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12.執事と黒歴史(2)
「何かしら、これ……」
「こちらの手紙はお嬢様に宛てたもののようですね」
確かに封筒の表面には私の名前が書かれている。クロードから受け取って中を開けてみると、便箋が二枚入っていた。
「ええと……『このカメラには被写体を美しく彩る機能が付いているんだ。キミの執事に写真を撮ってもらうといい』……ですって」
クロードがカメラを手に取る。こんな小型のカメラ、ここでは初めてみた。
魔法が当たり前にあるこの世界では、カメラは前世ほど普及しておらず、写真が必要なときは業者を呼んで撮ってもらっていた。
珍しいものだからエドワード殿下はこれをくれたのだろうか。
でも、なぜクロードに?
不思議に思いながら見ていると、無表情のままクロードがカメラを木箱に戻そうとしていることに気付いて、私は慌てて止めた。
「ちょっと! 聞いてなかったの? 殿下が使うよう言っているのよ」
「お断りします。こんな得体の知れないもの、使う気になれません」
「でも、殿下のご厚意を……」
「お嬢様はどうも危機意識が低いようですね。善意に見せかけた悪意などいくらでもあるのですよ。――無意識下でも危険を察知することができるよう、カリキュラムを組むべきでしょうか」
「い、今はいいわ!」
クロードのスパルタ教育が始まりそうになり必死に拒否する。もしそんなものが始まったら、日常的に罠を仕掛けられて心休まる時間がなくなってしまう。
「でも、被写体を美しく彩る機能ってどんなものなのかしらね?」
目を大きくしたり肌を綺麗にしたりする機能がついているのだろうか。もしくはシャッターを押した瞬間に魔法が発動して、背景が変わるなんてこともあるのかもしれない。
「綺麗に写してくれるのなら気になるわ」
「お嬢様は十分お美しいので不要ですよ」
サラッと返された言葉に、一瞬時が止まったかのような衝撃を受ける。
「あ、あ」
美しい、なんて言われ慣れている。いつものように「ありがとう」と軽く返すつもりだったのに、私の口から出たのは全く別の言葉だった。
「当たり前でしょう⁉ わたくしが美人で優秀で完璧な淑女であることは言われなくても分かっているわ!」
「……そこまで言っておりません」
クロードのあきれたような視線を感じて、カッと頬が熱くなる。
不意打ちの賛辞ごときで動揺してしまった自分が恥ずかしい。
しかもその動揺までバレるなんて。正直居たたまれない。
クロードを前にしてこれほど羞恥に震えたのは『勝負下着事件』以来だ。
――勝負下着事件。それは、私の中でも一、二を争う黒歴史である。
懇意にしている仕立屋のマダムと次のパーティーで着るドレスについて話をしていたとき、たまたま下着の話になり、たまたま『年頃の女性なら一枚くらい勝負下着と呼ばれるものを持っていた方がいいのではないか』という話になったのだ。
貞操を重んじる貴族令嬢に、勝負の機会などないことはもちろん分かっている。ただちょっと思い切ったことをして楽しみたかっただけ。
話は大いに盛り上がり、一緒にいたデザイナーを巻き込んで、私たちは最高の一枚を作るべく知恵を絞った。胸元には煌めくビジューをつけて視線を谷間に釘付けにしようだの、ショーツはTバック一択だのと、考え抜かれたその下着は最高の一枚になるはずだった。
それなのにクロードにバレた。
完成したその日にバレたし、なんなら姿見鏡の前できゃあきゃあ言いながら服の上から勝負下着を体に合わせているところを見られた。
(…………鏡越しにクロードと目が合ったときは血の気が引いたわ……)
正直、あのときは動揺しすぎて自分でも何をしたのか記憶が曖昧だけれど、少なくとも勝負下着は一度も着用することなく処分してしまった。
今にして思えばどうして捨ててしまったんだろう。過去に戻ったところで多分また同じことをすると思うけれど、本当に悔やまれる。最高の勝負下着、一度くらい着ておけばよかった。
(でも、私があんな卑猥な下着を持つような女だとクロードに思われたら、もう、もう……)
当時感じたはじらいを思い出してしまい、ますます顔が赤くなる。
誤魔化すように、私はカメラの話題に戻した。
「ク、クロードが使わないなら、そのカメラ貸してちょうだい」
クロードが持つカメラを取ろうと手を伸ばす。
「お嬢様、落ち着いてください」
今の私に渡したら落としかねないと思ったのか、クロードが体の向きを変えてガードする。
「なによ。いいじゃない渡してくれたって」
後になって思えば、何でそこまでしてカメラが欲しいと思ったのかよく分からない。
けれど、そのときの私は動揺のあまり正気ではなかった。止められるとますますムキになってしまって、なんとしてでも手に入れようとカメラを追う。
クロードの両手に収まっているカメラを奪い取るために、クロードが触れていない部分を掴んだ瞬間、私の指先がシャッターボタンに触れた。
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