婚約者が同僚の女騎士に懐かれすぎて困ってます。

のんのこ

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必ず助けるから sideアレス

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Side アレス



訓練所で剣の素振りを行っていた時、聞きなれた声が俺の名前を呼んだ。


「アレス様!アレス様、大変です!!」


ルーカスは焦った様子で脇目もふらずこちらに駆け寄ってくる。

ただ事じゃない様子に眉を顰めた。


ルーカスには俺が留守の間ルイーゼのことを任せているはずなのに、その傍らに彼女がいないことが気になる。



「ルイーゼはどうした?」

「それがっ…」


息を切らしながら事の顛末を説明するルーカスに自分の顔から血の気が引いていくのを感じる。


ルイーゼが王宮の中でいなくなった。

城門から訓練所までの簡単な道のりでまさか迷子になるはずはない。



「はぁ、はぁっ、ルイーゼ様からのお弁当は、受け取られましたかっ?」

「いや」

「そんな…」


俺達はすぐ様ルイーゼ捜索の協力を得るため、この城に最も詳しい人間の一人であるロイドの元へ向かった。

昔馴染みである俺は誰にも阻まれることなくロイドの執務室までたどり着く。



「アレス?珍しいね、お前から尋ねてくるなんて」

「ルイーゼがいなくなった」


「え?」


一瞬で顔色を変えたロイドに、ルーカスから聞いたばかりの事情を説明する。


「私も昼にルイーゼと会ったよ。あの時私が訓練所まで送っていたら…いや、後悔しても仕方ない。ルイーゼの居場所は王太子の権限でも何でも使って必ず見つけ出す。使用人達に王宮内を隈無く捜索させるが、場合によっては宮廷魔法士にも協力を煽ごう。何か事件に巻き込まれた可能性もあるから、ルイーゼ関連で揉めたり、彼女に恨みを持つ様な人間はいなかったか心当たりを探ってくれ」

「わかった。協力感謝する」


事件、そんな言葉に背筋がゾッとする。

ルイーゼの身に何かあったらと考えると気が気じゃなかった。


清廉潔白な彼女が恨みを買うなんて想像もできないが、小さな可能性も見過ごすことはできない。


嫌な考えが脳裏に浮かぶ。

彼女が本当に事件に巻き込まれたのだとしたら、それはこの王宮に務める者の仕業であることはまず間違いないだろう。

それなら、ルイーゼよりも俺と繋がりの深い人間の犯行である可能性の方が高い。


だとしたら…

最悪な想像にぐっと唇を噛み締める。


「俺が王宮内で関わってるのなんて、第一騎士団の奴らくらいだっつの…」


そこまで考えて、頭の中に浮かぶ顔。


最近発表したばかりのルイーゼとの婚約に反対していた奴ら。

マーナとクリスは、大切な部下であり仲間だけど、ルイーゼの安否が関わっている限りそう簡単に見過ごせるわけがなかった。

仲間であろうと、ルイーゼに危害を加える人間に、俺は決して容赦はしない。



「行くぞ、ルーカス」

「はい!」


先程の訓練にクリスの姿は無かった。

マーナは近くで剣を振っていたが、昼までは城の業務についていたからそれまでの行動は把握しきれていない。



訓練所に戻ると未だ訓練に励むマーナの姿があった。

様子は普段と変わらず熱心に己を鍛えている様に見える。


「マーナ、ちょっといいか」

「…?どうしました?」


「昼は何をしてた?」

「城下の治安維持のため、団長達と視察に出向いていましたが」


確かに事前に決められた通りのスケジュールだったように思う。

団長も、ということはアリバイは成立することになる。



「そうか、わかった」

念の為団長に確認するも、マーナの話に偽りはなかった。



「団長、クリスは…」

「あいつは昼から裏門の警備を任されているはずだが…何かあったのか?さっきお前の執事が婚約者がいなくなったって騒いでたろ?何か俺達に協力することがあったら言ってくれ」


