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第1話
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カラーン
「おはようございまーす。」
夜7時が菜々子の出勤時間。お店のドアを開けて店に入り、先に来て開店準備をしているママに挨拶する。
「ねえ、ママ、夜から仕事するのに、なんで『おはよう』なの?」
「この業界は昔から『おはよう』なの。何でかしらね?でも、今じゃどんな仕事の人でも、出勤してきたら『おはよう』のはずよ。ナナちゃんはバイト初めてなんだっけ?高校生でバイトしてる子だって、バイト先では『おはよう』だと思うよ。」
「そっか。あーあ、私も高校の時からバイトしとばよかったなー。初めてのバイトが夜のスナックって、他にいるかな?人生経験無さ過ぎて、私大丈夫かなー?お酒も飲めないのに。って、図々しくバイトの募集で来たけどね。」
「大丈夫!ナナちゃん可愛いし、まだ19歳で若いし。ここに来るお客さんは皆喜んでるよ。お酒なんて、飲めない方がいいのよ。下手に飲めると大変よ。20歳超えたって『私飲めないんですー』って言った方がいいわよ、絶対。」
「でもさ、売上に貢献できないよ。」
「いいの。ナナちゃんはお客さんの話聞いてにっこり笑ってるだけで十分!それより、勉強の方は頑張ってる?大学生なのに、バイトもして大変でしょ?」
「うん、勉強頑張ってるよー。学生の本分だからね。」
「そっかー、まあ、若いうちは多少の無理はきくけどね。無理しすぎないで頑張って。しんどい日は休んでいいからね。」
「ありがとう、ママ。」
奈々子は田舎の大学に通っている。都会なら大学生が夜のバイトするのは珍しくないだろうけど、大学から結構離れた場所にあるこの店では女子大学生は珍しいらしく、大事にしてくれる。ママだからなのかもしれないけど。
カラーン
入口のドアが開く音がした。
「もう、いい?」
さっそく一人目のお客さん。
「いらっしゃいませー。」
「日永田さん、今日も早いね。」
「だって、今日はナナちゃんの出番でしょ?遅く来たらなかなかナナちゃんと話せないからさー。店に入れないときもあるし。仕事終わってすぐ来たよ。」
日永田さんは35歳で会社員の普通の男性。とっても優しくて話やすい。顔もいい方だと思う。なのに未婚、結婚歴なし、彼女ナシ。
「何度も言うけど、ナナちゃん口説いちゃダメよ。私で我慢しなさいね。」
ママは皆にそう言う。冗談っぽく言うけど、結構本気の目をしてる。
「口説かないよー。ママ怖いよ。俺は、ナナちゃんの保護者だからさー。子どもいないけどね。ほら、ここの店、変なやつも増えちゃただろ、俺が守ってあげないとね。」
日永田さんのキープのお酒をセットしていると、また次のお客さん。
「あー、残念。1番じゃなかった。日永田さん、今日も早いね。」
「蓋目さん、今日も来たんだ。最近よく会うね。」
この店に来るお客さんはほとんど常連さんばかり。常連さん同士は割と仲がいい。
8席あるカウンターは30分しないうちに満席になる。ボックス席は4人席と6人席の2つ。居酒屋で1次会をして、多少ご機嫌で来るグループの人たちがその席に座る。カウンターに座るひとはほとんど1人か2人で来てる人になる。カウンターの人たちもほとんどはどこかで食べたり飲んだりした後に来るけど、奈々子が出勤の日はすぐに満席になる。
ママは、
「ナナちゃんにはボックス席は絶対座らせないから!ボックスの奥の席なんてもってのほかだから!」
と、守ってくれる。だからボックスはママの担当。
ボックスにお客さんが入ると、奈々子は1人でカウンターを任される。もう1人くらいバイトの子がいてくれると助かるのだけど、夜の仕事はなかなかいい子がいないそうだ。
「ナナちゃん来るまで、この店ほとんど客いなかったよ。」
と常連さんは言う。
「またまたー」
奈々子は返しづらい言葉に、はにかんだ笑顔で答える。
最初は奈々子を喜ばせる冗談かと思っていたけど、どうやら本当っぽい。奈々子が来るまで、ママ1人でも十分回っていたのだ。
「ナナちゃん、大学生でしょ?お母さんとか知ってる?反対しないの?」
