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これが最善 sideアレス
しおりを挟む娼館は建物こそ時代を感じさせる古びたものだったが、派手な装飾がごてごてとした煌びやかな風貌だった。
ベルガモットは営業時間外なのか、明かりはついていない。
「副団長、中にいるのは雇われた護衛と娼婦、あとは女主人だけみたいっすね。開店時間にはまだ十分時間があるし、客はいないんで暴れ放題っす」
「護衛に罪はねえけど抵抗するなら容赦は無用だ。女主人を見つけたらとりあえず生け捕り」
「ラジャっす」
クリスがルイーゼをこんなところに連れてきたのだとしても、明らかに貴族である装いの彼女を何の疑いもなく招き入れたこの店に悪気がなかったとは到底思えない。
誘拐に手を貸したのと同義だ。
「娼婦達は一旦拘束して、緘口令を敷いてくれ。勿論最大限事情を悟らせないようにな」
俺の言葉に小さく敬礼する目の前の男はヨハンといって、第一騎士団でも大きな信頼を寄せている部下だった。
「裏口に人気はないみたいだ」
連れてきたのは四人の部下と、あとの一人は勿論団長である。
「アレス、私の近衛騎士を変装させて表から女主人を引きずり出すよ。大人しくルイーゼを引き渡しはしないだろうし、私たちは裏口から突入しよう」
「わかった。団長とヨハンは娼館から出てきた人間の拘束を」
「「了解」」
彼らがいれば誰かが逃げ出してここで起きたことを口外する心配もないだろう。
「行こう」
「ああ」
ぐっと拳を握りしめて、俺やロイドとその部下たちは各自持ち場についた。
裏口には当然鍵がかけられていたものの、木製のそれを破壊することなんてそう難しいものではない。
音を立てないように最低限の力で扉を壊し、中に突入する。
中は薄暗く、窓一つない廊下が続いている。
娼館なんて初めて入ったがどこもこのように陰気な場所なのだろうか。
当然ルイーゼの居場所などわからないので虱潰しに捜索していく他ない。
部屋を開ける度に素早く中にいる女達を拘束する騎士達。
彼らのおかげで俺やロイドはルイーゼを探すことだけに集中できる。
「副団長、この人が貴族らしい女性が連れ込まれるのを見たって!」
「本当か!」
部下の言葉にすぐ様その女の元に駆け寄ると、訝しげな表情で口を開く。
「何年も前に家出した坊が貴族の女を連れてきたってあの女が嬉しそうに話してたわよ!あんたらなんなのさ!あたしらは何も関係ないんだからこんな拘束さっさと外しなさいよ!!」
娼婦にしては年配なその女はクリスのことも知っているようだった。
「連れてこられた女性はどこにいる?」
「そんなの知らないわよっ!」
「隠せば共犯者とみなす。貴族誘拐に協力したとなればただではすまないぞ」
半ば脅すような言葉を投げかけると、目の前の女は顔を青ざめさせ、焦ったように口を開いた。
「二階の奥の部屋だろうさっ、あの女はお気に入りの商品はいつもあそこに隠すからね」
商品、そんな言葉に自分の眉間に皺が寄るのがわかった。
「彼女の居場所はわかった。娼婦は全員一つの部屋に。私とアレスは救出に向かう。ターナーも着いてきてくれ。行くぞアレス」
「ああ」
指示を出すロイドは外套を着込み姿を隠してはいるものの、いつも以上に凛とした雰囲気は王族特有のものを感じる。
自らこんな場所に足を運ぶほどこの男もルイーゼのことを大切に思っているのだ。
丁度二階への階段を発見した時だった。
「おいおい、騒ぎを聞きつけてやって来てみたら、まだ営業時間外だぜ?そんなに下の世話が待ち遠しかったのかぁ?」
前から現れた男は、面倒くさそうに頭をかいてそんな下品な言葉を発した。
帯剣した装いから見ると娼館に雇われた護衛なのだろう。
背後には下っ端と思われる数人の男を引き連れている。
「後ろの奴らは雑魚同然だけど、真ん中のはやっかいそうだな」
ルイーゼの救出を逸る気持ちを押さえ、男と視線を交える。
考えている時間はない。
「っ、ロイド、行ってくれ」
「アレス?お前は彼女を助けに行くべきだ」
「ここでこいつを倒せるのは俺だけだろ。多分、雇われてる護衛で一番やばいのはこいつだ。ここは俺がなんとかするから、ロイドは早く…」
それが最善だ。
そう思った。
一番確実で、ルイーゼにとってより良い方法だと思ったんだ。
「彼女を早く!行けロイドっ」
「…後悔しても知らないからな」
ロイドは意味深な言葉を残して、二階へと続く階段を上っていった。
「ターナー、お前もアレスに力を貸してやれ」
「承知しました」
ここを片付けて、俺だって一刻も早くルイーゼの元に急がなければならない。
「生憎だけど、容赦はしない」
「はぁ?そーんな小綺麗な身なりしたボンボンが俺に勝てるのかねえ」
嫌味な笑みを浮かべ煽ってくる男に、静かに腰に下げた剣を引き抜いた。
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