婚約者が同僚の女騎士に懐かれすぎて困ってます。

のんのこ

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もったいない

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そんなことがあっても、アレスは、その日の夕方には侯爵邸を訪れた。


「ルイーゼ、ただいま」

「…おかえり」


ぎゅっと私を抱きしめる手が少し震えていた気がして、おずおずと私も彼の背に手を回した。

何があってもやはり私はアレスに弱いのだと思う。


先程までそこはかとない怒りや悲しさに苛まれていたというのに、アレスの不安そうな姿を目ざとく見抜いて抱きしめ返してしまうのだから。


「はい、ルイーゼお土産。街のケーキ屋さんで買ってきた。俺が二年も留守にしてた間に新しいお店たくさんできててなんか切なくなったんだけど」

「二年もあればいろいろ変わるよ」



「ルイーゼも?」

「さあ、どうだろう」


私としてはアレスの方が変わっちゃったんじゃないかって変に勘ぐってしまっている。


「ルイーゼは、変わらないで」

「…うん」

私が小さく頷くとアレスはホッとしたように表情を緩めて、もう一度優しく私を抱きしめた。



「じゃ、一緒にケーキ食べよ」

「夕飯が入らなくなるよ」


「そう思ってルイーゼの好きなショートケーキ一つしか買ってきてないから、半分こな」


些細なことにときめいてしまう自分が愚かに思えたのは初めてだった。


私たちは結局仲良くケーキを食べて、夕飯まで何気ない会話を続けた。



「アレスはいつになったら自分の邸に帰るんだ?」

「え~、ここだってもう俺の第二の家みたいなもんじゃん。ゼノって意地悪だねぇ」


夕食の席で投げかけられた質問に、アレスは拗ねたように唇を尖らせて答えた。



「ルイーゼだって俺と離れたくないよね?ね??」

「ルイーゼじゃなくて私はお前の常識に訴えかけてるんだけどな」

「いつもはそんなこと言わないくせに!」


私は…


私は確かにアレスが大切だし、離れたくないという気持ちも本物だって胸を張って言える。

だけど、このままモヤモヤした気持ちを抱えて彼のそばに居るのも良い選択とも思えない。



「一度、帰ってみたら?」

「帰ってるよ着替えとりに」

「そうじゃなくて」


私の言葉にアレスは悲しそうに顔を歪めて、そっと口を開いた。



「二年も悲惨な戦場で、ルイーゼの事だけ想って頑張ってきたのに…やっと帰ってきたら、ルイーゼはもう俺の事好きじゃなくなった?」

「そんなこと…」


「やっぱ俺なんて受け入れられない?しょうがないか、俺も騎士だし、戦場で敵国の奴らたくさん殺しちゃったもんね」


自嘲気味な笑みを浮かべてアレスは言葉を続ける。


「身も心も、どこまでも綺麗で純粋なルイーゼは、やっぱり俺にはもったいないのかもね」

「アレス…?」




「…ごめん、ルイーゼ。家に戻ってしばらく頭冷やしてくる」


その言葉を最後に、彼は侯爵家を後にするのだった。



…やっちゃった、と思った。



「ゼノ兄様」

「ああ、完全に例のセンチメンタルモードが発動してる」

「やっぱり」


アレスの出ていった扉から兄妹二人して目を離すことができなかった。



「今回は私がアレスの琴線に触れてしまったようだな」

「いえ、私がアレスを引き止めなかったから。浅慮だった。アレスがあまりにも二年前と変わらないから。…私だけが寂しかったわけがないのに。私には兄様やみんながいたけど、アレスは…」


二年越しに会えた婚約者に以前よりも冷たく接せられたら、誰だって不安になってしまう。

アレスはずっとずっと私を想ってくれていたという。


その気持ちは私にだってしっかり伝わっている。



あの騎士の女性に思うところはあるが、それがアレスに冷たくしてもいい理由にはならない。



「反省はここまでにしよう。久しぶりの面倒くさい状況だ。アレスは一旦ああなったら長い」

「ええ、覚えてる。三年前に私が婚約を申し込まれた男性と舞踏会で踊った時のアレスも今と同じ様に拗ねてた」


そう、アレスは拗ねてるのだ。


あれで彼は案外自分に自信がない。


だから彼はどこまでも努力するし、少しでも功績を手にするために、戦争にも参加した。



「長引くとより一層面倒だと思わないか?」

「それは確かに…」


「よし、ならあいつの家にしばらく滞在するといい」

「はぁ?」



「幸いアレスは自分と数名の使用人と別邸に住んでいるし、お前が一人住み着くくらいどうとでもなる。しっかり機嫌を治して、ついでにわだかまりも解消してくるといい」



私が彼と少しだけ気まずいということ以外には特に否定する理由もない。




「…はい」


渋々頷くとゼノ兄様は満足そうに微笑むのだった。






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