「っ、ルイーゼがいなくなりました。事件に巻き込まれた可能性もあるので、一緒に探してくれたら助かります」


団長に協力を求めると一つ返事で了承し、騎士団総出でルイーゼを捜索することを約束してくれた。



「俺はクリスのところに行ってみます」

「ああ、わかった。こっちは王宮の使用人への聞き取りと城外にも念の為足を運ばせてみる」


任せておけ、と胸を貼る団長に一礼して、俺はクリスが警備を行っているはずの裏門へと急いだ。


しかし、辿り着いたそこにクリスの姿はない。

本来警備は二人一組でやるはずだが、クリスの相方となるはずの騎士団員さえ確認することはできなかった。


「っ、くそ…!」


滅多に使われないこの場所で、人目を忍んでルイーゼに危害を加えることなど、鍛え抜かれた第一騎士団のクリスならば容易なはずだ。

最早彼の仕業であることは確定だろう。


クリスへの怒りと、ルイーゼに対する心配が頭の中でとぐろを巻いているようだった。


クリスがルイーゼを連れ去ったと言うのなら、一体あいつはどこへ行った。


考えを巡らせても思い当たる節などまるでなかった。



騎士団を総動員してクリスの行きそうなところを探してみても、一向にそいつは見つからない。

仲の良い後輩だと思っていたが考えてみると俺はクリスについて知らないことの方が多かった。

過去についてあまり触れてほしくないといったあいつの態度に、物分りのいい振りをして本当のクリスを見ようともしなかった。


そんな俺の怠慢が今回の事態を招いてしまったことに今更ながら気づく。



「クリスは、ここに来ませんでしたか?」


今は騎士団総出で王都を探し回っている最中。

俺はクリスの親代わりとして騎士団に入るまで彼を育ててきた元第一騎士団団長アーノルド・ゴーサムの元を訪ねた。

軽く挨拶をし、クリスの所在を問うと、アーノルドさんはその眉間に深いしわを刻んだ。


もう老人と言っても良い年齢だと言うのに、未だ現役同様の威厳と貫禄を身にまとい、俺達を迎える。


「クリスがどうかしたのか」

「私の婚約者を連れ、行方を晦ました可能性があります。何か手がかりがあればとこちらに参った次第です」


「クリスが…?そんな、まさか…。残念だが、クリスはここには来ておらんよ」

「そうですか」


「お前は現副団長だったか。話を聞かせてやる、中へ入れ」


何か有益な情報が得られればと、俺は促されるままアーノルドさんの家に足を踏み入れた。



「クリスについて、どこまで知っておる」

「…恥ずかしながら、騎士団に入る前貴殿に育てられたということくらいしか」

「そうか」


彼は一つ息を吐いて、重たい口を開いた。


「あいつは娼婦の子として、娼館で生まれ育った。そこで酷い虐待にあって、逃げ出したところを私が保護したのだ」


初めて知った事実に息を飲んだ。

そんなこと、予想もしていなかった。

だったら、クリスの女嫌いはそこから来ているのかもしれない。


「奴は女を憎んでいる。そして、自分が生まれ育った場所こそがこの世で一番の地獄だと思っておるのだ。その境遇からか、昔からどこか危うさのある子だった」

なんとも言えない表情で言葉を続けるアーノルドさんの話に黙って耳を傾ける。


「もしも、本当にクリスが事件を起こしたというのなら…拐われた女性は、極めて危険な状態だろう。クリスの中に燻っていた憎悪、妬み、苦しみ、そんなものをぶつけられる格好の的を得たようなものだ。…クリスは、拐われたというその女性を憎んでいたのか?」

「憎むというほど、関わりを持ってはいませんでした」

「誰でもよかったのかもしれぬな、気に食わぬ女であれば」


そんな理由でルイーゼが拐われたと思うと心底怒りが湧いてくる。

クリスと、クリスの本質を見抜けなかった自分自身に。


「クリスは、地獄に突き落とすつもりなのだろう。自分が育った地獄に」

「っ、じゃあルイーゼは」


「奴の育った娼館に連れ去られたのかもしれぬ」


ようやく掴めた手がかりは、予想以上に最悪なもので、握りこんだ拳に力がこもる。



「貴重な情報感謝します。で、その娼館はどこに?」

「それは私も知らないのだ。ただ、わしがクリスを拾ったのは、北西にある小さな村だ。幼子が歩ける程度に範囲を絞れば見つかるかもしれん。わしもつてをたどって探してみよう」

「わかりました。新たな情報があれば教えてください」

アーノルドさんにそう言って、俺はすぐ様その家を飛び出した。


ロイドと合流して、娼館を見つけださなければならない。

地域が絞られたことで、捜索は一気に進捗した。


「最有力なのは、北西の街にあるベルガモットだね。数年ほど前までは落ちぶれていたようだが、今の女主人になってから景気が良いみたいで、高級娼館といっても良い程だ」


ロイドが手元の資料を淡々とした口調で読み上げる。

そして、資料と共に添えられた一枚の写真をこちらに掲げた。


「これがその女主人だよ」

「…クリスに、似てるな」

「元娼婦が太客に気に入られて成り上がったらしいから、もしかするとクリス・ゴーサムの母親はその女なのかもしれない」


写真に写った女は、クリスに似て目鼻立ちがハッキリとした華やかな人物だった。


「ここで間違いないな。すぐにルイーゼを助けに行く」

「ルイーゼの風評を考えると、本当に信頼する最低限の人員で臨むことになる…あのレベルの娼館ならきっと護衛も手練を雇っているずだよ」


ロイドは忌々しげに眉を寄せて呟く。


「そんなの関係ない。どんな危険を冒しても一刻も早くルイーゼを助け出す、それだけだ」

「わかってる。アレス、お前の部下で口の固い人間を五人、私の近衛にも守秘義務を課して五人連れていく。勿論私も行く」

「十分だ」

ルイーゼが娼館にいるなんてことは決して知られてはならない。

彼女を救うこと、そして、彼女の名誉を守ることが最優先事項だ。


一先ず騎士団は解散させ、改めて秘密裏に行動する必要があるだろう。


「私達の大切なお姫様を連れ去ったのだから、愚かな騎士も、腐りきった娼館もまとめて罪を償ってもらわないとね」


そう言って小さく口角を上げたロイドに、これ程心強い味方はいない、そう思った。



…ルイーゼ、必ず助けるから。



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