182年の人生

山碕田鶴

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2039ー2043 相馬智律

68-(1/3)

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 リツは夕方になって戻って来た。ホールのソファに座ったまま、またぼんやりと遠くを眺めている。
 他のイオンたちにデータを送信中か。
 リツの意識がこちらに向くまで、私は隣に座って待つことにした。

 ……シキ……シキ……

「シキ……」

 目を開けると、私に寄りかかったリツが正面を向いたまま名前を呼んでいた。リツは今、私をシキと呼ぶ。

「終わったのか? 何のコピーだ?」

 リツはペンと小さなメモ帳をサイドテーブルから取ると、雑な正方形を書いた。その中に「陽」の字を墨書風に書いて私に見せた。

照陽しょうようグループってご存知ですか? こんなマークのホテルとかビルとか警備会社とかが全国にあるらしいんですが……」
「占いとか自己啓発セミナーの類の企画運営会社なら知っているぞ」

 私の知る照陽は、父の時代からあった。企業経営者らが頼る占い師らの組合的団体だったはずだ。政財界との繋がりが深く浸透したのか、時代が進むにつれ徐々に勢力を拡大し、表には出せない案件全般を引き受ける多角経営になっていった。ホテルもビルも警備会社も、商談密談裏取引には欠かせない存在だ。
 それでも霊能者の職業組合的側面は変わらずあるようで、確か大村の妹、安子も照陽に世話になっていたと記憶する。今思えば、安子が一人で遠藤の再審請求を続けた裏には照陽の支援があったのかもしれない。

「僕、そこに引き取られることになったそうです」
「は?」
「それで、本部で面談とか説明とか……。せっかくなので今日見たことをみんなに教えておこうと思って」
「……私も情報共有できたら便利だったな」
「本当に。こうしてくっついているだけで全て伝わればいいのに」

 リツは私の肩に乗せていた頭をこすりつけて笑った。

「照陽の母体は宗教団体だ。表立った活動はいっさいなく、布教も布施もない。団体に所属していると自ら明かす者はいないが、関連企業の社員は全て信者だという噂もあって、実態は不明だな。なぜそんなところにお前が行く?」
「カイとの約束だって」
「カイ⁉︎  ……教団は悪魔信仰だったのか?」
「いえ、働いていた人たちは別に普通っぽかったですよ? カイはなんだか特別扱いされていましたけど」
「リツ、お前は照陽を知っていたのか⁉︎」
「カイに出会ってすぐの頃、連れ回されて泊まったホテルにも照陽のマークがありました。カイが移動する時に乗る車の運転手も同じマークのバッジをつけていたし。カイに関わっていた全員が照陽の人だと思います」

 カイが人間としてこの世にいる間、照陽グループが世話をしていたということか。BS社で研究員をやっていたのも照陽の口添え……だろうな。

「グループの総帥に会ったか?」
「はい。面談に本人が来ていましたから。カイと一緒の時にも会ったことがあります。シキだって会っているでしょう?」

 私が?

「高瀬っていう人がカイの動画を見せに来た時、後ろにいました」

 護衛をつけていた若い女か。
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