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家族の形 sideサイラス
セイラは私の言葉に黙って耳を傾けていた。
私は意を決してとあることを口にする。
「ひどく残酷な事実だが、私達は両親に大切に思われているわけではない」
「…そう、ですね」
「やはり気づいていたか」
おどけたように小さな笑みを零す私に、彼女は困惑気味な様子だった。
いきなりそんなことを言われても反応に困るに決まっている。
「私はセイラよりずっと臆病だから、そんな事実から目を背け続けていたんだ。両親に愛されていると、そう思い込むことで心の安寧を保っていた」
「…サイラス兄様がそのようなことを気に病んでいたなんて気が付きませんでした」
こんなことを妹に相談するなんて格好がつかない。
そんな風に、以前の私は自分の面子ばかり気にして、不甲斐ない姿を晒すことを恥ずかしく思っていたのだから仕方がない。
「ミレイユの世話を焼いているうちに、私に愛情なんか抱いていないはずの両親と奇妙な連帯感を感じ始めた。彼らはミレイユについての話題であれば、嫌な顔もせず言葉を交わしてくれたんだ」
普通の家族のように談笑することなど、それまでの私には想像することさえできなかった。
「それがまるで、ミレイユを守ることで繋がった家族の絆のように思えた。長年欲していたものを手に入れた気になって、私は舞い上がっていたのかもしれない」
やっと、息子として見て貰えたと。
…そして、そんな歪な関係に溺れていったのだ。
「そこに、誰より大切だったはずの妹の姿は欠けていたというのに…」
「…サイラス兄様」
セイラが悲しげに眉を顰めて私の名前を呟く。
守るべきものを蔑ろにして、残ったものは偽りの家族の形。
両親は結局ミレイユを溺愛するだげで、私のことなど一度だって見てくれたことは無かった。
私はそんな事実なら目を逸らしていただけにすぎない。
「本当に、すまなかった。お前に背伸びをさせ、甘えられなくしてしまったのは、ひとえに私の弱さが原因だ。誰にも頼れず、辛い思いをさせてしまった」
私の言葉に、セイラは戸惑ったような表情を浮かべていた。
その瞳が、微かに揺れている。
「…不甲斐ない兄だった」
兄と名乗ることさえ、最早許されないのかもしれない。
セイラはきっと、こんなろくでもない家族との縁なんて早く切ってしまいたいはずだ。
…その選択が間違っているなんて思わなかった。
「兄様のことは、許せません」
言葉を途切れさせた私に、セイラが口を開く。
許してもらえるなどとは思っていなかったものの、はっきりとそんなことを言われると少し胸が痛む。
私はまだ甘えを捨て去りきれていないようだ。
「ああ、すまない」
「だけど、兄様の謝罪は受け入れます」
「っ…!」
今更すぎる懺悔など拒絶されて当然だというのに、この妹はそれを受け入れるという。
「どうして…」
「私が傷ついたことは事実です。二年間、心が休まる日なんてほとんどありませんでした」
セイラは私の目をじっと見つめながら話し始める。
先程までの不安気な瞳からは一変して、芯のある強い目だった。
「だけど、それは兄様もだった。私は貴方に見捨てられたと思い込んで、一人塞ぎ込んでしまいました。自分の痛みばかり気にして、兄様の傷に目を向けたことなんて一度も無かった…」
「…私の傷なんてお前が気にすることではない」
セイラがそんなことで気を病む必要なんてない。
私の言葉に彼女は困ったような笑みを浮かべた。
「家族ってなんだと思いますか?」
「…難しい質問だな」
普通の、それこそありふれた平凡な家族関係など、私達は経験したことがない。
亡くなった母は優しかったと思う。
だけど、心が強い人ではなかった。
病床で泣いてばかりだった彼女に子どもらしく甘えることなんてとてもではないができなかった。
「私は、互いを思いやり、支え合っていくものだと考えます」
そんなことを言うセイラはやけに穏やかな表情をしていて、彼女はもう既にそのような相手を見つけたのだと感じた。
「兄様を思いやることができなかった時点で、私だって妹失格ですね」
自嘲気味にそう零すセイラに咄嗟に否定の言葉を述べる。
「…失格なんて、そんなわけがないだろう。セイラは私を思いやってくれていた。それを裏切ったのは私だ」
本当に、その言葉に尽きる。
…セイラの心を裏切り続けてきたのだ。
以前の私は、その罪を自覚することすらできなかった。
「自分の罪に気づくことが出来たのはキースのおかげだ。あいつは、甲斐性のある素晴らしい男だ。私が言えたことではないが、きっとお前を幸せにしてくれる」
もう、兄としてセイラのそばに居たいなんてそんな図々しいことは願わない。
…陰ながらセイラのために尽力することくらいは許してもらえるだろうか。
「セイラ、お前の幸せを願っている」
心からの言葉に、彼女は小さく目を見開いて口を開いた。
「私も、妹として、離れた場所から貴方の幸せを祈っています」
「っ、ありがとう…本当に、すまなかった」
妹として、そんなセイラの言葉に涙が滲んだ。
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