婚約者が同僚の女騎士に懐かれすぎて困ってます。

のんのこ

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大切な仲間

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アレスとの結婚を目前として、私は諸々の準備のためにしばらく滞在した彼の屋敷を出て、実家に戻った。

最近はウエディングドレスやパーティーの準備などで忙しなくしている。

そして、少しだけ余裕ができた今日、アレスのお仕事が休みであることもあり、久しぶりに彼の元に足を運ぶことにしたのだった。


約一月ぶりに訪れる彼の家。

アレスが仕事終わりに私の元へ訪ねてくれることはあったが、以前のようにたくさんの時間をとることは難しい。


会うのは三日ぶりだけど、楽しみだ。


馬車でしばらく揺られて、漸くアレスの屋敷が見えた。


「あれ…誰か来てる?」

屋敷の門から出ていこうとする人影を見つけ、来客の予定があったことを知る。

本来この時間に予定が組まれていたとしたら、邪魔をしてしまっていたんじゃないかと心配になった。


誰だろう?


「っ、あれって…マーナさん?」


黒い騎士服と、あの真っ赤な長髪はマーナさん以外考えられない。

馬車が近づいていくに連れて、彼女との距離も縮まっていく。


地面をかける馬の蹄の音に気づき、彼女がこちらを振り返った。


一瞬だけ、窓越しにマーナさんと視線がかち合った気がしたけど、すぐにすれ違ってしまったので気の所為かもしれない。


…本当に、どうして彼女がここに。

馬車が屋敷に到着した時には、急ぎ足のマーナさんはもう随分と遠くに見えた。



「ルイーゼ!会いたかった」

「…三日前にも会ったばかりじゃない」


私を出迎えた途端、むぎゅっと抱きしめてくるアレスが大袈裟に喜ぶ。

いつもならそんな態度に私も嬉しくなってしまうのに、今日だけは気分が晴れなかった。



「…ルイーゼ?何かあった?」

私の普段と違う様子に目敏く気づいたアレスがそう尋ねる。


「今、マーナさんがこの屋敷から出ていくの、見ちゃったんだけど」

アレスの顔色を窺うように、そんな言葉を口にした。

彼はきょとんとした表情でこちらを見つめる。


「ああ、うん。俺に話があるって訪問してきたんだよね」

「話…?」


早朝から、アレスにどんな話があると言うのだろうか。

いや、それはもちろん騎士団の仕事のこととか、つもる話もあるのかもしれないけれど…それでも、女性が一人で結婚前の男性の家に足を踏み入れるというのは、どうなの?


