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2039ー2043 相馬智律
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魂とは何か、魂をどう取り出すのか、肉体から分離するとはどのような状態なのか。
カイは大真面目に論じていた。
中世の悪魔崇拝かオカルト雑誌の特集記事か。
BS社内ではもっと科学的に人格データの移植について論じていたであろうに。
だが、これこそが真実だ。
これは私宛のメッセージだ。
人間の肉体とは、物質世界に存在するための「魂の器」だ。あの世の外からやって来た魂は束の間の人生を楽しみ、肉体の崩壊によりアトラクションを終了する。
出入場は厳格に管理されている。
イオンはアトラクションを継続させるための補助器具として有効であるが、長期の使用は有害であり推奨しない。
イオンでは魂の崩壊を防ぐのに十分ではない可能性がある。
カイ、ここには神の啓示を理解できる者はいないぞ。私だって、個人的な体験の範囲でお前の言葉をわずかに納得しているに過ぎないのだ。
「この後に詳細な記述が続きますが、ここまでということで。本日私が研究棟へ来た目的は、フォルダに入っていたリツへのメッセージ映像を確認したかったからです」
高瀬は魂に全く興味がないようだ。
「高瀬さんたちは既にそのメッセージを見たのですよね。私のためだけに再上映してくれるのですか」
「そうですよ」
高瀬の不敵な笑みが気に入らない。
リツの目の前に紙とペンが用意された。スクリーンの正面に座らされていた理由はこれか。
「リツも昨日見ているのですよね?」
高瀬の代わりにリツがうなずく。
「見せるには見せましたがね、パズルのピースが揃わなかったんですよ。どうやら相馬さんが鍵らしい」
高瀬は私の反応をうかがっていた。
「リツは昨日も同じことをやらされたのか?」
「はい。でも、何も起きませんでした……」
大丈夫だ、リツ。心配しなくていい。カイがお前に酷いことをするはずがない。
カイがリツを大事に扱ってきたことは確かだ。人間をいじめて楽しむ趣味はないだろう。そうだろう、リツ?
小さくうなずくリツの向こうにいる女とまた目が合った。私とリツをなんの感情もなく、ずっと観察している。
「高瀬さん、昨日は何をしたのですか? 私はもちろん全て協力するが、説明は欲しい」
「笠原が作った動画メッセージをリツに見せただけですよ。メモの用意は、笠原の指示です。これはきっと催眠暗示の類でしょう。笠原のメッセージを受け取ったリツが、何か行動を起こすように仕向けていたと思われます」
「BS社も知らないのか?」
立会人のBS社社員が何か言おうとするのを、高瀬は軽く手を挙げて笑顔で制した。
「NH社もBS社も共に被害者なんですよ。情報漏洩甚だしい。両者が敵対しているということではありませんが、それぞれ研究開発に込み入った事情がありましてね。お互い迷惑しているのです。これは、笠原という男が単独でやったことです。あなたが協力者でないなら、ですがね」
私と笠原が通じていると思ったのか。売店のリツを介して接触していたとでも言いたいのか。
「シキ。そう笠原が呼ぶのはあなたのことですよね、相馬さん」
リツがまた不安そうに私を見た。
「どう呼ばれようと勝手だが、私は笠原とは初対面でしたよ。事情はわかりましたから、どうぞ始めて下さい」
隣に座るリツに手を重ねて、指先で軽く甲を叩いた。
大丈夫だ。
今私が心の中で語りかけている相手は、アンドロイドではなく人間だ。つくづくそう思った。
リツは人間なのだ。
カイは大真面目に論じていた。
中世の悪魔崇拝かオカルト雑誌の特集記事か。
BS社内ではもっと科学的に人格データの移植について論じていたであろうに。
だが、これこそが真実だ。
これは私宛のメッセージだ。
人間の肉体とは、物質世界に存在するための「魂の器」だ。あの世の外からやって来た魂は束の間の人生を楽しみ、肉体の崩壊によりアトラクションを終了する。
出入場は厳格に管理されている。
イオンはアトラクションを継続させるための補助器具として有効であるが、長期の使用は有害であり推奨しない。
イオンでは魂の崩壊を防ぐのに十分ではない可能性がある。
カイ、ここには神の啓示を理解できる者はいないぞ。私だって、個人的な体験の範囲でお前の言葉をわずかに納得しているに過ぎないのだ。
「この後に詳細な記述が続きますが、ここまでということで。本日私が研究棟へ来た目的は、フォルダに入っていたリツへのメッセージ映像を確認したかったからです」
高瀬は魂に全く興味がないようだ。
「高瀬さんたちは既にそのメッセージを見たのですよね。私のためだけに再上映してくれるのですか」
「そうですよ」
高瀬の不敵な笑みが気に入らない。
リツの目の前に紙とペンが用意された。スクリーンの正面に座らされていた理由はこれか。
「リツも昨日見ているのですよね?」
高瀬の代わりにリツがうなずく。
「見せるには見せましたがね、パズルのピースが揃わなかったんですよ。どうやら相馬さんが鍵らしい」
高瀬は私の反応をうかがっていた。
「リツは昨日も同じことをやらされたのか?」
「はい。でも、何も起きませんでした……」
大丈夫だ、リツ。心配しなくていい。カイがお前に酷いことをするはずがない。
カイがリツを大事に扱ってきたことは確かだ。人間をいじめて楽しむ趣味はないだろう。そうだろう、リツ?
小さくうなずくリツの向こうにいる女とまた目が合った。私とリツをなんの感情もなく、ずっと観察している。
「高瀬さん、昨日は何をしたのですか? 私はもちろん全て協力するが、説明は欲しい」
「笠原が作った動画メッセージをリツに見せただけですよ。メモの用意は、笠原の指示です。これはきっと催眠暗示の類でしょう。笠原のメッセージを受け取ったリツが、何か行動を起こすように仕向けていたと思われます」
「BS社も知らないのか?」
立会人のBS社社員が何か言おうとするのを、高瀬は軽く手を挙げて笑顔で制した。
「NH社もBS社も共に被害者なんですよ。情報漏洩甚だしい。両者が敵対しているということではありませんが、それぞれ研究開発に込み入った事情がありましてね。お互い迷惑しているのです。これは、笠原という男が単独でやったことです。あなたが協力者でないなら、ですがね」
私と笠原が通じていると思ったのか。売店のリツを介して接触していたとでも言いたいのか。
「シキ。そう笠原が呼ぶのはあなたのことですよね、相馬さん」
リツがまた不安そうに私を見た。
「どう呼ばれようと勝手だが、私は笠原とは初対面でしたよ。事情はわかりましたから、どうぞ始めて下さい」
隣に座るリツに手を重ねて、指先で軽く甲を叩いた。
大丈夫だ。
今私が心の中で語りかけている相手は、アンドロイドではなく人間だ。つくづくそう思った。
リツは人間なのだ。
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