日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第3章 芒種

22.怪談(二)

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   誠は僕と目が合っても顔色ひとつ変えなかった。

「それがキクちゃんの本体……」
「そうだ。でも、なぜ菊だったかわかるか?  子供が菊を選んだのは、自分が死んだらその花を供えてもらうためだ。子供は単純だよな。仏壇には菊のイメージしかなかったんだな」

 誠は自嘲気味に笑った。

「子供は菊に話しかけた。お前は自分のための花だ。自分の死後もずっと咲けと。供えの花として、いつまでも咲き続けろと念じて育てた。精神的に相当病んでいたのだろう。自分の死後のために花を育てることが、生きる気力になっていた。まともじゃないな」
「……それでキクちゃんが現れたのか」
「キクが人間の姿で現れたのは、二度目の入院から戻った時だ。……たぶんな。キクがそう言っていた。自分は強く望まれたと。ただ一つの目的のために、ここで咲き続けることだけを宿命として存在していると」
「だから、子供が引っ越してもキクちゃんはここに存在し続けている……」「もし子供の存在が消えても、キクは変わらずここにいるのだろうな」

 キクは言っていた。自分は誠のために存在すると。
 それが誠にとっての救いなのだろうか。望みなのだろうか。
 誠の声はあまりにも穏やかだった。穏やか過ぎて、僕にはそれが怖かった。

「さてと。時間も遅いし、そろそろ俺はおいとまするから」
「え?  何?  散々怖がらせておいて、いきなりこんな夜中に僕ひとり置いて帰っちゃうの?  ありえないでしょ。しかもここ事件現場だよ?」
「いや、ここはお前の家だろ。事件じゃないし」

 誠はさっさと玄関に向かっていた。僕は慌てて後を追った。

「待って、マコちゃん。ひとつ教えて。その子供は祖父母の家に行ったんだよね。株分けっていうのかな?  菊を鉢植えとかにして持って行ったのかな?」
「さあな。それだけ執着していたのだから、当然持って行ったんじゃないのか?」

 それなら大家さんの家で見かけたのは、やはりキクだ。僕の庭と同じ菊があるから、キクは向こうにも現れることができるのだろう。
 キクは、いつも誠の側にいる。
 誠の強い思いを反映した、誠の願いを叶えるためだけの存在……。
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