「あの、ルイーゼ?当然だけど、何も無いよ?まず家にすら上げてないからね。玄関先で用件は済ましたから!」

「玄関先で済ませられるような用事なのに、わざわざ家にまで足を運んだの?」

「や、あの、ルイーゼ?」


少し焦り始めるアレスがますます怪しく思えてしまうのは私の心が濁っているからだろうか。


「とりあえず、ルイーゼは中に入ろう?大切な婚約者をいつまでもこんなところで立ちっぱなしにさせるわけにはいかないからね?」

「…うん」


なんだか幸先の悪い一日にしょんぼりと落ち込んでしまう。


楽しみにしていただけに。


「じゃあ、もやもやはスッキリさせて楽しい一日にしよっか」

居間のソファにアレスと二人、横並びで腰掛ける。


「…マーナさんと何を話したのか、聞いてもいい?」

「うん、もちろん。俺が結婚すること、マーナはあんまりよく思ってなかったみたいでさ。俺も一応副団長だし?結婚して惚気てばっかりだったから呆れられてたのかも」


「結婚したって、アレスは今と何も変わらないでしょう?」

彼がこの国のために日々努力していることは私が一番わかっているつもりだった。


アレスは優しくて、意外とまじめで、そして、そんな彼を私や彼の周囲の人間は心から信頼している。

朝私と離れたくないと駄々をこねることはあっても、それで本当に仕事や訓練をサボったりなんて絶対しないし、自分の力を誰かのために役立てることができる人だ。


「うん、変わらない。この国を守ることは、ルイーゼを守ることでもあるってわかってるから」

「マーナさんは、ちゃんとわかってくれた?」


「うん。彼女もちゃんと騎士だからね」


穏やかに笑うアレスに、ほっとする。

と同時に、少しだけ複雑だった。


マーナさんのことひどく大切にしているようでやっぱりヤキモチを妬いてしまう。



「…マーナさんのこと随分と気にかけてる」


そんな意地の悪いことを言ってしまう私に、アレスは小さく目を見開いて、それからクスリと笑みを零した。


「ルイーゼは、俺の最愛の婚約者。あ、もう少ししたら奥さんか。…ルイーゼが不安になることは何も無いよ。俺はずっとずっとルイーゼだけの物だしね」

「…そんな可愛い顔しても絆されないんだから」

パチリと片目を閉じてそんなことを言うアレスに私は唇をとがらせる。

もう一度小さな笑みを零して、彼はゆっくりと口を開いた。


「マーナは、俺が敵国から連れてきた。その時点で、マーナの帰る場所は祖国には無くなって…幸い騎士団はマーナの居場所になり得たから良かったけど、一歩間違えば、あいつは天涯孤独になってもおかしくなかったんだ」

アレスが複雑そうな表情で言葉を続ける。


「戦場で俺はマーナを救った気になってたけど…それが本当に良かったのかすぐにわからなくなった。騎士団に馴染めるように、俺が率先してマーナと親しくしたり、色々頑張ってはみたけど…マーナが本当にこの国に来て幸せになれたのかなんて、本人にしかわかんないなって」


こんなに自信の無さそうなアレスは珍しい。

考えてみると、たしかに人一人の人生を決めてしまったようなものだ。


…不安じゃないわけがない。



「ルイーゼ?」

彼の首の後ろに両腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。


「アレスはその時正しいと思ったことをやったんでしょう?」

「そうだけど…」


「だったら、きっと大丈夫。私はアレスに着いてきて、失敗したなんて思ったこと一度も無いから。それに、マーナさんだってそんな大事な選択人任せにするわけない。しっかり自分で考えて、アレスの手を取ったんだよ」


例えその選択で彼女が不幸になったとしても、それは決してアレスのせいなんかじゃない。

彼女が自分で決めたこと。



「マーナさんがこの国を選んで幸せだって思えるように、アレスもたくさん頑張って来たんでしょう?」

「うん、俺めちゃくちゃ頑張ったよ」


「アレスのそういうとこ、大好きだよ」


頑張る理由が女の子のためだっていうこにはやっぱり少しヤキモチを焼いてしまうけど、それでも、そんなアレスだから好きになった。



「ありがと、ルイーゼ。俺もルイーゼ大好き」

「知ってる」


うん、わかってる。

アレスが私を宇宙一愛してることなんて、私が一番理解してるんだ。



…彼が同僚を気にかけることに、何を不安に思う必要がある?



「アレスにとって、マーナさんって何?」

「ん?仲間だよ。第一騎士団は全員、俺の大切な仲間」

「そっか」


未来の旦那様の大切な仲間に、私が嫌な気持ちを抱くなんて、あんまり良い事ではないよね。

きっとアレスはそんなことで私を責めたりなんてしないだろうけど、私自身が嫌だ。


彼の大切なものは、私も大切にしたい。



「素敵な仲間がいっぱいいるんだね」

アレスに微笑みかけると、穏やかな笑みを浮かべ彼も小さく頷く。


「…マーナは、良い騎士なんだ。国のためって盲目になるとこはあるけど、一度守ると決めたら自分を犠牲にすることも厭わない。あんなに騎士って言葉が似合う人もそういないよ。そんなマーナが、俺達と一緒に、ルイーゼがいるこの国を守ってくれたらすごい心強いなって思ったんだよね」


そんな風に賞賛される彼女と、私もちゃんと向き合いたいと思った。





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