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54.合縁 五
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「正確にいうと、その数年前にササイさんはバンドを解散していて、しばらく活動しなかったんだよ。だから、ササイさんがソロ活動を始めるのとササイ連合結成がちょうど同じ時期なの」
「運命的偶然っしょ? まあ、俺らはまだ名前とやる気だけでさ。ライブハウスを見に行く勇気もない初心者だったけどね。その頃に、バンドつながりの知人から、地元の超有名人の噂を聞くわけよ」
「超、有名人?」
晴久の問いに、三人は一斉に明美を指差した。
「教会とかで歌っていそうな清楚系美少女が、ライブハウスでロックでもパンクでも絶叫しているって。しかも、どこのバンドでも頼めば歌ってくれるって」
「で、実際に見に行ったらすごかったのよ。見た目も歌も、もうびっくり。その後、俺ずっと追っかけしていたから」
わはははは。憲次郎は明るく笑った。明美は素知らぬ顔で烏龍茶を飲んでいる。
「その時期、明美さんは大学生のバンドと一緒にやっててさ、学園祭に出るって聞いてわざわざ見に行ったんだよ。そうしたら、そのステージをササイさんも見ていたの」
「知り合いに誘われて、何人かで来ていたらしいんだけど」
「それ、アタシはなんにも悪くないわよ」
明美が口をはさんだ。話す前から開き直っている。
「出番の直前になって、実行委員とかがアタシに身分確認するって言い出したのが悪いのよ? ただのゲストボーカルなのに、学外の人間だとか言い始めてさ。そんなの事前に確認しておけっての。あんまりウルサイから、学生証を出しただけよ」
「それって……」
美少女が男だとバレた瞬間だ。憲次郎は苦笑していた。
「観客はそんなの知らないからさ。ステージが始まったら、見るからに険悪なのよ。明美さんはしっかり歌っていたよ。でも、バンドの方がもうやる気ないっつーかグダグダで」
「アカペラの方が良くない? ってくらいで、ざわざわし始めてさ」
「そしたらさ……くくくっ」
三人は笑いをこらえていた。明美は憮然としていた。
だはははは。崩れたのは憲次郎だ。ツインズは、晴久の肩をポンポン叩きながら声を出して笑った。
「明美さんが大学生に向かって、真面目にやれーってキレてさ。大学生は、嘘つき野郎とか言い出してステージでつかみ合いの喧嘩が始まっちゃったのよ。清楚な美少女が大学生に飛び蹴りするから観客は大興奮だし、もうわけわかんないの」
だはははは。憲次郎は、また大笑いした。ツインズもテーブルに額をつけて肩を震わせている。
「俺たちは最前列にいて、演出かなーくらいに見ていたら、大学生がいきなり来てさ。こいつら仲間だって言い出してステージに引っ張り上げられちゃったのよ。その時は制服を着ていたから明美さんと同じ高校だってわかって、仲間だと思われたみたいで。いきなり喧嘩に巻き込まれてびっくりだけど、明美さんもびっくりしていたね」
「当たり前じゃない。学校にバレたら大問題でしょう? アタシは逃げられるけど、あんたたちは制服で暴れているんだもの」
「明美さん強過ぎてさ。大学生が本気になっちゃって、観客もなんかヤバくない? って嫌な空気で収拾がつかなくなってきたところにさ、現れたんだよ!」
「ササイさんが!」
憲次郎とツインズは同時に言った。うっとり、と形容するのがふさわしい声と表情で、当時を思い出していた。
「フツーに歩いてステージに上がって来てさ、乱闘中の大学生も観客も全部無視して明美さんに声をかけたの」
明美も笑っていた。
「ホントおかしいの。アタシが大学生に投げ飛ばされて床に倒れたところに来てさ。君、面白いな、これから時間ある? って。ステージで乱闘中にナンパされたのなんて初めてよ」
「ナンパ……」
違う違う。三人が揃ってツッコミを入れた。
「飲み物をおごってくれるって言うし、あっちの三人もいいかって聞いたら構わないって言うからついて行ったの。それがササイさんとの運命の出会いの瞬間よ」
「明美さん、その時はササイシンを知らなかったんだよ。俺たちは喧嘩しながら、ホンモノだーって大興奮だったのに。そうしたら、お前ら来い!ってよく通る声で号令がかかってさ。あれが、明美さんの下僕になった瞬間だね」
