たずねびと それぞれの人生

ニ光 美徳

文字の大きさ
37 / 41
是都〔ゼットロス〕の語り

第37話

しおりを挟む
 我啼がなく株式会社 創世部 部長 是都これと  梨基りき。山口県出身。

 これが俺の肩書きだ。

 地元の大学を卒業して、同じく地元の証券会社に就職する。入社するまで分からなかったが、今で言うブラック企業だった。
 証券会社なんて、どこもこんなもんだろうと思って、厳しいノルマや上司や先輩からの叱責にも耐え頑張ってみたものの、2年目で鬱病を発症し、退社した。

 退社する前に先輩に相談した時、
「たったの2年?そんなんで辞めるなんて、根性無いな。これだから今の若いモンは…。鬱病とかさ、気の持ちようだろ?
 怠け癖なんかつけたら、どこに就職したって結果は同じだ。次行ったってすぐ辞めるさ。」
と軽くあしらわれ、蔑んだ目で見られた。
 当時はパワハラ当たり前、鬱病なんて根性のない奴が会社を辞める言い訳とういう風潮の時代だったので、しょうがないと言えばしょうがない。

 でも俺は悔しかった。

 そりゃ、せっかく頑張ろうと思って入社したんだから、自分だってこのまま働きたいと思ってた。
 俺はすぐ辞めたいと思っていたが、この言葉が悔しくてもうしばらく続けることにした。逃げたと思われたくなかったからだ。
 
 気持ちを切り替えて営業に行った。そしたらすごく良い契約が取れた。
 俺は有頂天になって喜び勇んで会社に報告しようと思ってたのに、その先輩に横取りされてしまう。
「先に営業かけたのはオレだ。今回たまたまお前が行って契約になっただけで、本来ならオレが担当なんだ。それに、いつ辞めるか分からないお前には任せておけん。」
と、抗議した俺を睨みつけた。

 俺はそれで本当に心が折れた。

 結局そのまま退職となる。

 その時の先輩というのが、隅田だ。

 我啼に入社してから、ネットで隅田のサイトを見つけた時、心の奥底から湧き上がる怒りを抑え切れなかった。
 いつか、コイツをどうにかしてやるー。

 証券会社を退職した後、しばらくは鬱が酷く、働くことも家から出ることさえもままならなかった。

 それでも時間が心を回復させてくれて、少し体調が戻ってきはじめた。それに伴い、このままこの山口にいても駄目なんじゃないかと思うようになる。

 俺は貯金も殆ど無く、無一文の状態で上京することを決意する。
 当てがないこともなかった。大学時代の友人がゲームクリエイターとしてゲーム会社で働いているのだが、ほとんど家に帰れないくらい激務で、無駄にアパートを借りてるから好きに使っていいよと言ってくれたのだ。

 俺はその言葉に甘えて、友達の部屋を間借りし、東京で就職活動を始める。
 だけど、入社2年で退職した俺を拾ってくれる会社は無く、受けては落ち、受けては落ちを繰り返す。

 落ち込んで信号待ちをしてる時に、ガードレールに寄りかかっていた俺にぶつかってきた奴がいて、そのせいで俺が手に持っていた求人情報の雑誌がぶっ飛んでしまった。
 そいつは急いでいたのだけど、その雑誌を拾い上げて丁寧に謝ってくれた。
 俺はそいつにペコリと頭を下げ、黙って向こうへ歩いて行こうとしたら、
「あの、仕事探してますか?」
とそいつが追いかけるように声をかけてきた。
 それが、我啼株式会社を引き継ぐ少し前の現社長だった。

 現社長は俺より少し年上で、その当時は専務だ。専務なのにフットワークが軽い感じで、しっかり日に焼けた肌は汗でキラキラしていた。汗なんて、ジトジトとして嫌なものだが、その時の彼の汗はとても輝いていたのだ。
 専務は初めて会ったにも関わらず、新しいことを始めていきたいと、冴えない顔をした無職の俺に熱く夢を語ってくれた。

 この人は好きだ。
 この人の会社に入りたい。

 俺にも専務の熱い情熱が乗り移って、すごくやる気が出てきた。
 後日、本当に専務から連絡が入り、会社で面接を受け、見事に採用された。

「気になる芸能事務所があってね、そこと提携したいと考えてるんだ。その事務所はいい子がいっぱいいるんだけど、人員不足で上手く仕事が回ってないんだ。
 君の前職の営業は、きっとその事務所で生かされると思うんだ。
 だから、出向という形で、その事務所でマネージャーという仕事をしてほしい。期待してるよ。」
と専務直々にお願いされた。

 俺には断る理由など無い。全力で働く。

 テレビ関係者やイベントの会社に頭を下げて回り、いろんな仕事を勝ち取ってくる。オーディションを受けさせたりスケジュールを組んだり、タレントの卵たちが現場に行く時付き添ったり、業界の人に新たなコンタクトを取ったり。
 兎に角、担当の子の仕事が上手くいって、どんどん仕事が増えるように頑張った。

 あるアイドルグループを担当することになる。
 この子達は、最初こそ下手に出て可愛らしいところもあったが、ちょっと売れてきだすと、段々と我が儘になり、俺の事を執事か下僕のような扱いをしてくるようになった。
 マネージャーとして、まだ若い彼女らを教育しなければならないのだが、俺の言う事は聞きもしない。
 挙げ句の果てに、影で俺のことを『コメ付きバッタ』と揶揄してることを知った。
 
 それが1グループだけではない。担当が変わり、いくつかのグループを受け持ったけど、やっぱり女子は俺のことを馬鹿にするようになるのだ。

 アイドルはクソだ。

 いつかこんな奴ら…

 そう思いながら、俺は専務の為にと思って、怒りを抑えて顔では笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...