婚約者が同僚の女騎士に懐かれすぎて困ってます。

のんのこ

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この国の騎士です

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Side マーナ



祖国を捨てた私には、もう副団長しかいなかったんだ。

拾ってもらったこの命は副団長のために使おうと思っていた。


「結婚するんだよね~」

普段と変わらない、いや、普段よりも一段と間延びした口調で、幸せそうな表情で、そんなことを言った彼に、目の前が一瞬で真っ暗になるような感覚を覚えた。


勝手に思い込んでいたんだ。

副団長の居場所は、ここにしかないと。

この、第一騎士団にしか。


結婚してしまったら、副団長の居場所は騎士団ではなく、伴侶であるあの綺麗な女性の元になってしまう。

そんな現実とても受け入れられなかった。


もやもやとした気持ちをぶつけるように、ひどく嫌な言い方で苦言を呈した自分は浅はかだったと今ならわかるけれど。

副団長の気持ちは嫌という程理解できた。

大切な人を守るために剣を振るうことは、自分の志と微塵も相違なかったのだから。



「マーナさん、大丈夫ですか?」

「…クリス」

騎士団に入って仲良くなったクリスが私に声をかけてくる。

彼は女嫌いだというのに、私にはどうしてか心を開いてくれていた。

私が女を捨て、剣を選んだ騎士だからなのかもしれない。


「別に、何ともない」

「何ともないわけないですよね。副団長も、マーナさんに気を持たせるようなことして、自分はあっさり結婚なんて」

苛立った様に表情を歪めるクリス。

気を持たせる、なんて言葉に少し驚いてしまった。


「…気づいていたのか?私の気持ち」

「わかりますよ。貴女は案外嘘が下手ですから」


あの日、副団長へ抱いた恋心。

隠しきれていなかったのなら、それは私の不手際だ。

こんな邪な思いは捨て去るべきだったのに。


唇を強くかみ締めた。


関係ない。

この気持ちは、副団長の結婚に反対することとは、何も関係ない。

自分に言い聞かせるように脳内で呟く。


自分の愚かな想いを見透かされているようで、クリスの慰めが今はつらかった。


「副団長の思いはよくわかった」

「…そうですか」


「だけど、」

言葉を言い淀む私に、クリスはただただ耳を傾けて、じっと私の言葉を待っている。



「あの令嬢に、副団長の志を支える器があるのだろうか」

それだけが疑問だった。

副団長の気持ちはよくわかったし、それを否定する気はない。


戦に出ていた二年、副団長は一心に婚約者を想い続けていた。

あの令嬢のために剣を振るっていたのだ。


死ぬ気で生き抜いた。


それ程想われ、大切にされているような彼女であるのに、その振る舞いには疑問に思うところが多々あった。


訓練中に顔を出して団の集中を乱し、副団長というものがありながら、王太子とまで仲睦まじい様子を見せ…



「あの令嬢は副団長の弱みになりかねない。それなら、私の方が…彼を支えられる。そう思ってしまうんだ」

大切な恩人で、心から惚れた人間の幸せを喜ぶことができないというのは悲しいことだが、一度胸に抱いたもやは簡単に解消されることはないらしい。


「その気持ち、俺はちゃんと伝えた方がいいと思います。副団長は今少し盲目になってるだけです!マーナさんの気持ちを知ったらきっと…」

「クリス?」

真剣な瞳で訴える彼も、副団長の結婚を良く思っていないのかもしれないと感じた。

やはり騎士団の中にもそう思う人は少なくないんじゃないだろうか。


「マーナさん、きっと後悔します。このまま何も話せず、副団長を手放したら」

そんな言葉にひどく胸が揺れた。


「俺は、マーナさんにつらい思いして欲しくないです。副団長だったらきっとマーナさんの気持ちも受け止めてくれるはずです!」

「…そうだろうか」

「そうですよ。明日はちょうど副団長は休みですから、訓練所に来る前に副団長と話してきたらいいですよ」

私の迷いを振り払う様に、クリスが背中を押してくれる。


「これで何かが変わるわけではないのかもしれない。それでも、話をしてみるよ」

「はい、心から応援してます、マーナさん」





■□▪▫■




早朝から副団長の家に足を運んだ。


「マーナ?話したいことって?」

先触れを出して話があることを伝えていたため、副団長は眠そうにしていたものの私を追い返すことはしなかった。


婚約者がある身であるせいか、話は玄関先で言われたがそれで十分だ。

未だ寝癖を残した髪にすごくプライベートな空間に入ってしまっているようで少し緊張する。


「…結婚なんて、今する必要あるんですか」

ゆっくりと口にした言葉に、副団長はよくわからないといった風に首を傾げる。


「必要あるかないかで言うと…すっげえあるかな~」

にんまりと笑ってそう言った副団長に思わず顔を顰めてしまう。

そんな私に気づいたのか、彼はその顔に薄く笑みをのせて言葉を続けた。


「結婚したらやっと俺だけのルイーゼになるんだよ?もう何があっても、例え俺がまた戦争なんかで遠征に行ってもどっかのバカに求婚されることも変な虫がつかないか不安になることもない。それに、ルイーゼが俺の家族になって、毎日俺の帰りを待っててくれるなんて、こんな幸せなことある?」

いや、ないでしょ、なんて一人で自問自答している副団長には訓練や戦場で見せる威厳なんて微塵も感じられない。


副団長のこんな姿は見たくないのに、今の彼は心の底から幸せそうだった。

…彼の幸福を願えない自分がますます浅ましく思える。



「では、どうしてルイーゼ様なのですか。安全な場所でぬくぬくと副団長の帰りを待つなんて、誰にだってできる」

「ええ…」


「正直、あの方は我々が帰還してから副団長の邪魔をすることしかしていないのでは?」

拳を強く握りしめて自分の思いを吐露する私に、副団長は困ったような笑みを浮かべた。



「マーナは、俺とルイーゼの結婚が職務の妨げになるって言いたいんだ?」

「…率直に言えばそういうことです」

こくりと頷いて答える。


「じゃあ、全く問題ないよ。俺の仕事への原動力は全てルイーゼだから。昨日も言ったけどルイーゼがいるこの国を守るために俺は騎士をやってる」

「だけど、副団長は戦場にいた時よりも目に見えて変わってしまいました!!」

私の言葉に副団長はそれまでの笑みをかき消し、スっと鋭く目を細めた。



「どうして、戦場の俺が本当の俺だと思ったわけ?」

「っ…」

「あんな地獄みてえな場所で、本当の自分でいられる人間なんて一握りだと思うよ。少なくとも俺には無理。根っこの部分は同じでも、あそこでは常に緊張感の糸が張り詰めた状態で心安らぐことなんて一度もなかった。それは皆同じだっただろ?」

悔しいけど、最もな意見だった。

だったら、私が見ていた彼の姿は何だったというのだろうか。


戦場で出会っ他私たちが帰還して過ごした時間なんてたかが知れている。

今の副団長が本来の彼ならば、私は何のためにこんな苦言を呈していたのだろう。



見る目が、なかった…?

いや、だとしても副団長はやはり、私を救ってくれた命の恩人だ。


「戦場での貴方は偽りの姿だったのですか…?」

「いや、あっちも俺だけど?」

私の質問に事も無げに答えた副団長にますますわけがわからなくなる。


「どこにいたって、どんな状況であっても、俺が俺であることには変わりはないし、たまたま俺がかっこいい時に出会ったのがマーナだっただけ。だからマーナが今の俺を受けいれたくない気持ちもわかるよ。ルイーゼの前ではただの情けない男になっちゃうの、自覚あるし」

自分で自分をかっこいいなんて言う副団長。

きっと少しでも雰囲気を和らげようとあえてそんな風に振舞っている。


結局私は彼の一部しか見れていなかったと言うのか。

そして副団長もまた、全てを曝け出せるのは婚約者の前だけなのかもしれない。


悔しい。


「最初から、副団長の居場所はルイーゼ様の元だったのですか」

「マーナに出会った時、言ったでしょ?俺は大切な人を守るために戦ってるって。ルイーゼがいるから俺はどんなことでも頑張れんの」


眩い笑顔でそう言う副団長。

見ていられず、そっと視線を逸らした。


「だからマーナも、国のために生きるとか、そんなことばっか考えずに、肩の力抜いて大切な誰かと生きるために頑張ればいいんじゃない?」


…私は副団長と肩を並べて生きていきたかった。


崇高な使命のために戦っているつもりが、いつの間にかこんなことを考えるようになった自分に嫌気がさす。



「だけど、あの方より私の方が貴方を支えられる…!」


「うん、いつもみんなには支えてもらってる。みんなのおかげで、俺は自分の剣でルイーゼを、そしてルイーゼが愛するこの国を守ることができる」


ありがとう、なんて言って笑うその人に、

もう、敵わないと思った。



…私が何を言っても、副団長の意志が変わることなんて決してないのだ。

以前の私は、まるで祖国の奴隷だった。


命令に従うのは当たり前で、そこに自らの意思なんて存在しない。



だから、初めてだった。

この人のために生きたいと思ったのは。



この人と背中を合わせて生きていきたい。

この人を支える存在でありたい。



そう願っていた。




「私は、この国の騎士です。私も、貴方と一緒に、これから先も…ずっとこの国を守っていきたい」

「頼りにしてるよ」



私の願いは、既に叶っていたのかもしれない。

心から惚れた相手と、同じもののために戦えるのだ。



___そんなの、本望以外の何ものでもない。







Side  end




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