下僕はケンだけだろ、とツインズに言われて憲次郎はまた笑っていた。
晴久が引っ越して来た家は、大学からそう遠くはなかった。友人はおらず誰と話すこともなく、絶望が日常で、感覚すら麻痺していた。ただ時間だけが過ぎていた。
何もないと思っていた。
でも、こうして明美さんたちと知り合うために、この瞬間に向かって少しずつ近づていたんだ。出会うためには必要な時間だった……。
「運命的偶然っしょ? まあ、俺らはまだ名前とやる気だけでさ。ライブハウスを見に行く勇気もない初心者だったけどね。その頃に、バンドつながりの知人から、地元の超有名人の噂を聞くわけよ」
「超、有名人?」
晴久の問いに、三人は一斉に明美を指差した。
「教会とかで歌っていそうな清楚系美少女が、ライブハウスでロックでもパンクでも絶叫しているって。しかも、どこのバンドでも頼めば歌ってくれるって」
「で、実際に見に行ったらすごかったのよ。見た目も歌も、もうびっくり。その後、俺ずっと追っかけしていたから」
わはははは。憲次郎は明るく笑った。明美は素知らぬ顔で烏龍茶を飲んでいる。
「その時期、明美さんは大学生のバンドと一緒にやっててさ、学園祭に出るって聞いてわざわざ見に行ったんだよ。そうしたら、そのステージをササイさんも見ていたの」
「知り合いに誘われて、何人かで来ていたらしいんだけど」
「それ、アタシはなんにも悪くないわよ」
明美が口をはさんだ。話す前から開き直っている。
「出番の直前になって、実行委員とかがアタシに身分確認するって言い出したのが悪いのよ? ただのゲストボーカルなのに、学外の人間だとか言い始めてさ。そんなの事前に確認しておけっての。あんまりウルサイから、学生証を出しただけよ」
「それって……」
美少女が男だとバレた瞬間だ。憲次郎は苦笑していた。
「観客はそんなの知らないからさ。ステージが始まったら、見るからに険悪なのよ。明美さんはしっかり歌っていたよ。でも、バンドの方がもうやる気ないっつーかグダグダで」
「アカペラの方が良くない? ってくらいで、ざわざわし始めてさ」
「そしたらさ……くくくっ」
三人は笑いをこらえていた。明美は憮然としていた。
だはははは。崩れたのは憲次郎だ。ツインズは、晴久の肩をポンポン叩きながら声を出して笑った。
「明美さんが大学生に向かって、真面目にやれーってキレてさ。大学生は、嘘つき野郎とか言い出してステージでつかみ合いの喧嘩が始まっちゃったのよ。清楚な美少女が大学生に飛び蹴りするから観客は大興奮だし、もうわけわかんないの」
だはははは。憲次郎は、また大笑いした。ツインズもテーブルに額をつけて肩を震わせている。
「俺たちは最前列にいて、演出かなーくらいに見ていたら、大学生がいきなり来てさ。こいつら仲間だって言い出してステージに引っ張り上げられちゃったのよ。その時は制服を着ていたから明美さんと同じ高校だってわかって、仲間だと思われたみたいで。いきなり喧嘩に巻き込まれてびっくりだけど、明美さんもびっくりしていたね」
「当たり前じゃない。学校にバレたら大問題でしょう? アタシは逃げられるけど、あんたたちは制服で暴れているんだもの」
「明美さん強過ぎてさ。大学生が本気になっちゃって、観客もなんかヤバくない? って嫌な空気で収拾がつかなくなってきたところにさ、現れたんだよ!」
「ササイさんが!」
憲次郎とツインズは同時に言った。うっとり、と形容するのがふさわしい声と表情で、当時を思い出していた。
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明美も笑っていた。
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「ナンパ……」
違う違う。三人が揃ってツッコミを入れた。
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晴久が引っ越して来た家は、大学からそう遠くはなかった。友人はおらず誰と話すこともなく、絶望が日常で、感覚すら麻痺していた。ただ時間だけが過ぎていた。
何もないと思っていた。
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