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1940ー1974 秋山正二
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「カ……」
だめだ。呼んではならない。私は黒い影を見上げながら必死に自分を抑えた。
これは私の夢だ。
ならば私の願望か?
ぼんやりとした影を見つめるが、はっきりとしたものはどこにも現れない。確証のないもどかしさが私をますます死神に惹きつける。
「シキ、俺と来い。今すぐ窮屈な肉から解放してやる。お前の魂は美しい。ここから出て、在るべきところへ帰るだけだ。お前の時間は終わっているのだ」
すっと手を伸ばしてくる気配がした。
気配。そして影。それだけだ。夢の中でさえそれ以上は見ることができないのか。
「お前の姿が……見たい」
影はククッと笑ったような気がした。
「俺を望むか? ならば名を呼んでみろ。その唇に俺の名を乗せろ」
唇を指でなぞられるような一瞬の感覚に、身体が震えた。恐怖か、歓喜か。同時に湧き上がる相反した情動が狂気を呼ぶ。
死神は私の目から溢れる涙を遊ぶように拭いながら、その気配で私を包んだ。わずかに触れられるたび、ぞくりとした熱に焼かれて思考が麻痺していくのがわかった。
「シキ、これはお前の意識の中だ。私の姿を見たいというが、お前には自分の姿が見えるか? 私が触れてやればその腕も胸も感じるだろうが、お前は自分ひとりで輪郭を捉えているのか? 不確かであることが怖いのだろう? お前が望めば、お前の全てに触れてやる」
私は死神に自ら手を伸ばしたのか。痺れるような痛みをこの身に得られると歓喜したその瞬間、全てが消え去り静寂が残った。
夢から覚めても、触れられた感覚は身体を支配していた。
これはただの夢か? やはり私の願望か?
死神の姿はどこにもない。だが、どこからか視線を感じ続けている。
死神を意識した瞬間から、私は確実に死神に囚われていた。その名を呼べは、もっとはっきりと姿を現すのだろうか。
あれはどこかでまた人間として生まれたに違いない。秋山になって二十年以上が過ぎている。既に私のすぐ近くにいるのかもしれない。
夢に現れた死神をあれほど求めたというのに、目が覚めて現実に戻ればただ恐怖しか残らなかった。
つきまとう視線に怯え、夜は足元の影に怯える。
毎夜眠りに落ちるその一瞬、心の奥底から暗い欲が湧き上がるのを感じながら、次に目覚めた時の安堵と落胆に精神を摩耗した。
二度と現れない死神に渇望すら覚えて、自ら囚われ堕落していく。
職場の仲間が心配するほど、私は急激にやつれていった。
このままでは本当に魂を持って行かれてしまいそうだった。
だめだ。呼んではならない。私は黒い影を見上げながら必死に自分を抑えた。
これは私の夢だ。
ならば私の願望か?
ぼんやりとした影を見つめるが、はっきりとしたものはどこにも現れない。確証のないもどかしさが私をますます死神に惹きつける。
「シキ、俺と来い。今すぐ窮屈な肉から解放してやる。お前の魂は美しい。ここから出て、在るべきところへ帰るだけだ。お前の時間は終わっているのだ」
すっと手を伸ばしてくる気配がした。
気配。そして影。それだけだ。夢の中でさえそれ以上は見ることができないのか。
「お前の姿が……見たい」
影はククッと笑ったような気がした。
「俺を望むか? ならば名を呼んでみろ。その唇に俺の名を乗せろ」
唇を指でなぞられるような一瞬の感覚に、身体が震えた。恐怖か、歓喜か。同時に湧き上がる相反した情動が狂気を呼ぶ。
死神は私の目から溢れる涙を遊ぶように拭いながら、その気配で私を包んだ。わずかに触れられるたび、ぞくりとした熱に焼かれて思考が麻痺していくのがわかった。
「シキ、これはお前の意識の中だ。私の姿を見たいというが、お前には自分の姿が見えるか? 私が触れてやればその腕も胸も感じるだろうが、お前は自分ひとりで輪郭を捉えているのか? 不確かであることが怖いのだろう? お前が望めば、お前の全てに触れてやる」
私は死神に自ら手を伸ばしたのか。痺れるような痛みをこの身に得られると歓喜したその瞬間、全てが消え去り静寂が残った。
夢から覚めても、触れられた感覚は身体を支配していた。
これはただの夢か? やはり私の願望か?
死神の姿はどこにもない。だが、どこからか視線を感じ続けている。
死神を意識した瞬間から、私は確実に死神に囚われていた。その名を呼べは、もっとはっきりと姿を現すのだろうか。
あれはどこかでまた人間として生まれたに違いない。秋山になって二十年以上が過ぎている。既に私のすぐ近くにいるのかもしれない。
夢に現れた死神をあれほど求めたというのに、目が覚めて現実に戻ればただ恐怖しか残らなかった。
つきまとう視線に怯え、夜は足元の影に怯える。
毎夜眠りに落ちるその一瞬、心の奥底から暗い欲が湧き上がるのを感じながら、次に目覚めた時の安堵と落胆に精神を摩耗した。
二度と現れない死神に渇望すら覚えて、自ら囚われ堕落していく。
職場の仲間が心配するほど、私は急激にやつれていった。
このままでは本当に魂を持って行かれてしまいそうだった。
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