182年の人生

山碕田鶴

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1940ー1974 秋山正二

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 職場では、三十歳前後の職員と業務以外での接触を徹底して避けた。取引先や社員寮周辺の店も含めて、日常関わりのある場で接する者には誰であれ注意を払った。
 死神は、私が秋山になった直後に再び人間となっているだろう。
 同じ部署に、死神らしき気配はない。とはいえ、出勤時や昼の社員食堂で何度も見かける若い社員が数名いる。直接話さなくとも私を見る様子があれば、気づかれないようさりげなく目で追って顔を覚えた。
 秘書業務のおかげで社員全員の把握は可能だ。個人の情報はいつでも得られる。だが、それが何になる? 人間に紛れた死神を履歴書などで見分けられるはずもない。
 だから気配を追う。死神から逃れるために。
 死神を探すために。
 本業は順調でも、死神に怯えて神経をすり減らし続ける私の心と秋山の肉体は、酒への依存をますます強めていった。

「秋山君、最近お酒大丈夫かい?  前から飲む方だったけれど、さすがに年も考えないと。仕事で負担をかけ過ぎたかねえ」
「会長にまでご心配をおかけしてすみません。仕事には支障ありませんので大丈夫ですよ」

 私は松川に心配されながら、居酒屋で酒を酌み交わしていた。相変わらずの飲み友達である。
 松川は私より十以上年配であるが、私以上に大酒飲みだ。本人曰く、ペースを落として健康的に飲んでいるという。

「秋山君が昔言っていたとおり、バイオスチーム社は本気で不老不死を目指しているようだねえ。怖いねえ」
「今はまだ、故人の発言などを集めて性格分析した情報をコンピュータ上で再現させる段階です。故人そっくりな人形を動かしながら決まったセリフをしゃべらせて、まるで生き返ったように見せているだけですよ」
「今はまだ、でしょう? そのうちに自分のスペアを自分で作れるようになるねえ」
「でもそれでは、自分が永遠に生きることにはならないでしょう。影武者みたいなものです。他人から見た不老不死です」

 心をアンドロイドに移植して永遠を生きる。
 荒唐無稽な夢物語を掲げたバイオスチーム社は、身体を丸ごと機械化して不老不死を実現させようとしている。肉体の消滅後も存在し続けるために、魂の器を作るのだ。
 ややもするとオカルトやSFだと受け取られ、倫理的観点からの批判も噴出しそうだが、当のバイオスチーム社は臓器移植の延長として至極真面目に取り組んでいる。人間の肉体と変わらぬ動きができる機械の身体を作り、脳神経あるいは意識とつなぐらしい。
 脳も肉体の一部として老化するであろうし、どうやって本人の意識が機械に乗り移れるのかわからないが、時代が進めば本当に可能になるのかもしれない。
 私は大いに期待している。
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