日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

文字の大きさ
27 / 38
第4章 大暑

27.菊(一)

しおりを挟む
「キクちゃんを連れて行く?」
「はい。私は、私のあるところにしか存在できません」
「……菊の葉を届ける、か」

 キクが誠に会うことを望んでいる。
 それは誠のためなのか、キク自身の想いなのかはわからない。でも、その二択ならどちらも僕が断る理由にはならない。

「わかった。とにかく大家さんの家に行こう」

 大家さんの家の門扉は開いたままだった。一度病院から戻って来たというから、必要な物を持ってまた病院に向かうのだろう。
 昨日の夕方に宿泊合宿から戻った僕が、誠の入院を知るはずがない。キクから聞いたとはもちろん言えない。
 大家さんたちには申し訳ないが、何も知らないふりをしてインターホンを鳴らした。

「一郎君?」

 インターホンではなく、敷地の奥から婆ちゃんの声がした。
 丁度家を出るところだったらしい。婆ちゃんと一緒に来た大家さんは、僕が会釈するとにっこり笑ってそのまま門扉近くに停めてある車に向かった。

「一郎君、合宿だったんですって?  いつもの曜日にレジにいないから、みんながっかりしていたわよ」

 婆ちゃんはいつもと変わらない様子で話しかけてきた。

「昨日帰って来たんです。あの、マコちゃんは……」
「ごめんなさいね。ちょっと入院しちゃって、しばらく会えそうにないの」
「あ……え、と……」

 婆ちゃんに何と言えばいいのかわからなかった。大家さんも婆ちゃんも全く動揺したところがない。むしろ淡々とし過ぎているのだ。かえって深刻な事態なのかと邪推してしまう。

「大丈夫よ。マコは持病があって前にも入院しているの。私から一郎君に詳しいことを話すのは、その、マコが……」
「あ、いいんです。マコちゃんが退院してから、マコちゃんが話してくれそうだったら直接訊きます。ただ、前に入院したことがあるとは聞いています。中高生くらいの頃だとか」

 少し嘘だ。誠は入院したのが自分だとは言っていない。

「そうなのね。でも、最初に入院したのは大学入学直前だったはずよ」
「え?」
「あ、これは言ったらダメだったのかしら……結局大学に行けなくて、すごく残念そうだったのよ。マコには内緒ね」

 キクが婆ちゃんの後ろにスッと立って僕の視界に入った。じっとこちらを伺っている。

「あの、大変な時にお邪魔しました。これからマコちゃんのところへ行かれるんですよね。だったら、これを……」
「あら、御守り?」
「母からもらって、いつも身につけているんです。僕はものすごく元気なんで、今だけマコちゃんに貸します。マコちゃんが大変なのに僕は何もしてあげられないから……。でも、こんなの渡すのは恥ずかしいので、マコちゃんにバレないように荷物のカバンのポケットとかにこっそり入れていただけたら嬉しいんですが……。いきなりですみません」
「ふふふ。わかったわ。お預かりします」

 婆ちゃんは僕が差し出した御守りをそっと受け取った。軽く触れた指先が、驚くほど冷たかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

見えない戦争

山碕田鶴
SF
長引く戦争と隣国からの亡命希望者のニュースに日々うんざりする公務員のAとB。 仕事の合間にぼやく一コマです。 ブラックジョーク系。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 『月のトカゲを探す者』第一部(全三部)。 (表紙絵/山碕田鶴)  

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

くらげ のんびりだいぼうけん

山碕田鶴
絵本
波にゆられる くらげ が大冒険してしまうお話です。

処理中です...