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71.クロードの幼少期(1)

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 初めてジェシカに会ったのは、僕が八歳、ジェシカが五歳のときだ。

 住み慣れた王宮を出ることも、家族から離れて暮らすことも、あまり不安に思っていなかったけれど、ジェシカを見て、初めて『この家で僕は本当にやっていけるのだろうか?』と心配になった。

 クランベル公爵から家族の紹介を受けたとき、ジェシカは覚えたての礼を僕に見せてくれた。
 にっこりと笑って「クロード様、ごきげんよう」と礼をしたジェシカは公爵令嬢としてよく出来ていたけれど、一度挨拶が終わればあとはもう、元気の良さを爆発させていた。
 自分は生まれつき感情の起伏が少ない性質だったし、兄とは五つ年が離れていたため喧嘩にもならない。王子である自分の周りに、こんな騒がしい者はいなかった。
 だから、五歳のジェシカと会ったとき、『この珍獣はなんだろう?』と少し驚いてしまったくらいだ。

 よく笑い、よく泣き、よくしゃべり、よく怒る。
 クランベル家の長女ジェシカは、子供らしい感情豊かな生き物だった。

 初めは扱いに困っていた僕も、「クロード様! クロード様!」と懐かれれば悪い気はしない。
 愛らしい笑顔で「遊んで!」と言われば、ちょっとした魔法で楽しませることくらい苦じゃなかった。

 愛されて育ったジェシカは両親からも使用人からも甘やかされがちで、「ジェシカはこれがしたいのっ!」と、ぷくっと頬を膨らませれば大抵のことはさせてもらっていた。
 でも、僕だってまだ子供だし、それほど優しい性格でもない。
 膨れるジェシカの顔を掴んで、ほっぺたをむにっと潰すと「我が儘言わないの」と笑顔で凄んで……ではなく諭していた。
 白くて柔らかい、上等なお菓子みたいなほっぺたが、僕の手で形を変えるのはおもしろい。
 それに、笑顔のジェシカはもちろん可愛いけれど、涙目で「ごめんなふぁい……」と謝るジェシカもなんだか可愛かった。

 僕はクランベル家に来たことで、再び心穏やかに過ごすことが出来るようになった。
 当時はまだ『お客様』という関係だったけれど、その一年後、転機となる出来事が起きた。



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