踊るキミを見ていたい

朝賀 悠月

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3・勇気を出して一歩前進

雄代くんの女性ダンサーへの対応が神だった

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「翔哉、次わたしに雄代譲って」
「はあ? 雄代くんは物じゃないんですけど」
「じゃあ雄代、次は私と踊ってくれない?」
「あぁ、うん」
「ちょっと!」
「順、番。でしょ?」

 随分強気な女性が、したり顔でニヒルに笑う。翔哉くんは、悔しそうに下唇を噛んで、鋭い目つきで女の人を見る。

「終わったらまた付き合ってやるから。な?」

 翔哉くんの頭をポンポンとして宥める雄代くん。そんな彼のことも、翔哉くんは睨みつける。

「と、とりあえず、あっち座って待ってよう?」
「……うん」

 不機嫌な翔哉くんの背中にそっと手を添えて、ひとまず荷物置き場へ連れて行き、一緒に低い棚の上に腰掛けた。翔哉くんはまだ、女性をジトッとした目で見ている。
 強気な女性が雄代くんの腕を引いて、仲間の女の人が構えているカメラの前に立った。
 ポータブルオーディオプレイヤーの画面を見せながら、雄代くんを見上げている。曲名リストを見ているのだろうか。雄代くんが指をさして、女性と目を合わせた。二人で頷き合って、簡単にダンスの確認をしたら、女性がプレイヤーを操作し曲が流れ始める。界隈では定番の曲だから、二人とも始まりも振り付けも頭に入っているみたいで、それはすぐに始まった。

「……見て。雄代くんって、女の子の体には極力触れないようにしてるの」

 たしかに。腰を抱く手は、肌に触れていない。肩に手を置いても、軽く添えるだけ。背中から腰にかけて撫でる振り付けも、ギリギリのところで体に這わない技術がすごい。

「ほんとだ。すごく紳士的」
「でしょ。あれができるから、女の人たちは雄代くんに絶対の信頼を置いてる。人気者だから独占なんてできないって、わかってるんだけどさ……それでも僕は、負けたくないんだよ」

 あぁ、翔哉くんは本当に雄代くんが好きなんだな。ずっと一緒にいたお兄ちゃんを取られたくないって感じなのかな。ふと見た横顔は、口を尖らせている。
 俺は彼の心が少しでも癒えるように、背中にそっと手のひらで触れて、優しく何度も撫でてあげた。


 女性とのダンスを終えて戻って来た雄代くんは、翔哉くんの機嫌を直そうと両手で彼の髪をワシャワシャして、顔を覗き込みながら優しい言葉を掛けた。
 少し機嫌が直った翔哉くんは、約束通り雄代くんと動画を撮ると言って腕を引っ張る。俺はカメラ係を申し出て、二人の動画をもう一本撮った。

「あ、じゃあ俺、そろそろ……」
「もう帰るの?」
「うん。今日はありがとう、翔哉くんと踊れて楽しかった」
「僕もだよ。また一緒に踊ろうね!」

 翔哉くんにスマホを返し、笑顔で握手を交わす。

「待って。俺も一緒に出る」

 荷物置き場でリュックを背負って帰り支度を始めると、雄代くんが俺を追って走ってきて、同じように支度を始めた。

「えっ雄代くんも帰るの?」
「おう。またな」

 雄代くんが、翔哉くんの頭にポンと手を乗せる。心配になってチラリと彼に目を向けたら、少し寂し気で不満の残る顔をしていた。

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