オーナーは優しく微笑んだ。

 私は嘘をついた事にすごく胸が痛んだけど、すみませんと心の中で一生懸命謝った。

 他に何か手掛かりが無いか、他の物も見せてもらう。
 ハッと目に止まったのは、大高さんと同じ大学に通っていた関口さんだ。

「そういえば、関口さんと大高さんて同じ大学で仲良かったんですよね。私も、関口さんともよく遊んでました。」

「あー、関口さんもいたね。関口さんは、そうそう、ウチの店で出会った森丘くんと結婚したんだったよね。」

「そうでしたね!すごいですよねー。」

「そういえば、関口さんからは“結婚しました”の葉書が届いたんですよ。嬉しかったなー。」
 元オーナーはその葉書を探して見せてくれた。

「うわー、懐かしい!2人共若いですよね!」
 私はその葉書も、写真を撮らせてもらった。

 丁寧に御礼を言って、元オーナーの家を出て、さっそく大高さんの履歴書の番号に電話する。案の定、“現在使われておりません”のアナウンス。
 まあ、そうだろう。
 
 一応、アパートにも行ってみたけど、アパート自体がもう無く、どこかの会社のビルになっている。
 さすがにここにはいないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...