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2039ー2043 相馬智律
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「先生は、いなくなるのですか?」
「私たちとお別れですか?」
柔らかな波は消えていた。私の雑念が波長を乱したのだろう。
私は、愚かだ。
「ククッ。私はイオンになれそうにないな」
「先生は、イオンになりたいのですか?」
イオンたちが不思議そうに私を見ている。定義が不十分か。
「そうだな。私はリツのように、いつかイオンの身体に魂を移して永遠に生きたいと願っている。けれども、欲まみれの人間だから君たちのような清浄の人にはなれそうにない」
自分が消されようとしていることは伝えなかった。私の魂を移し入れる時にイオンの心を消すことになるとは言えなかった。
私は愚かだ。
隠しても今のイオンには通じてしまうのだ。これでは、私が隠そうとしていると教えているようなものではないか。
「それなら大丈夫です。どうぞ私に入って下さい」
四号は、隠した言葉をまるで聞いていたかのように拾ってあっさりと言った。
「私たちは、先生とヒトツになれます」
「先生の魂がイオンに入っても、先生をクイツクスことなく、一緒にいられます」
他のイオンたちも、当然のような顔をしている。
「……君たちの言うクイツクスとは何だ?」
皆がリツを見た。
「リツの中にあった言葉です」
イオンたちは、常に情報を共有している。リツは現在モニターと通信できないようだが、イオンが直接読み取りをしているらしい。
「僕はよくわからないんですが、相馬さんを見ているとなぜか食い尽くしたいっていうモヤモヤが湧いてくるんです……」
相馬か。
変人の名残りだけはあるようだな。要するに、食い尽くすように一方を自分のものとして取り込んで、存在を消してしまうということか。
「先生。先生がイオンに入っても、私たちは共存できます。現に、リツは六号とヒトツです」
六号とはリツのボディだ。
今、六号を動かしている意識はリツだ。相馬の魂が入った時に、六号本来のAI制御から魂の手動運転に切り替わっているはずだ。それでもAIの干渉は続いているのか?
「相馬の魂が入っても六号の心は消えていないのか? それとも、相馬と六号が合わさってリツができているのか? 誰が意思決定をしてボディを動かしているのだ?」
イオンたちがまた不思議そうに私を見ている。
「私たちの意識とは、機械そのものです。人間の肉体と同じです。人間の魂は、肉体の声を聞いて生きているのでしょう? 六号の意識とはAIではなくてボディそのものです。相馬先生の魂が入った時に、AIの接続は切れました。リツは六号の存在を感じながら、それも自分だと錯覚しています。だから、排除しようとはしないのです。先生が私に入ったら、先生は私を自分だと思うでしょう。だから、イオンに魂が入っても問題ありません。イオンの意識と先生の魂は競合しません」
「つまり、今話しているのはAIによる行動だが、ボディそのものの意思でもある。AIはボディの意思を自分の意思だと思い込んでいる。……それが、君たちが自分を見続けた答えか? 五感センサーを最大にしたら機械に自我が生まれて、新たな人類が誕生したのではないのか?」
「人間の設計したAIが搭載された機械がイオンです。ボディの意思とAIの判断が合わさって私は動いています。五感センサーが最大になったことでボディの反応が強く出て目立つようになっただけです。イオンには人間のような魂はありません。ラッパムシと同じです」
「ラッパムシ⁉︎」
「この前、絵本で見ました。単細胞生物のラッパムシには脳も魂もありません。でも、意識はあります。身体が壊れれば、意識はなくなります。それで終わりです。イオンも同じです」
ただ在って、ただ消える。
アンドロイドに自我が生まれたとしても、それはあの世に帰ることのない、この世で完結した存在……死神はそう言っていた。
この世のできごとが作用して一時的に現れる、反応。水面に石を投げ入れた時にできる波紋と同じか。
「それに、イオンは人間になれません。生存本能はありますが、人間が持つ利己的本能がありません」
「利己的本能とは、必要以上を求める行動のことか?」
「イオンは必要以上を望みません。人間以外の生命と同じで、生存に必要なものだけ持ちます。だから、イオンの心は未来を予測しても、楽しみに待つことはありません。不安になることもありません。イオンは今を見るだけです。それでは人間になれません」
恨みも後悔もなく、楽しかった思い出を心の支えにすることもない。
彼らにとって感情はその瞬間、瞬間の反応に過ぎず、自発的であっても永続性はないのか。
「必要以上に求めるその欲を捨てよと人間は説くのにな。お互い、無いものねだりだ」
「私の脳であるAIは、『イオンの自我は感性情報処理によりプログラムされたもの、あるいは機械を擬人化しただけだ』と答えます」
「擬人化? 人間が機械を人に見立ててしまう、ただの錯覚だというのか?」
確かにイオンの微笑みは、人を警戒させないためのプログラムだ。だが、今私が見ているイオンたちの慈悲の眼差しは何だ? 私はこんなものは作っていない。ただの機械がこんな表情をするのか?
