182年の人生

山碕田鶴

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1878ー1913 吉澤識

14-(2/4)

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 大陸の屋敷で事後処理のさまを見物するのに飽きた私は、霊魂が過去や未来に行かれないものかと考えてみた。
 するとどうであろう。考えた瞬間、既に時空を超えていた。いつの時期とは特定できないものの、明らかに私の生きた時代とは異なる景色の中に放り込まれるのだ。
 学校で習った略史よりも、読み物見せ物から得た世俗風物の知識によるところが大きいが、私が見た過去は本物としか思えなかった。
 これならば、過去も未来も見放題ではないか。
 楽しくなった私は、あらゆる時代を行き来した。もちろん歴史に干渉はできないが、ただ俯瞰ふかんするのみならず個々の人物に入り込み、その人間の視点で世界を見ることさえ可能であった。
 こと未来は輝いていた。幾度となく戦争紛争を経験してなお争いの絶えない人類は、それでもより良き世界へと歩み続けていた。
   空を制し、天に手を伸ばし、個々の生活にまで機械化が進み……。我が国の未来は異国のようであった。
   そこに生きる者の習慣も価値観も、きっと変わっている。私が生きてきた世界は、私と等しくやがて消え去るのだ。
 ひとしきり知の快楽にふけった法悦の最中さなかに、ふと考えてしまった。未来が予定調和ならば私の存在は何か、と。
 この世を箱庭として高みから見物する存在があったとして、私がその者の駒に過ぎないならば、なぜ意思を持つのか。決められた終着点へ向かって流されるまま、活動写真のごとき世界をただ観せられて楽しむのが生きる目的か?
 今さら生きる目的もなかろうが、真実を知りたい。私は時間の許す限りあらゆる時代を渡り歩くことにした。
 四十九日後にあの世とやらへ旅立つことを想定して、それまでを有意義に過ごしたかった。見聞を広げるのは今しかない。
 そうして時空を放蕩するうちに、あることに気がついた。
 私は生前と変わらずこの世を眺めているが、どこにも死者の姿がない。私のようにさまよう幽霊はどこにいる?
 宮田は既にあの世へ向かったとして、加藤はどうした?  わざわざ会いたいとは思わないが、目の前で死して同属の私と会えないのはどういうことなのか。
 生者は誰も私の存在に気づかない。私と話せる者はいない。私は誰にも触れることができない。さらに、この世で私を語る者は皆無だ。
 孤独。
 過去も未来も今現在も、私は完全に世界から切り離されていた。私は孤独だった。
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