日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第5章 霜降

29.幽霊(一)

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 毎月一回大家さんの家に家賃の支払いに行くと、たいてい近況を訊かれる。そのまま世間話になって、何かあったらいつでも言って下さいと笑顔で締めくくられる。
 誠の入院前も、その後もそれは全く変わらない。

「それじゃあ、河西さん。お世話様です」
「はい。失礼します……」

 今月も、誠のことは訊けなかった。
 訊いてくれるなという無言の圧力ではなく、お互いに話してはいけない暗黙の了解的な雰囲気を感じてしまうせいだ。よくわからないが、また負けた気がする。大家さん恐るべし。
 誠が入院してから、もうすぐ三ヶ月になる。さすがにとっくに退院していると思うけれど、大家さんも婆ちゃんも何も言わない。
 そもそも大家と借主の関係で、誠とも知り合い程度なら、病気や入退院の話なんてわざわざしないだろう。
 僕と誠はその程度のつきあいだったのか。そう思うと少し悲しい。
 唯一の接点だったキクも、いない。

「河西君の家、ホント広いよね」
「ここだけ他の借家と違ってスゲー緑多くない?」
「あ、それ私も思ったー」
「はい、とりあえずお茶どうぞ。近所に音が響くから、あんまり騒がないでね」

 今日は、学科の友人たちがウチでレポートをやると言って遊びに来ている。普通の住宅地なので夜に宴会はまずいが、夕方からの勉強会なら許されるだろう。
 久々に大人数だ。
 久々と感じる自分がおかしくなる。大人数だったのは、キクや四兄弟がいた時の話だ。

「河西、園芸趣味なの?」
「いや、全然。庭は僕が借りた時からこうだった。あと、やたらと植物が多いのはパワースポットだからだって言われた」
「何それ?」
「スピリチュアル系が好きなの?」
「そういうのも全然……」

 そういうのが僕の日常だっただけだ。

「そういえば、私の友達が最近この近所で幽霊を見たって」
「幽霊⁉︎」

 全員が一同に声をあげた。一ミリも信じていない、からかい口調だ。

「あの、夏過ぎてウチで怪談はやめて欲しいんだけど。みんな、信じないのにこの手の話が好きだよね」
「あ、河西君怖がり?  大丈夫だって。全然怖くないから。だって、みんなが見たいって言っているイケメン幽霊の話だもの」
「イケメン幽霊⁉︎」

 僕を含めてここにいる男三人が、揃って半ばあきれたように反応する。

「あー、私も聞いた、それ。結構噂になってる」
「でしょ?  バイト帰りにこの辺を通った子が幽霊を見たって。何人か言ってる」
「……どんな、幽霊?」
「何?  河西君だって興味あるんじゃない」
「いや、だってこの近所だって言うし」

 僕はつい訊いてしまった。でも、怖い話は本当に勘弁して欲しい。
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