どの常連さんも聞いてくる。
「うん、お母さんには内緒なの。」
「おはようございまーす。」
夜7時が菜々子の出勤時間。お店のドアを開けて店に入り、先に来て開店準備をしているママに挨拶する。
「ねえ、ママ、夜から仕事するのに、なんで『おはよう』なの?」
「この業界は昔から『おはよう』なの。何でかしらね?でも、今じゃどんな仕事の人でも、出勤してきたら『おはよう』のはずよ。ナナちゃんはバイト初めてなんだっけ?高校生でバイトしてる子だって、バイト先では『おはよう』だと思うよ。」
「そっか。あーあ、私も高校の時からバイトしとばよかったなー。初めてのバイトが夜のスナックって、他にいるかな?人生経験無さ過ぎて、私大丈夫かなー?お酒も飲めないのに。って、図々しくバイトの募集で来たけどね。」
「大丈夫!ナナちゃん可愛いし、まだ19歳で若いし。ここに来るお客さんは皆喜んでるよ。お酒なんて、飲めない方がいいのよ。下手に飲めると大変よ。20歳超えたって『私飲めないんですー』って言った方がいいわよ、絶対。」
「でもさ、売上に貢献できないよ。」
「いいの。ナナちゃんはお客さんの話聞いてにっこり笑ってるだけで十分!それより、勉強の方は頑張ってる?大学生なのに、バイトもして大変でしょ?」
「うん、勉強頑張ってるよー。学生の本分だからね。」
「そっかー、まあ、若いうちは多少の無理はきくけどね。無理しすぎないで頑張って。しんどい日は休んでいいからね。」
「ありがとう、ママ。」
奈々子は田舎の大学に通っている。都会なら大学生が夜のバイトするのは珍しくないだろうけど、大学から結構離れた場所にあるこの店では女子大学生は珍しいらしく、大事にしてくれる。ママだからなのかもしれないけど。
カラーン
入口のドアが開く音がした。
「もう、いい?」
さっそく一人目のお客さん。
「いらっしゃいませー。」
「日永田さん、今日も早いね。」
「だって、今日はナナちゃんの出番でしょ?遅く来たらなかなかナナちゃんと話せないからさー。店に入れないときもあるし。仕事終わってすぐ来たよ。」
日永田さんは35歳で会社員の普通の男性。とっても優しくて話やすい。顔もいい方だと思う。なのに未婚、結婚歴なし、彼女ナシ。
「何度も言うけど、ナナちゃん口説いちゃダメよ。私で我慢しなさいね。」
ママは皆にそう言う。冗談っぽく言うけど、結構本気の目をしてる。
「口説かないよー。ママ怖いよ。俺は、ナナちゃんの保護者だからさー。子どもいないけどね。ほら、ここの店、変なやつも増えちゃただろ、俺が守ってあげないとね。」
日永田さんのキープのお酒をセットしていると、また次のお客さん。
「あー、残念。1番じゃなかった。日永田さん、今日も早いね。」
「蓋目さん、今日も来たんだ。最近よく会うね。」
この店に来るお客さんはほとんど常連さんばかり。常連さん同士は割と仲がいい。
8席あるカウンターは30分しないうちに満席になる。ボックス席は4人席と6人席の2つ。居酒屋で1次会をして、多少ご機嫌で来るグループの人たちがその席に座る。カウンターに座るひとはほとんど1人か2人で来てる人になる。カウンターの人たちもほとんどはどこかで食べたり飲んだりした後に来るけど、奈々子が出勤の日はすぐに満席になる。
ママは、
「ナナちゃんにはボックス席は絶対座らせないから!ボックスの奥の席なんてもってのほかだから!」
と、守ってくれる。だからボックスはママの担当。
ボックスにお客さんが入ると、奈々子は1人でカウンターを任される。もう1人くらいバイトの子がいてくれると助かるのだけど、夜の仕事はなかなかいい子がいないそうだ。
「ナナちゃん来るまで、この店ほとんど客いなかったよ。」
と常連さんは言う。
「またまたー」
奈々子は返しづらい言葉に、はにかんだ笑顔で答える。
最初は奈々子を喜ばせる冗談かと思っていたけど、どうやら本当っぽい。奈々子が来るまで、ママ1人でも十分回っていたのだ。
「ナナちゃん、大学生でしょ?お母さんとか知ってる?反対しないの?」
どの常連さんも聞いてくる。
「うん、お母さんには内緒なの。」
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