日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第3章 芒種

21.怪談(一)

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「キクちゃんの話って……キクちゃんが現れたことについてだよね?」
「ああ、そうだ。前の借主のさらに前の話になる。この家で起こった昔話だ。俺は爺ちゃんから聞いただけだから、詳しくは知らないけどな」
「……怖い話?」
「当たり前だ。怪談だって言ったろう」
「じゃあ、いいです」
「何だよ今さら。お前、キクのことをずっと聞きたがっていたくせに。いいから聞いておけ」
「訊いてもマコちゃんが今まではぐらかしてきたくせに。なに開き直ってんだよ。なんかマコちゃん怖いんだけど」
「怖いのはこれからだ」

 言い方にとげがある。
 僕がタンポポで茶化したことを実は怒っているのかもしれない。

「昔、ここに両親と中高生くらいの子供が住んでいた」

   誠は一方的に話しはじめた。

「親は共働きで、片方が単身赴任中だった。子供はずっとひとり暮らしに近い状態だった」
「あの、大家さんの守秘義務は……」
「昔話だから時効だよ、時効」

 誠は、話の腰を折るなと言わんばかりにため息をついて続けた。

「ある日の夜、ひとりで家にいた子供が倒れた。心臓か血管の病気だったらしい。発見が遅れたものの、手術で命は助かった。幸い後遺症もなかった。ただし、再発の可能性があるという。両親は一時的に休職したが、しばらくするとまた家に子供ひとりの状態になった。その後何事もなく一年くらいが過ぎて、このまま大丈夫じゃないかと両親が安心し始めた時に、子供は再び家で倒れた」
「え?  まさか、ここが事故物件に?」
「いや、それはかわいそう過ぎるだろ」

 あきれ顔で僕を見る誠は、僕が怖がってつい変なツッコミを入れるのは許してくれるようだ。

「子供は自分で救急車を呼んで、今度はすぐに入院できた。そうしてまた無事に退院したが、さすがに家でひとりにしておけない。食事の制限やらリハビリやら、生活全般に管理が必要な状態でもある。それで子供は祖父母の家に預けられることが決まり、家族はここから引っ越した。おしまい」
「とりあえず子供は死なずに済んだんだね。良かった。でもキクちゃんは?」
「ああ、怖い話はここからだから」
「へ?」
「今のは事実を追っただけだ。これを子供の視点にしてみると、それこそ怪談だ。勝手な想像も多いが、大きく外してはいないと思う」

 僕が怖がっていることに誠は満足そうだった。

「最初に子供が倒れた時、家には誰もいなかった。子供は死にかけるほどの苦しみをひとりで耐えていた。倒れたのが夜遅かったから、発症直後に親が帰宅してすぐ救急車を呼んだ。それで死なずに済んだ。後遺症もなかった。それは良かったが、退院後に親が家にいたのは短期間だけで、またひとりの生活だ。しかも、医者からは再発の可能性があると脅されている。運動を控えるようにも言われてしまった。倒れた時の孤独と絶望は、既に心に刻まれてしまっている。恐怖しかないだろう。再びあの苦しみに襲われるかもしれない。誰にも気づかれずに死ぬかもしれない。当然、死を覚悟する。そんな状態の中、子供は庭で花を育て始めた。あまり外を出歩けないし元々花が好きだったから、花を育てたとしても特に不思議はないだろう。ただし、気分転換が理由ではない。植えたのは菊だ」

 僕は、はっとして誠を見た。
 この家の庭に菊を植えたのは誠だ。これは誠自身の話なんだ。

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