日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第1章 穀雨

5.キク(二)

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「花の精が見えるようになったのは、丁度お前くらいの年の頃だ。俺もこの家でしか見たことはないけどな」
「ここ、呪われているんじゃないですか?  この一棟だけやたらと植物が茂っているし」

 同じつくりの借家が五棟並んでいて、なぜかここだけが緑であふれていた。

「大家を前に失礼だな。植物が元気なら、むしろパワースポットだろ」
「あ、そうか」

 お前ちょろいな、と誠は笑った。僕もそう思うが、どうせなら怖い真実よりポジティブな嘘を信じたい。
 キクはこちらに関心がなくなったのか、庭をふらふらと漂っていた。時々蛍の光のように消えたり現れたりしている。
 目が合うと、まさにこの世のものではない天使の微笑みが返ってくる。
 怖いというより幻想的だな……。
 ここに住んだら、毎日キクちゃんがフワフワしているんだよな……なんかいいかも。いや、変な意味じゃなくて心が癒されそうだ。

「キクちゃんはただいるだけで、別に害はないんですよね?  なら、僕ここでやっていける気がしてきました」

 誠がちょっと軽蔑の目を向けた気がした。

「立ち直りが早いな。順応力高いな。単純だな」
「最後落とさないで下さいよ。ひどいなあ」
「事実だろ」

 キクが怖くないと言えば嘘になるが、せっかく日当たりが良くて広い庭付きの家に住めるのだ。しばらく様子を見てもいいだろう。
 それに、誠がいれば大丈夫な気もする。

「だけどマコちゃん、いきなり見えるようになってびっくりしなかったの?  僕はマコちゃんが教えてくれたからいいけれど、誰も助けてくれる人がいなかったらスッゲー怖かったよね?」

 誠は一瞬戸惑うような、困ったような表情を浮かべて、ククッと小さく笑った。

「俺はお前ほど怖がりじゃないんだよ」

   その言葉に、僕は訳もなく安心した。何かあったらすぐに誠を頼ろう。
 じゃあまた。そう言って玄関に向かおうとした僕は、反射的に誠の服を掴んでいた。

「マコちゃん、訂正」
「あ?」
「僕、見えてる。キクちゃんの他にもいる……」

 帰りかけた誠が振り返る。

「どんなのだ?」
「縁側に座っている。作業着姿で体格のいい爽やかなお兄さんなんだけど」
「あー……」

 誠は、いかにも面倒だという感じで言葉を濁した。

「マコちゃんが言っていたキクちゃん以外のって、あれだよね?  あれも花の精だよね?」
「そうだな。よくわかったな」

    誠は白々しく言った。

「わかるだろ!  三人とも頭に変な花を乗せているんだから!」

 僕は半ばヤケになっていた。
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