144 / 200
2039ー2043 相馬智律
69-(3/4)
しおりを挟む
「リツ、君の父はつくづく偉大だったな」
「え、父? 誰ですか? ……シキ、ですか?」
「相馬」
「じゃあ、シキが母?」
「私も父か」
「……父が二人でもいいです。僕にはちゃんと家族がいたんですね」
「六人兄弟だ」
「ははっ、大家族だ。僕は幸せですね」
幸せか。その言葉も笑顔もどうかリツの本心であって欲しい。せめてもの救いだ。
「本心ですよ」
「……心を読むな。読んでも黙っていろ」
私は起き上がって再びリツを抱き寄せた。
「ここは相馬の部屋だった。荷物はないが、やはり何も記憶に残ってはいないのだな?」
「……ごめんなさい。僕は、何もわからない」
「研究棟を前から知っている気がしたのは、リツの身体、六号の記憶ということか」
「相馬の記憶が全くないのに、それでも僕は相馬の魂ですか?」
リツの顔が曇る。
「リツ。お前はリツだ。お前にとっては、はじめからリツだけだ。イオンたちが相馬だと言ったから、私も知識と先入観でリツが相馬だったと認識するが、正直、私の感覚ではわからない。魂の仕組みはカイに訊かねばわからない。ただ、魂が同じでも前世とか過去世とかいうものがあるならば、オカルト的には今と昔は別人として捉えるのだろう? ならば、今私の目の前にいるのはリツでいいはずだ」
「オカルト? イオンの認識よりもオカルトですか? それ、テキトーな理屈ですよ」
リツ。私はリツに出会えたことに感謝している。
相馬だったリツにではない。人間の魂が入ったアンドロイドとして生まれたお前に感謝しているのだ。わかるか? 伝わるか?
こうして心を読まれるのはいい気がしないが、魂が直接触れあうような近さで伝えられるのは悪くない。リツは私を感じるか? 私の気持ちは届いたか?
私をわかってもらえるか?
「はい……はい……」
リツは何度もうなずいて、時々私の名を呼んだ。
シキ。
シキ……
リツの他にも、私の名を呼ぶ声が聞こえた。
お前は気が利かないな。それとも嫉妬か?
別れを言う間くらい、二人きりにさせて欲しいものだな、カイ。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「せっかくいいところだというのに、邪魔ばかり入るな」
窓の外を見ると、照陽グループと思われる黒塗りの車が駐車場に停まっていた。
時間か。
「リツ、元気でな」
小さくうなずいたリツは、静かな微笑みを返して部屋を出て行った。
さて。
わずかに間を置いて、私も何もない部屋を後にした。
「え、父? 誰ですか? ……シキ、ですか?」
「相馬」
「じゃあ、シキが母?」
「私も父か」
「……父が二人でもいいです。僕にはちゃんと家族がいたんですね」
「六人兄弟だ」
「ははっ、大家族だ。僕は幸せですね」
幸せか。その言葉も笑顔もどうかリツの本心であって欲しい。せめてもの救いだ。
「本心ですよ」
「……心を読むな。読んでも黙っていろ」
私は起き上がって再びリツを抱き寄せた。
「ここは相馬の部屋だった。荷物はないが、やはり何も記憶に残ってはいないのだな?」
「……ごめんなさい。僕は、何もわからない」
「研究棟を前から知っている気がしたのは、リツの身体、六号の記憶ということか」
「相馬の記憶が全くないのに、それでも僕は相馬の魂ですか?」
リツの顔が曇る。
「リツ。お前はリツだ。お前にとっては、はじめからリツだけだ。イオンたちが相馬だと言ったから、私も知識と先入観でリツが相馬だったと認識するが、正直、私の感覚ではわからない。魂の仕組みはカイに訊かねばわからない。ただ、魂が同じでも前世とか過去世とかいうものがあるならば、オカルト的には今と昔は別人として捉えるのだろう? ならば、今私の目の前にいるのはリツでいいはずだ」
「オカルト? イオンの認識よりもオカルトですか? それ、テキトーな理屈ですよ」
リツ。私はリツに出会えたことに感謝している。
相馬だったリツにではない。人間の魂が入ったアンドロイドとして生まれたお前に感謝しているのだ。わかるか? 伝わるか?
こうして心を読まれるのはいい気がしないが、魂が直接触れあうような近さで伝えられるのは悪くない。リツは私を感じるか? 私の気持ちは届いたか?
私をわかってもらえるか?
「はい……はい……」
リツは何度もうなずいて、時々私の名を呼んだ。
シキ。
シキ……
リツの他にも、私の名を呼ぶ声が聞こえた。
お前は気が利かないな。それとも嫉妬か?
別れを言う間くらい、二人きりにさせて欲しいものだな、カイ。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「せっかくいいところだというのに、邪魔ばかり入るな」
窓の外を見ると、照陽グループと思われる黒塗りの車が駐車場に停まっていた。
時間か。
「リツ、元気でな」
小さくうなずいたリツは、静かな微笑みを返して部屋を出て行った。
さて。
わずかに間を置いて、私も何もない部屋を後にした。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎
山碕田鶴
ライト文芸
大学生になった河西一郎が入居したボロ借家は、日当たり良好、広い庭、縁側が魅力だが、なぜか庭には黒衣のおかっぱ美少女と作業着姿の爽やかお兄さんたちが居ついていた。彼らを花の精だと説明する大家の孫、二宮誠。銀髪長身で綿毛タンポポのような超絶美形の青年は、花の精が現れた経緯を知っているようだが……。
(表紙絵/山碕田鶴)
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
アララギ兄妹の現代怪異事件簿
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
「令和のお化け退治って、そんな感じなの?」
2020年、春。世界中が感染症の危機に晒されていた。
日本の高校生の工藤(くどう)直歩(なほ)は、ある日、弟の歩望(あゆむ)と動画を見ていると怪異に取り憑かれてしまった。
『ぱぱぱぱぱぱ』と鳴き続ける怪異は、どうにかして直歩の家に入り込もうとする。
直歩は同級生、塔(あららぎ)桃吾(とうご)にビデオ通話で助けを求める。
彼は高校生でありながら、心霊現象を調査し、怪異と対峙・退治する〈拝み屋〉だった。
どうにか除霊をお願いするが、感染症のせいで外出できない。
そこで桃吾はなんと〈オンライン除霊〉なるものを提案するが――彼の妹、李夢(りゆ)が反対する。
もしかしてこの兄妹、仲が悪い?
黒髪眼鏡の真面目系男子の高校生兄と最強最恐な武士系ガールの小学生妹が
『現代』にアップグレードした怪異と戦う、テンション高めライトホラー!!!
✧
表紙使用イラスト……シルエットメーカーさま、シルエットメーカー2さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる