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第6章 小雪
38.春を待つ <完>
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「キクちゃんって黒が似合うよね。でも、もうちょいカワイイとかカッコいいとかでも良くない? まあ、喪服がマコちゃんの趣味なら仕方がないけどさ」
冬の日の出は遅い。七時近く、やっと外が明るくなってから庭に出るのが最近の僕の日課になっている。
庭に出て、毎朝菊に話しかける。
誠が教えてくれたとおり、菊は強い。寒さにも負けず、既に地際に緑の葉が見える。
目の前の菊にキクの気配は感じないし、話しかけたらどこかでキクが聞いているとも思わない。僕の記憶の中のキクに話しかけているだけなのだが、すっかり習慣化している。
キクはいつか戻ってくる。その思いは変わらない。
この時間、誠は毎日近所を散歩しているらしい。
退院後しばらくは人目を避けて夜遅くに散歩していたけれど、幽霊騒ぎで中止したという。誠は自分が幽霊にされていることを知らなかったようだが、日に日にすれ違う人が増え、あとをつけられている気もしたという。
幽霊にストーカーする人の気が知れない。
誠とは、僕が庭にいる時に見かければ声をかける程度のつきあいだが、それで結局毎朝会っている。
「おはよう。今朝は何をしているんだ?」
散歩帰りの誠が、庭に入って来た。
「菊に、雑誌を見せているのか? ファッション誌?」
「マコちゃん、おはよう。これ女子高生とかに人気らしいよ。妹に借りた」
誠はしゃがんでいた僕の上から手を伸ばすと、開いたままの雑誌を僕の手元から抜き取った。
「は? ゴス……ロリ? お前、こういうのが好きなの?」
「違うけど、キクちゃんに。さすがに喪服はかわいそうかなって。黒が似合っていたけれど、もうちょっとかわいい服にしてあげたいでしょ。だからこうして見せているの。次に現れる時はこんな格好でどうかなって」
「やっぱりお前の趣味だろ」
「マコちゃんがセンスなさ過ぎだからだよ! なんで自分だけカッコいいのかわからない。あ、そうか。マコちゃんに見せておけば、マコちゃんが想像してキクちゃんに反映されるのか。それ見て勉強して」
「なんで俺が」
「えー? マコちゃんはやっぱり喪服がいいんだ。なんかえっちぃよね」
「お前ホント、バカだろ」
誠はため息をつきながら、しっかり雑誌の写真を見ていた。
「マコちゃんってさ、実は忙しかったんだね。リハビリで病院に通ったり、運動で散歩したり。なんか食事とか気を使ったり。見た目じゃわからないから、ただのニート呼ばわりしててごめん」
「婆ちゃんに聞いたのか? 別にただのひきこもりだろ? どうせあんまり動けないしな。まあでも、今は一応大学生だ。通信制の、始めたから」
「そうなんだ。あ……大学入学直前に入院しちゃって、結局通えなかったんだっけ?」
「それも婆ちゃんか? まあ昔の話だよ、お前の先輩だったかもっていうのは」
寒いから帰ると言って、誠は雑誌を僕に返した。
「ねえ、マコちゃん。タンポポは? 頭、タンポポには戻さないの?」
「そうだなあ。春になったら、戻すかな?」
誠はこめかみに手を当てると、少し伸びた黒髪をつまんで引っ張ってみせた。
黒髪の誠が笑うと、キクの笑顔と重なった。
誠も待っている。
春になったら、またキクに会えるような気がした。
<完>
冬の日の出は遅い。七時近く、やっと外が明るくなってから庭に出るのが最近の僕の日課になっている。
庭に出て、毎朝菊に話しかける。
誠が教えてくれたとおり、菊は強い。寒さにも負けず、既に地際に緑の葉が見える。
目の前の菊にキクの気配は感じないし、話しかけたらどこかでキクが聞いているとも思わない。僕の記憶の中のキクに話しかけているだけなのだが、すっかり習慣化している。
キクはいつか戻ってくる。その思いは変わらない。
この時間、誠は毎日近所を散歩しているらしい。
退院後しばらくは人目を避けて夜遅くに散歩していたけれど、幽霊騒ぎで中止したという。誠は自分が幽霊にされていることを知らなかったようだが、日に日にすれ違う人が増え、あとをつけられている気もしたという。
幽霊にストーカーする人の気が知れない。
誠とは、僕が庭にいる時に見かければ声をかける程度のつきあいだが、それで結局毎朝会っている。
「おはよう。今朝は何をしているんだ?」
散歩帰りの誠が、庭に入って来た。
「菊に、雑誌を見せているのか? ファッション誌?」
「マコちゃん、おはよう。これ女子高生とかに人気らしいよ。妹に借りた」
誠はしゃがんでいた僕の上から手を伸ばすと、開いたままの雑誌を僕の手元から抜き取った。
「は? ゴス……ロリ? お前、こういうのが好きなの?」
「違うけど、キクちゃんに。さすがに喪服はかわいそうかなって。黒が似合っていたけれど、もうちょっとかわいい服にしてあげたいでしょ。だからこうして見せているの。次に現れる時はこんな格好でどうかなって」
「やっぱりお前の趣味だろ」
「マコちゃんがセンスなさ過ぎだからだよ! なんで自分だけカッコいいのかわからない。あ、そうか。マコちゃんに見せておけば、マコちゃんが想像してキクちゃんに反映されるのか。それ見て勉強して」
「なんで俺が」
「えー? マコちゃんはやっぱり喪服がいいんだ。なんかえっちぃよね」
「お前ホント、バカだろ」
誠はため息をつきながら、しっかり雑誌の写真を見ていた。
「マコちゃんってさ、実は忙しかったんだね。リハビリで病院に通ったり、運動で散歩したり。なんか食事とか気を使ったり。見た目じゃわからないから、ただのニート呼ばわりしててごめん」
「婆ちゃんに聞いたのか? 別にただのひきこもりだろ? どうせあんまり動けないしな。まあでも、今は一応大学生だ。通信制の、始めたから」
「そうなんだ。あ……大学入学直前に入院しちゃって、結局通えなかったんだっけ?」
「それも婆ちゃんか? まあ昔の話だよ、お前の先輩だったかもっていうのは」
寒いから帰ると言って、誠は雑誌を僕に返した。
「ねえ、マコちゃん。タンポポは? 頭、タンポポには戻さないの?」
「そうだなあ。春になったら、戻すかな?」
誠はこめかみに手を当てると、少し伸びた黒髪をつまんで引っ張ってみせた。
黒髪の誠が笑うと、キクの笑顔と重なった。
誠も待っている。
春になったら、またキクに会えるような気がした。
<完>
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