まわりみち

ニ光 美徳

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第3話

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 朝、母はちゃんと起きてきて、奈々子と弟のご飯を用意する。

「おはよう。」
いつもの普通の挨拶。

 何も気付いていない様子の母に、奈々子は少しホッとする。

「行ってきまーす!」
元気な奈々子と、ゲームのし過ぎか勉強でもしてるのか、ボーっとしてる弟が家を出る。

 母は優しく微笑んでいる。

 半年が過ぎた。

 最初の頃感じていた母への罪悪感は薄くなっていた。
 同じ大学生の中にちらほらと、夜のバイトをしている子を知るようになったことと、奈々子が夜の世界に慣れてきたこと。20歳を過ぎて、サークルの飲み会でも少しお酒を飲むようになると、夜の街がずっと身近なものに感じられるようになった。
 服装も少し派手になり、化粧も上手になっていった。

 “大学生って、こんなもんだよね。こうじゃなきゃ楽しくないよね。”

 20歳を超えた頃から、閉店までお店にいるようになり、夜遅くまで出歩いてるせいで、寝坊が増えた。

「おはよう。」
もそこそこに、母の作る朝ごはんも食べず、やっと大学へ行く日も多くなった。

 母はあきれたような怪訝な顔をしている。

「おはようございまーす。」
夜7時、奈々子がバイトに出勤する。
 
「おはよう、ナナちゃん。今日は大学どうだった?」
 ママはお客さんが来るまでの間、いろんな話を奈々子に聞いてくる。

 とっても楽しそうに話しを聞いてくれるから、この開店準備の時間が大好きだ。
 学校のことや友達、過去の恋愛とか、悩みとか、ママには何でも素直に話せるからすごく楽しくて居心地がいい。この店に来る、大きな理由の一つだ。
 今日はどんな話をしようかと、ママの手伝いと掃除をしながら考えていると、

カラーン
と扉が開く音がした。

「早かった?」
 常連の日永田さんは今日も早い来店だ。
キープのお酒を出して準備する。

 常連さんたちは、20歳を過ぎた奈々子にもお酒を勧めるが、ママの言いつけで今だにお酒は飲めないことになっている。

「ねー、ナナちゃん、そろそろさ、俺とデートしてよ。」
「ちょっと、ナナちゃん口説いちゃダメって前から言ってるでしょ。」

「だってさー、もうここ来て半年くらい経ったしさ、ナナちゃん20歳超えたでしょ?そろそろ誘っても良くない?」
 デートに誘われることも毎回だ。

 ママは前と変わらず奈々子の代わりに断ってくれるが、ママがボックス席について、奈々子がカウンターで一人の時はとっても大変だ。断るのに苦労する。

 20歳の誕生日を迎えたとき、“奈々子の誕生日会”と銘打ってお客さんを呼んでいたから、常連さんは皆知っている。だから大半の常連さんは誘ってくる。

 未成年の時と成人してからではこうも変わるのか、っていうくらいグイグイ来る人もいる。

 お酒の味も多少覚えてきた今、シラフでお客さんの相手をするのもしんどいと感じる日が多くなってきた。

ママに、
「そろそろお店でお酒飲みたいなー。」
と言ったことがあるけど、
「ナナちゃん、お酒飲めるようになったみたいだし、気持ちは分かるけど、最近のナナちゃん見てて、慣れてきて、少しこの世界にも染まってるように思うの。
 そりゃお酒飲んで売上あがれば嬉しいけど、ナナちゃんのいいところはお酒飲むことじゃないのよ。普通にお酒飲んで、上手に相手する綺麗な女の子はこの辺でもいくらでもいるの。
 でも、普通のお嬢さんみたいな雰囲気なのはナナちゃんだけだと思うから。もう少し飲むの我慢してね。」
とやんわり断られた。

 このお店の常連さんはチヤホヤしてくれるし、自分でも割と可愛い方なんじゃないかと思っていたから“普通のお嬢さん”は少しショックだった。

「常連さんに毎回誘われるけど、1回くらい同伴とかダメですか?断るのも申し訳なくて。」
と言ったこともあるけど、
「それは絶対ダメ。1回行ったら何回でも誘われるし、エスカレートしてくるよ。それを断る方がもっと大変になるよ。
 他のお客さんに知れちゃったら、他のお客さんも断れなくなるし。下心ある人と、もし万が一“そういう関係”になったりでもしたら、目的が済んだらもう店に来なくなるからね。
 そしてさらに他のお客さんも来なくなる。
 だから私と一緒ならいいけど二人っきりはダメよ。お客さんはお店の中だけのお付き合いにしてね。
 断りにくくなったら私を呼んで。」
と言われた。
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