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謝罪 sideサイラス
Side サイラス
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「…入ってもいいだろうか」
夕食を欠席したセイラの部屋へと足を運び、扉の前でそう声をかけた。
少し間を置いて返事が返ってくる。
「…ええ、どうぞ」
「ありがとう」
気分が悪いと言っていたセイラの顔色は思ったより悪くなく少しほっとする。
これからする話が彼女の負担にならないといいが…
「それで、何か御用ですか?」
訝しげに問う彼女に、私は小さく息を吐いて口を開いた。
「今まで、本当にすまなかった」
「…え?」
深々と頭を下げると困惑したような声が耳に届く。
「急に謝られてもわけがわかりません!兄様は何に対して謝罪をなさっているのです?」
早急な私に対し、彼女の意見は尤もだった。
「お前に、自分が愛されていないなどというひどい誤解を与え…今まで傷つけ続けてきたことだ。これまでの私の態度は、そう思わせても仕方ない最低なものだった。長い間、辛い思いをさせてしまって本当にすまない」
ミレイユばかりを優先し、セイラのことを蔑ろにしてしまったこと。
セイラにとって不名誉なことを述べるミレイユの言葉を否定せず、彼女を宥め落ち着かせるだけに留まってしまったこと。
セイラならわかってくれるはず、そんな私の身勝手な思いは、彼女を傷つける免罪符になんてならないというのに。
私の言葉にセイラは心底驚いた様に目を見開く。
今更謝罪されても信じられないのが普通だろう。
「言い訳にしかならないが、私はしっかりしたセイラに甘えてしまっていた…セイラのことを強い子だと、そう思い込んでいたのだ」
「私が、強い…?」
首を傾げる彼女に、私はこくりと頷いて言葉を続ける。
「母を亡くして泣いてばかりだったお前は、いつしか涙を見せなくなった。泣き言なんて一度も漏らさず、いつも楽しげな笑顔を浮かべていた」
思えばセイラがその様に変わったのは、丁度私への次期当主としての厳しい教育が始まった頃だった。
優しかった母を失い精神的にも落ち込んでいた状況の中、身の丈以上の指南を受けることは想像以上につらく困難なもので、セイラを守るどころか構ってやる余裕すら失われていった。
疲れ果てた私を見て、彼女はきっと無理をしていたのだろう。
今ならそんなこと簡単に理解出来るというのに…
「そんなお前の姿に、私は愚かにも勘違いしてしまった。私が守っていかなくてもセイラなら大丈夫だと」
私に負担をかけないよう必死に努力したセイラに、最低な思い込みをしてしまった。
彼女の逃げ道を絶ったのは私だ。
私の言葉に、セイラはぐっと唇を噛み締めていた。
あれから長い年月が過ぎた今でさえ、彼女は悲しみを表に出すことができないでいる。
ミレイユがやってきたのは、厳しい教育にも一段落がつき、私が心の余裕を取り戻し始めた頃だった。
両親を亡くして失意のどん底にいたあの子は、弱々しく泣き虫で、ひどく庇護欲をそそられた。
「ミレイユは、昔のセイラのようだった」
「今も昔も、私は私です。ミレイユと似ているところなんて…」
「ああ、セイラの本質はずっと変わらない。だが、私はそんなことにも気づけない愚か者だったんだ」
セイラもミレイユも、困難な状況をがむしゃらにもがき続けて、今日まで必死に生きてきた。
私はどちらかを優先するのではなく、どちらのことも同じ様に支えていかなければならなかったのだ。
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視点続きます!
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