日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第5章 霜降

30.幽霊(二)

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「結構遅い時間に、全身黒づくめでフードを被った長身の幽霊とすれ違ったんだって。で、顔を見るとすっごい美形の若い男なんだって」
「それのどこが幽霊なんだよ?」

 僕の横からヤジが飛ぶ。ただのイケメンじゃんと男性陣が揃って茶化す。

「生きている感じが全くなかったんだって。気配とか音とかがいっさいなくて、すぐ横をすれ違ったのに、気づいていないみたいにスーッと行っちゃったって。見た人の証言は同じらしいよ」
「あの、その幽霊って銀髪?」
「えー?  それは聞いていないけど。ひょっとして河西君も見たことがあるとか?」
「え……いや。似たような人が……」

 思い当たるのは一人しかいない。既に退院して自宅にいるのならば、この近所で目撃されていてもおかしくはない。
 もしそれが本当に誠だったら、何か深刻な状況ではないのか。



 夜遅くに友人たちが帰ってから、僕は庭に出た。夜風が冷たい。
 幽霊の話は、誠のことだとしか思えない。本当に人騒がせで迷惑だ。
 こんな夜中に、誠は人目を避けて散歩でもしているのか?
 僕は何も知らない。
 天上に月が見えた。今日は十三夜だったか。
 十三夜の月に願えば叶うと聞いたことがある。お供えはないし、気休めでしかないけれど、僕はそっと月に願った。
 どうかマコちゃんに会えますように。
 縁側に座って庭を眺める。虫の声しか聞こえない。本当に静かだ……



 ……シャリッ、シャッ……
 静かに、ゆっくりと砂利を踏む音がした。
 僕は縁側に座って吐き出し窓に背をつけたまま、ウトウト寝入ってしまったらしい。足音を感じて、少しずつ目が覚めてくる。
 黒い影が近づくのがわかった。影は僕の前で足を止めると、そのまま僕を見下ろしている。本当に、気配も音もなくそこにいる。
 今日聞いた幽霊に違いない。
 でも、幽霊に足音なんてないだろう?
 どうしよう。今さら起きられない。
 薄眼を開けてみたけれど、フードを被っていて顔は見えなかった。
 すっと伸びてきた手が、僕の頭と肩に触れた。

「こんなところで寝ていたら、風邪を引くぞ」

 ゆっくりと、かすれるような小さな声で言うと、黒い影は静かに薄眼の視界から消えた。

「マコ……ちゃん……」

 まるで初めてキクと会った時のような感覚だった。
 そこにいるのに、いない。遠い幻。
 なんで直接会いに来ないんだよ。
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