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めんどくさい
しおりを挟むSide とある騎士団員
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
その日副団長は今まで見たことがないくらいしまりのない顔をして訓練所にやってきた。
「副団長どうしたんすか~?表情ゆるっゆるっすよ?」
呆れ顔をして尋ねると、副団長はよくぞ聞いてくれたとでも言うように嬉嬉として口を開く。
…うわぁ、なんか聞かなきゃ良かったかも?
「俺、結婚すんだよね」
「結婚!?副団長がぁ!?」
勿論、この人に婚約者がいたことは最近発覚して把握していたが、それでも長年染み付いてきた印象は簡単にぬぐい去ることなんて出来ない。
副団長が誰かと一緒になるなんて…
「それは…おめでとうございます」
驚きを隠せないまま祝福の言葉を述べると、副団長は満足そうな笑みを浮かべていた。
ちらりと周りを見ると、俺と同様目を丸くする団員達がこちらを凝視しているのがわかる。
「幸せすぎて怖いよほんと」
にやにやと口角を上げながらそんなことを言う。
「…結婚なんて、騎士にとってはしがらみ以外の何物でもないと思いますが」
渋い顔をしてやって来たマーナは、副団長の結婚を素直に祝うことができないらしい。
…まあ、気持ちはわからなくもないけど。
マーナは自分の命を救ってくれたも同然のこの人に陶酔している節があるから。
女心なんて俺にはわかんねえけど、きっと彼女は副団長に恋してるんだと思う。
女っ気がなかった団長が初めて自分から関わった女がマーナであると、騎士団の仲間たちだって誤解していた。
俺達が変にはやし立ててマーナの気持ちを昂らせてしまった部分もあるんじゃないかと少し反省している。
「私達が守るのは、自らの伴侶などではなく、この国でしょう?」
「…国を守るってのは、家族を守ることに直結すると俺は思うけど?」
マーナの言葉が副団長に響くことはない。
「マーナ、落ち着けって。ほら、訓練もそろそろ始まんだからあんま熱くなってたら後がもたねえぞ?」
「私は副団長と話をしているんです!外野は黙っててください!」
「おまっ、仮にも先輩だぞ俺?」
面倒くせえ、まじで面倒くせえ~。
副団長はムキになるマーナなんて歯牙にもかけず先程同様ににへにへと甘ったるい笑みを浮かべていた。
「正直、がっかりです。国のために命をかけて戦った騎士がこんなにも志の低い人間だったなんて」
「っマーナ、言い過ぎだ!」
上官に対してあまりにもな言い草に流石に止めに入るが、いきり立ったそいつには届かないらしい。
俄然眼を釣り上げる始末だ。
「志、ねぇ。じゃあ聞くけど、お前はそんなに崇高な大義を抱えて戦ってんの?」
「っ、私は…」
副団長の言葉に、マーナは少しだけ言い淀み、そうしてぐっと拳を握りしめて口を開いた。
「私を救ってくれたこの国…っ、救ってくれた人のために、命をかけて戦っています…」
「ふうん、なら俺と同じじゃん。俺だって、俺を救ってくれたルイーゼを少しだって辛い目に合わせたくない一心で戦ってた」
そう言った副団長の瞳はどこまでも澄んでいて、それが紛いなく本心であることがひしひしと伝わってくる。
婚約者である彼女のためなら、何だってやってやる、そのような泥臭ささえ感じられた。
「…おな、じ?」
「大切な人を守りたいって、当たり前の感覚だろ。俺は確かにルイーゼに夢中で、正直うつつを抜かしている自覚はあるけど、ルイーゼのためならどんな死地でもくぐり抜けるし、ルイーゼがいるから決して折れずに強くあろうと自分を奮い立たせることができる」
「っ…」
ここまで堂々と婚約者への愛を宣言されては、流石のマーナも形無しだ。
悲しげに揺れる瞳に仲間として心が痛まないわけではないが、副団長のことはきっぱり諦めた方が身のためだろう。
「ルイーゼがいなかったら俺なんて初陣で呆気なく戦死しちゃってただろうね。こんなところで副団長なんてやってない」
その言い草では、婚約者のあの人がいなければマーナと出会う未来もなかったと言われているようだった。
見ているこっちまで苦しくなる。
「…そうですか。副団長の気持ちはわかりました」
「うん」
「生意気を言ってすみませんでした」
淡々と口にするマーナの姿にはどこかやるせなさを感じたものの、冷静さを取り戻したようだった。
「あなたが戦う理由と私の志は確かに似ています。貴方は心からあの方を大切に思っているんですね。二年も離れていたと言うのに…」
副団長に向けての悲痛めいた言葉。
戦場から帰ってきてしばらく、敵国だったこの国にやってきて、初めに手を差し伸べてくれた副団長の存在が大きな拠り所となっていたのではないだろうか。
想いを募らせていたところに、婚約者の来訪。
マーナにとって、副団長に婚約者がいたことは、寝耳に水のような話だったのかもしれない。
ぽっと出の女性に最愛の人を奪われたように感じたのだろう。
マーナの味方をするわけではないが、そう考えると、暴走する気持ちもわからなくはなかった。
「自分のことは棚に上げて、あなたを責めるのはお門違いだったと今ならわかります。副団長が私を拾ってくれたあの時も、あなたは国に残した大切な方のために剣を振るっていて…私はそんなあなたの姿に憧れを抱いたというのに」
マーナが恋をしたのは、婚約者を守るため、命懸けで戦っていた副団長で、きっと婚約者の彼女の存在がなければ、マーナを救いあげようとする心の余裕なんてものもなかったのだろう。
「別に、マーナの考えを否定するわけじゃないよ。俺は大切な人の幸せのために動くけど、マーナが国や国民に尽くそうとする気持ちは間違ってはないだろ?何に心を傾けるかは人それぞれで、揉めるのも変な話だ」
「そうですね…」
「結婚したってルイーゼばかりにかまけず、騎士団の仕事も全うする…ように、努める」
やけに弱々しい言葉ではあるが、元々やる気に満ちた人間ではないので誓ってくれただけ結構なことだ。
「だから、今までもこれからも、俺はこの騎士団の副団長なので!結婚してこのむさ苦しい所帯の中で一人だけ群を抜いて幸せになったからって、あんまり気にせず、今まで通り接してくれ」
「…うわぁ」
下手に出ているようで確実に煽り散らかしてくるその人に思わずげんなりとした声が漏れる。
マーナと副団長のやりとりにこそこそと聞き耳を立てていた連中も同様の心持ちだろう。
「さっ、訓練始めるか~。誰かぐうすかいびきかいて寝てるそこの団長叩き起してくんない?」
照れ隠しなのかなんなのか、自分から訓練に勤しむ副団長を見て腰を上げ始める団員たち。
その後の訓練で、もうマーナは副団長にタオルを渡さなかったし、広くなった距離感に不自然さは感じられなかった。
_____だから、きっともう大丈夫。
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