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2043ー2057 高瀬邦彦
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「シキ、都市伝説ならこういうのもある。荒廃した街に、人間を救う天使が現れるらしい」
天使?
「無機質で整然とした街並みの中にあって荒廃しているのは、そこにいる人間たちだ。路地裏に倒れた者たちのように、誰にも顧みられず絶望の中にいる人間がそれでも生きることを願った時、そこに天使が現れるというのだ。中性的で美しい容姿はもちろんのこと、その雰囲気から人間でないことがすぐにわかるという。アンドロイドでもリアルアバターでもない、人間を超えた天界の住人だ。その微笑みで見つめられると、心を重ねて自分の全てを認められたような感覚になり、天使に従う人間の使者が癒しを与えるために楽園へ連れて行ってくれる。天使に出会えた幸運な人間は、再び正しく人間として生きることができるようになる。天使に会いたければ、心から願うだけでいい。自分は生きたい。それだけでいい。天使には人間の心の声が聞こえる。願いは必ず届く。……どうだ?」
高瀬の声は心なしかはずんでいた。天使に会ったことがあるわけでもなく、ただ噂話をしているだけだというのに、高瀬自身が既に救われた気になっているのではないか。
高瀬にしては穏やかな気配が私を包んでいる。先ほどまで浮かない顔で気が滅入る話ばかりしていたから、天使にすがりたくなる気持ちはわからないでもない。
まあ、どうだと言われてもなあ。救いを求める人間を救う。求めた者だけ救う。極めて効率がいいな。
「あなたは現実主義だな」
どうせ噂を流しているのは照陽グループだろう? 駅前で似たようなチラシを見たぞ。癒しの無人島リゾートだとか、魂のデトックスプランだとか。
「まあ、そうかもしれないが……」
高瀬に救えない人間たちを照陽が救おうとしているのは事実だ。高瀬は純粋に照陽に感謝し、照陽の救済活動によって高瀬の心も救われているのだろう。
それにしても、天使とはイオンのことだろうか。
商業用アンドロイドであったならばとっくに廃棄処分の期限を過ぎているはずだ。イオンたちは処分されないにしても、元気に生きているのだろうか。
「噂の正体はイオンだろう。イオンは生きている。あれは研究棟を出る時点で廃棄処分したことになっている。だから今は、人間だ」
人間か。だがメンテナンスはどうしている? 研究用ではないにしろ、超精密機械だぞ。日々の点検は欠かせないはずだ。
「イオンは照陽の財産だ。非公式だがNH社からメカニックを派遣して、最上級のエステ並みのケアをしている。私はあなたが入っているからイオンに会いに行くわけにはいかないが、イオンは元気だ」
本当か⁉︎ ボディだって十八年は経っているぞ?
「部分的な交換はあるが、部品ひとつ逃さずチェックしているから大丈夫だ。詳細なカルテは作ってある。現役のメカニックである私が保証する」
高瀬は清々しく笑った。
高瀬は一介のメカニックに戻っていた。
天使?
「無機質で整然とした街並みの中にあって荒廃しているのは、そこにいる人間たちだ。路地裏に倒れた者たちのように、誰にも顧みられず絶望の中にいる人間がそれでも生きることを願った時、そこに天使が現れるというのだ。中性的で美しい容姿はもちろんのこと、その雰囲気から人間でないことがすぐにわかるという。アンドロイドでもリアルアバターでもない、人間を超えた天界の住人だ。その微笑みで見つめられると、心を重ねて自分の全てを認められたような感覚になり、天使に従う人間の使者が癒しを与えるために楽園へ連れて行ってくれる。天使に出会えた幸運な人間は、再び正しく人間として生きることができるようになる。天使に会いたければ、心から願うだけでいい。自分は生きたい。それだけでいい。天使には人間の心の声が聞こえる。願いは必ず届く。……どうだ?」
高瀬の声は心なしかはずんでいた。天使に会ったことがあるわけでもなく、ただ噂話をしているだけだというのに、高瀬自身が既に救われた気になっているのではないか。
高瀬にしては穏やかな気配が私を包んでいる。先ほどまで浮かない顔で気が滅入る話ばかりしていたから、天使にすがりたくなる気持ちはわからないでもない。
まあ、どうだと言われてもなあ。救いを求める人間を救う。求めた者だけ救う。極めて効率がいいな。
「あなたは現実主義だな」
どうせ噂を流しているのは照陽グループだろう? 駅前で似たようなチラシを見たぞ。癒しの無人島リゾートだとか、魂のデトックスプランだとか。
「まあ、そうかもしれないが……」
高瀬に救えない人間たちを照陽が救おうとしているのは事実だ。高瀬は純粋に照陽に感謝し、照陽の救済活動によって高瀬の心も救われているのだろう。
それにしても、天使とはイオンのことだろうか。
商業用アンドロイドであったならばとっくに廃棄処分の期限を過ぎているはずだ。イオンたちは処分されないにしても、元気に生きているのだろうか。
「噂の正体はイオンだろう。イオンは生きている。あれは研究棟を出る時点で廃棄処分したことになっている。だから今は、人間だ」
人間か。だがメンテナンスはどうしている? 研究用ではないにしろ、超精密機械だぞ。日々の点検は欠かせないはずだ。
「イオンは照陽の財産だ。非公式だがNH社からメカニックを派遣して、最上級のエステ並みのケアをしている。私はあなたが入っているからイオンに会いに行くわけにはいかないが、イオンは元気だ」
本当か⁉︎ ボディだって十八年は経っているぞ?
「部分的な交換はあるが、部品ひとつ逃さずチェックしているから大丈夫だ。詳細なカルテは作ってある。現役のメカニックである私が保証する」
高瀬は清々しく笑った。
高瀬は一介のメカニックに戻っていた。
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