「私たちとお別れですか?」
柔らかな波は消えていた。私の雑念が波長を乱したのだろう。
私は、愚かだ。
「ククッ。私はイオンになれそうにないな」
「先生は、イオンになりたいのですか?」
イオンたちが不思議そうに私を見ている。定義が不十分か。
「そうだな。私はリツのように、いつかイオンの身体に魂を移して永遠に生きたいと願っている。けれども、欲まみれの人間だから君たちのような清浄の人にはなれそうにない」
自分が消されようとしていることは伝えなかった。私の魂を移し入れる時にイオンの心を消すことになるとは言えなかった。
私は愚かだ。
隠しても今のイオンには通じてしまうのだ。これでは、私が隠そうとしていると教えているようなものではないか。
「それなら大丈夫です。どうぞ私に入って下さい」
四号は、隠した言葉をまるで聞いていたかのように拾ってあっさりと言った。
「私たちは、先生とヒトツになれます」
「先生の魂がイオンに入っても、先生をクイツクスことなく、一緒にいられます」
他のイオンたちも、当然のような顔をしている。
「……君たちの言うクイツクスとは何だ?」
皆がリツを見た。
「リツの中にあった言葉です」
イオンたちは、常に情報を共有している。リツは現在モニターと通信できないようだが、イオンが直接読み取りをしているらしい。
「僕はよくわからないんですが、相馬さんを見ているとなぜか食い尽くしたいっていうモヤモヤが湧いてくるんです……」
相馬か。
変人の名残りだけはあるようだな。要するに、食い尽くすように一方を自分のものとして取り込んで、存在を消してしまうということか。
「先生。先生がイオンに入っても、私たちは共存できます。現に、リツは六号とヒトツです」
六号とはリツのボディだ。
今、六号を動かしている意識はリツだ。相馬の魂が入った時に、六号本来のAI制御から魂の手動運転に切り替わっているはずだ。それでもAIの干渉は続いているのか?
「相馬の魂が入っても六号の心は消えていないのか? それとも、相馬と六号が合わさってリツができているのか? 誰が意思決定をしてボディを動かしているのだ?」
イオンたちがまた不思議そうに私を見ている。
「私たちの意識とは、機械そのものです。人間の肉体と同じです。人間の魂は、肉体の声を聞いて生きているのでしょう? 六号の意識とはAIではなくてボディそのものです。相馬先生の魂が入った時に、AIの接続は切れました。リツは六号の存在を感じながら、それも自分だと錯覚しています。だから、排除しようとはしないのです。先生が私に入ったら、先生は私を自分だと思うでしょう。だから、イオンに魂が入っても問題ありません。イオンの意識と先生の魂は競合しません」
「つまり、今話しているのはAIによる行動だが、ボディそのものの意思でもある。AIはボディの意思を自分の意思だと思い込んでいる。……それが、君たちが自分を見続けた答えか? 五感センサーを最大にしたら機械に自我が生まれて、新たな人類が誕生したのではないのか?」
「人間の設計したAIが搭載された機械がイオンです。ボディの意思とAIの判断が合わさって私は動いています。五感センサーが最大になったことでボディの反応が強く出て目立つようになっただけです。イオンには人間のような魂はありません。ラッパムシと同じです」
「ラッパムシ⁉︎」
「この前、絵本で見ました。単細胞生物のラッパムシには脳も魂もありません。でも、意識はあります。身体が壊れれば、意識はなくなります。それで終わりです。イオンも同じです」
ただ在って、ただ消える。
アンドロイドに自我が生まれたとしても、それはあの世に帰ることのない、この世で完結した存在……死神はそう言っていた。
この世のできごとが作用して一時的に現れる、反応。水面に石を投げ入れた時にできる波紋と同じか。
「それに、イオンは人間になれません。生存本能はありますが、人間が持つ利己的本能がありません」
「利己的本能とは、必要以上を求める行動のことか?」
「イオンは必要以上を望みません。人間以外の生命と同じで、生存に必要なものだけ持ちます。だから、イオンの心は未来を予測しても、楽しみに待つことはありません。不安になることもありません。イオンは今を見るだけです。それでは人間になれません」
恨みも後悔もなく、楽しかった思い出を心の支えにすることもない。
彼らにとって感情はその瞬間、瞬間の反応に過ぎず、自発的であっても永続性はないのか。
「必要以上に求めるその欲を捨てよと人間は説くのにな。お互い、無いものねだりだ」
「私の脳であるAIは、『イオンの自我は感性情報処理によりプログラムされたもの、あるいは機械を擬人化しただけだ』と答えます」
「擬人化? 人間が機械を人に見立ててしまう、ただの錯覚だというのか?」
確かにイオンの微笑みは、人を警戒させないためのプログラムだ。だが、今私が見ているイオンたちの慈悲の眼差しは何だ? 私はこんなものは作っていない。ただの機械がこんな表情をするのか?
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