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いってきます
しおりを挟む長きに渡り緊張状態だった我がラミティカ王国と隣国デルタが開戦の兆しを見せたのは約三ヶ月ほど前の事だった。
小さないざこざがついに全面戦争となり、この度国に属するたくさんの騎士や兵士が戦地に送られる。
私の幼馴染で婚約者のアレスもその内の一人だった。
「…アレス、お願いだから死なないでね」
彼の胸元に綴るように手を伸ばし、その綺麗な淡い碧色の瞳をじっと見つめて呟いた。
「俺がルイーゼ遺して死んじゃうと思ってんの?んなわけないじゃん」
そんなこと言われても、今から戦争に行くという婚約者を心配しない人なんていない。
アレスはこのラミティカ王国でも少数精鋭と呼ばれる第一騎士団の副団長だった。
勿論実力ある彼らが国の運命を決めるような大きな戦争に参加しないわけもなくて、彼はいよいよ今日出征してしまう。
「じゃあ怪我もしないで」
「それは約束できないかな、さすがに」
困ったように笑う彼にじんわりと自らの瞳に涙が溜まるのがわかった。
行って欲しくない。
だけど、そんなこと言ったって仕方ない。
「だけど、俺は絶対ルイーゼのもとに帰ってくるから…大好きな俺のこと四六時中考えて悶々としててよ?」
「…何それ。あんまり遅かったらアレスのこと忘れちゃうんだからね」
「いやそういうこと言うのマジでやめて?俺ルイーゼに捨てられたら死んじゃうよ?」
「どうして今死ぬとか言うのバカ!」
…不謹慎すぎる。
目の前の彼はカラカラと笑いながら、私を引き寄せて、むぎゅっと力強く抱きしめた。
「っ、アレスの感触も、忘れちゃうよ」
「お願いだから、覚えてて」
なんだか切なそうな声に、ますます涙腺がゆるんでしまう。
「こんな思いするくらいならアレスは家のお金で贅沢三昧のぼんくら貴族なんかで良かったのに…」
そうして私の傍にずっといてほしい。
「え~、さすがにそんな俺好きになんないでしょ~?」
「なるよっ、アレスだったらなんでもいい」
「だったら行くのやめようかな」
そんな言葉に私は勢いよく顔を上げる。
アレスのどこか悲しげな瞳と視線がかち合って、先程の言葉が冗談だということに気づいた。
今更やめるなんてできないことはわかっていたけど、縋りたかったんだ。
「…そんな嘘つかないでよ」
「うん、ごめんルイーゼ」
彼は少しだけ体を離して、私の前髪を片手でさらりと払いのける。
「離れてても、俺の事だけ想ってて」
そんな言葉と共に私の額に温かいアレスの唇が触れた。
「…私はずっとアレスだけだよ」
「うん、俺も」
目を細めて嬉しそうに笑う彼の顔が、今度はじっと私の瞳を見つめたままゆっくりと近づいてくる。
軽く触れただけの唇はすぐに離れてしまったけれど、その熱だけがいつまでもジンジンと残っているようだった。
「行ってきます、ルイーゼ」
「…待ってるから、ずっと」
颯爽と歩き出してしまったアレスを瞳に焼き付けるように、私はその後ろ姿が見えなくなるまで視線を逸らすことができなかった。
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