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36.真意 三
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「僕は明美さんのことを知らないので言える立場ではないですけど、テキトーだとは思わないです」
「あー、その言い方ぁ。流せばいいのにイチイチ生真面目に答えてくれるのがササイさんっぽい。だいたい、この姿見て、明美さんって男だったの? 男装しちゃってるの? びっくりーとかないの? 同居してるのが男と女と、どっちが困る展開?……って、それは君にはどうでもよさそうだね。何その余裕。やっぱムカつく」
「すみません。そういう人なんだくらいにしか考えませんでした」
「いいよ。お客君みたいなのは面倒な説明いらないから。言っとくけど、居候は押しかけたんじゃないからね。行くとこないなら居ていいぞって。だから、たぶん近所の人には黒髪超絶美女のササイ夫人で通っているわけ。歌っているときも無敵のアケミ様。でもバイトは履歴書とか面倒だし、日常で女の子続けるほど振り切れてなくて、だいたい爽やかなイケメン青年。都合よく面倒臭く生きているわけ。ハイ、ここまでで質問は?」
明美はいきなり訊いてきた。晴久が戸惑っていると明美は呆れたように晴久の頭を撫でた。晴久はまた緊張で固まる。
「だからヤバイって。質問あるか訊いただけでなんかオレ、いじめてるみたいな気になる。思ったこと言っていいんだよ? 気になったら訊けばいいじゃん。言いたくなかったら言えないって言うし。イライラするって言われない?」
「個人的な話ってどこまで訊いたら失礼なのかよくわからなくて……すみません。僕基準だと何も訊かないのが正解で……」
「うわー、益々ササイさんっぽい。ササイさんもさあ、目の前で困ってる人の面倒見はいいけど、それ以上踏み込んでこないっていうか他人に関心がないっていうか……。え? あれ? 違うの?」
明美は晴久を見て驚いたように言った。
晴久が石崎と最初に会った時は、確かに事務的な質問ばかりだった。だが、自分には関係ないと突き放されたはずが、その後も色々訊かれて心配もされ、子供の頃の話までしてしまった。考え過ぎるな、人の感情を気にし過ぎるなと、呆れられながらもいつも支えられていた気がする。
「……ふうん。いいよなあ、お客君は」
「な、何がですか?」
「何でもない」
明美は独り合点して、寂しそうな表情とは不釣り合いに明るく答えた。
「ササイさんはオレの恩人でいつも助けてもらっているけれど、何も訊かれたことはないなあ」
「訊く前に明美さんが話すからではないですか?」
「ササイ善人説却下。お客君、騙されてるよ。あの人さ、ずっと助けてくれていたのに、イザっていう時に逃げたんだから」
「逃げた?」
「そう。『私は君を助けることはできるが、支えることはできない』とか言っちゃってさ」
それはどういうイザだったのか……晴久には想像できなかった。
「で、オレは『ふざけんなヘタレオヤジー!』ってキレてササイさんを蹴り倒したの。いやあ懐かしい、いい思い出」
「はあ……」
明美は今も石崎の家に居候しているというから、本当にいい思い出なのだろう。
石崎さん、蹴り倒されたのか。
「あ、今、自分も蹴ってみたいとか想像した?」
「してませんって」
「お客君といると面白いなあ。なんか自分のことフツーに話せる」
明美は晴久に笑いかけた。人懐こく柔らかい。だが、それは明らかに他者との間に境界線を引く笑顔だった。
「あー、その言い方ぁ。流せばいいのにイチイチ生真面目に答えてくれるのがササイさんっぽい。だいたい、この姿見て、明美さんって男だったの? 男装しちゃってるの? びっくりーとかないの? 同居してるのが男と女と、どっちが困る展開?……って、それは君にはどうでもよさそうだね。何その余裕。やっぱムカつく」
「すみません。そういう人なんだくらいにしか考えませんでした」
「いいよ。お客君みたいなのは面倒な説明いらないから。言っとくけど、居候は押しかけたんじゃないからね。行くとこないなら居ていいぞって。だから、たぶん近所の人には黒髪超絶美女のササイ夫人で通っているわけ。歌っているときも無敵のアケミ様。でもバイトは履歴書とか面倒だし、日常で女の子続けるほど振り切れてなくて、だいたい爽やかなイケメン青年。都合よく面倒臭く生きているわけ。ハイ、ここまでで質問は?」
明美はいきなり訊いてきた。晴久が戸惑っていると明美は呆れたように晴久の頭を撫でた。晴久はまた緊張で固まる。
「だからヤバイって。質問あるか訊いただけでなんかオレ、いじめてるみたいな気になる。思ったこと言っていいんだよ? 気になったら訊けばいいじゃん。言いたくなかったら言えないって言うし。イライラするって言われない?」
「個人的な話ってどこまで訊いたら失礼なのかよくわからなくて……すみません。僕基準だと何も訊かないのが正解で……」
「うわー、益々ササイさんっぽい。ササイさんもさあ、目の前で困ってる人の面倒見はいいけど、それ以上踏み込んでこないっていうか他人に関心がないっていうか……。え? あれ? 違うの?」
明美は晴久を見て驚いたように言った。
晴久が石崎と最初に会った時は、確かに事務的な質問ばかりだった。だが、自分には関係ないと突き放されたはずが、その後も色々訊かれて心配もされ、子供の頃の話までしてしまった。考え過ぎるな、人の感情を気にし過ぎるなと、呆れられながらもいつも支えられていた気がする。
「……ふうん。いいよなあ、お客君は」
「な、何がですか?」
「何でもない」
明美は独り合点して、寂しそうな表情とは不釣り合いに明るく答えた。
「ササイさんはオレの恩人でいつも助けてもらっているけれど、何も訊かれたことはないなあ」
「訊く前に明美さんが話すからではないですか?」
「ササイ善人説却下。お客君、騙されてるよ。あの人さ、ずっと助けてくれていたのに、イザっていう時に逃げたんだから」
「逃げた?」
「そう。『私は君を助けることはできるが、支えることはできない』とか言っちゃってさ」
それはどういうイザだったのか……晴久には想像できなかった。
「で、オレは『ふざけんなヘタレオヤジー!』ってキレてササイさんを蹴り倒したの。いやあ懐かしい、いい思い出」
「はあ……」
明美は今も石崎の家に居候しているというから、本当にいい思い出なのだろう。
石崎さん、蹴り倒されたのか。
「あ、今、自分も蹴ってみたいとか想像した?」
「してませんって」
「お客君といると面白いなあ。なんか自分のことフツーに話せる」
明美は晴久に笑いかけた。人懐こく柔らかい。だが、それは明らかに他者との間に境界線を引く笑顔だった。
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