日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第1章 穀雨

3.マコちゃん(二)

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「おい、ここはお前の家だろう。戻って来いよ」

 道路で固まっている僕に向かって誠が手招きしている。その横にいた、マコちゃんだったはずの少女はいない。
 あれ?  また消えた?
 おずおずと敷地に入っていくと、誠の隣に再び少女が現れた。

「……」
「お前、これが見えるのか?」
「見えません」
「いや、見てるだろ」

 僕は力なくうなずいた。三度目の引っ越しが頭をよぎる。

「お世話になりました。僕ここに住むのは無理です、絶対無理です……」

 僕の落胆ぶりを黙って見ていた誠は、天を仰いでため息をついた。

「安心しろ。幽霊じゃないから」
「でも、今も見えたり消えたり……昨日も急にいなくなって……」
「昨日も見たのか?」

 誠が少女を見ると、少女は嬉しそうにうなずいていた。

「とにかく、これは幽霊じゃなくて精霊だ。え……と、花の精だ。慣れれば怖くない」
「精霊?」

 キク、と誠は少女を呼んで目配せする。少女は静かに僕の目の前まで来た。

「キクと申します」
「あ、はい、河西一郎と申します」

 やっぱりきれいな子だな。
 つい見入っていると、キクの手が伸びていきなり抱きついてきた。

「ぎゃーっ!」

 僕はキクを引きずったまま後ずさりした。重さは感じないのに、しがみつく感触だけははっきりとある。
 なにこれ⁉︎
 敷地の外に出た瞬間、キクの姿も感触も消えた。

「また消えた……」
「ふむ」

 誠は何かに納得したようだ。

「こっちに戻って来ないのか?」
「あの、戻ったらキクちゃんがしがみついていたりしませんか?」
「キクなら俺の横にいる」

 僕が敷地内に戻るのをためらっていると、誠の方からゆっくりと近寄ってきた。

「今わかる範囲でお前の置かれた状況を説明してやる。引っ越しを考えるのはそれからでも遅くないだろう?」

 僕はうなずくしかなかった。
 説明だけはしてほしい。信じるかどうかはそれから考えればいい。いや、でも、怖いのはパスしたい。
 今はとにかく誠を頼ろう。とりあえず大家の孫だし、少なくとも僕みたいにこの状況を怖がってはいない。

「よろしくお願いします、マコちゃん」
「お前、気安くマコちゃんて呼ぶなよ」

 頼りになりそうだが、頼らせてくれるかはわからなかった。
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