日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第4章 大暑

28.菊(二)

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「あのっ、婆ちゃんは?  婆ちゃん大丈夫なんですか?  昨日からずっとで……」

 婆ちゃんは、またふふっと笑って僕を見た。

「大丈夫よ。これくらいじゃあ老けないから。私はこれから千年生きるのよ。ありがとう、一郎君。あなた三十年くらいしたら、びっくりするくらいイイ男になるわね」
「三十年……」

 僕は大家さんたちが出発するのを見送って、家に戻った。



「これでたぶんキクちゃんは、マコちゃんに会えると思うよ」
「ありがとうございます」

 僕は菊の葉を詰めた御守り袋を婆ちゃんに渡した。葉が枯れる前に誠の病室に届くはずだ。

「菊の花が咲く前に、マコちゃん帰ってくるかなあ」

 庭の菊を見ながら、隣にいるキクに言うでもなくつぶやいた。茎の先端には花の蕾が小さくつき始めている。
 当分面会はできないだろう。倒れたことを僕に知られたくないようだから、面会自体拒否されそうだ。
 はあっとため息をつくと、キクが静かに微笑んだ。

「イチロウさんは、菊の花が見たいのですか?」
「もちろん。あ、ここにあるキクちゃんの菊の花だよ。僕が一番上の芽をせっせと摘んだから、花がいっぱいになるんでしょう?  マコちゃんと一緒に見たいんだよね。利用されたって言って僕のことを笑ったからさ。満開になったら、ほらどうだ結果が全てだーって言ってやりたい」
「見ることはできません」
「え……。やっぱり無理?」
「はい」
「そうかあ。キクちゃんが言うなら、きっとそうなんだろうね。マコちゃん、いつ退院できるかな……」

 はあ。僕はもう一度ため息をついた。
 三十年。ふと婆ちゃんの言葉を思い出した。三十年後か。明日も三十年後も、何が起こるかわからないことには変わりないな。

「キクちゃんは、永遠に存在するのかな」
「イチロウさんは、自分がいつまで存在するかご存知ですか?」
「知らない。……キクちゃんも同じか。ごめん。とにかく僕は、マコちゃんやキクちゃんに出会えてよかったよ。もう、いるのが日常なんだよね」
「そうですか」

 キクは素っ気なく言った。いつものことだ。
 いつものことだった。
 その日以降、キクは姿を現さなくなった。
 そして、庭の菊が枯れた。
 キクの言ったとおり、花を見ることはできなかった。
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