踊るキミを見ていたい

朝賀 悠月

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3・勇気を出して一歩前進

駅までの道を雄代くんと歩く @パートナーの存在について

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「俺は一人が気楽で好きなんだけど、時々、気軽に誘えて何でも言い合えるパートナーが欲しいなって、思ったりするんだよね」
「あれは? 舞音くんの動画で登場回数が多い彼」
「彼は、就職で地方に行っちゃったんだ。だから今は、会えてもいなくて……」
「そっか……」
「ここに通ってればもしかしたら、出会えるのかな」

 一人でいい。たった一人でいいから。唯一無二って言える、深い絆で結ばれたパートナーが欲しい。雄代くんと翔哉くんを見ていて、その思いが強くなった。

「俺は?」

 突然の問いかけに、胸がドキッと跳ねる。

「俺がいるでしょ」
「え、でも」
「あれ。数時間前約束したのに、もう忘れちゃった?」
「そうじゃないけど」

 雄代くんには、翔哉くんがいる。
 それにもし、ここに来たばかりの俺を『放っておけないから』なんだとしたら……

「あ。また何か変なこと考えてる」
「いや……」
「言っていいよ、大丈夫」

 そういう表情をしてしまっていたのか、まるで心を読み取ったみたいに、雄代くんは俺の顔を覗き込む。

「同情……とかじゃない?」
「ん?」
「約束はしたけど、もし俺のことも放っておけないからなんだとしたら、それはなんか……なんていうか……」

 上手く言葉が出てこない。なんでか急に胸の奥の方に生まれてきたもどかしさの塊を、表現する方法が見つからなくて体がモニョモニョする。
 ん、と口を強く閉ざして両手のひらを見つめながら握って開いてを繰り返す。けれどどうやっても、この感情が何なのか、わからなくて言葉にできない。

「それに、雄代くんには翔哉くんがいるし……」
「ううん。さっき翔哉も言ってたけど、俺は誰のものでもないよ。翔哉だってそうだよ、俺以外の人とも踊るでしょ? 舞音くんとだって」
「……そう、まあたしかに」
「だからまずは俺と踊りながらさ、他の人たちとも踊ってみたらいいんじゃない? 自分から誘うのが苦手でも、舞音くんならそのうち、一緒に踊りたいって誰か声かけてくるよ。そしたら、いつかきっと相性のいい相手が……」

 説得をするかのような口ぶりで話していた雄代くんが、急に固まった。貼り付いた笑顔をそのままに、足を止めて目だけが泳ぐ。

「……雄代くん?」

 笑顔は消え、次第に困惑の表情へ変わる。視線は彷徨い、眉間に皺が寄っていく。軽く首を傾げながら指先で顎に触れ、その指で唇を挟んで撫でている彼に、俺は何と声を掛ければいいのかわからない。
 急に、どうしたんだろう。戸惑う俺と、ハッと意識を戻した雄代くんの視線が合って、また心臓が跳ねた。

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