婚約者が同僚の女騎士に懐かれすぎて困ってます。

のんのこ

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ゆめゆめ忘れるな

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閉じ込められてから一体どれくらいの時間が経ったのだろう。

窓もない小さな部屋では時間の感覚まで忘れてしまう。


数時間か、はたまた数日か。

もう随分と長いことこの部屋にいる気がする。


「…アレス」

震える唇で愛おしい人の名前をぽつりと呟く。


アレスに会いたい。

今すぐ抱きしめて安心させて欲しい。


部屋中に漂うお香のせいか気分が悪い。

体調が悪い時は決まって隣に、心配そうに私を見つめ手を握ってくれるアレスがいた。


…どうして彼は今ここにいないのだろう。




「アレス、助けて…」


届くはずもない言葉を紡ぐ。





見ず知らずの騎士の言葉に踊らされて、アレスを信じなかった私が悪かったのだろうか。

マーナさんとアレスの関係を疑っているわけではなかった。

それでも、不安に思ってしまったのは、あんまり長い間離れ離れだったから。



二年間という時間は、私とアレスの心まで離してしまったのかもしれない。

なんて、私の気持ちの問題なのに、アレスにまで責任転嫁してしまうんだから、本当に私は弱い人間だ。



マーナさんとは何もないと彼は明言してくれた。

私だってその言葉に納得した。



それなのに、アレスがマーナさんと二人きりだと聞いていても立ってもいられなくなってしまったのだ。


こんなはずじゃなかった。

長い歳月を経て帰ってきた最愛の人と、ようやく幸せになれると思っていたのに。



夢見がちな少女のままでいられたらよかったのだけれど、なんだかもう素敵な未来なんてちっとも見えなくなっていた。



このまま誰の助けも得られず、娼婦としてアレス以外の人間にいいようにされてしまうのだろうか。

そんな私を、アレスは受け入れられる?


次にこの部屋の扉が開く時、そこに立っているのがアレスじゃなければ私はどうしたらいいの?



怖い。

最悪の結末ばかりが脳裏をよぎる。



「…アレス」

一人ぼっちの部屋で彼の名前を何度も呼んだ。

返事なんて返ってこない。



会いたい。

会って抱きしめてほしい。


助けに来た、もう大丈夫だよって、


こんなの悪い夢だからって



彼の温かい腕の中で、優しい声で、全ての不安を取り除いて欲しかった。



「…遅いよ」

もう私、待つのは疲れちゃったのに。

ぽつりと頬に雫がつたう。




「ルイーゼ?」


ふいに、扉越しに自身の名前を呼ばれた気がした。



「…私はっ、ここにいます」


「ルイーゼ!扉から離れていてくれ」



そんな言葉に、扉に近づいていた体を部屋の隅に戻す。


ガンッ


そんな衝撃音と共に扉が開いた。




「ルイーゼ、大丈夫か!」


彼は端っこに立ち尽くす私にすぐ様駆け寄ると、安心させるようにぎゅっと抱きしめる。

そして優しい声で口を開いた。


「ルイーゼ、もう心配はいらない。全て終わったから、ここから出よう」


「…はい」



憔悴しきった私を横抱きにして、そのまま歩き始める。

温かくて頼りがいのある腕だったけれど、それは私が求めていたものとは違っていた。




私を助けてくれたのは、ロイド様だった。




「ろ、いど様…」

「ん?どうした?」




「アレスは、どこ?」



いつも私を一番に助けてくれるのはアレスだったはずなのに。

流れ続ける涙のわけはよくわからなかった。

助けられた安堵と、どこか虚しい思いでちぐはぐなのだ。



なんだか考えるのも億劫になって、私はそのままロイド様の腕の中で気を失うのだった。




■□


Side ロイド


■□



ルイーゼを小さな部屋から救い出し、廊下に出るとすぐに娼館の護衛を倒したアレスが駆け寄ってきた。


「ロイドっ、ルイーゼは…」

「無事だよ。精神的なショックが大きいようだけど」


私がそう言うと目の前の男はほっと息を吐く。

その表情からはどれだけルイーゼを心配していたのかはっきりと読み取ることができるが、今回の彼の対応は悪手としか言い様がない。



「アレス」


じっと彼の瞳を見つめて言葉を続ける。



「ルイーゼは気絶する前何て言ったと思う?」

「…え?」


質問の意図がわからないといった様子で、アレスは首を傾げた。



「正解は、アレスはどこ?、だよ」


「っ…」


私の言葉にはっと息を飲むアレスに小さくため息をつく。


確かに私の戦力はアレスには到底敵わないけど、それでもあの場はやはり私に任せておくべきだったんだ。

ルイーゼはずっとアレスを待ってた。



「お前は優しいから、ルイーゼのことも私のことも大切にしてくれているのはわかる。それでも、確実な方法じゃなくても、時には優先順位を付けなければいけない時もある」

「ああ、そうだな」


アレスは私の言葉を肯定し、後悔したように表情を歪める。



「制圧は完了しましたが今後はどうされますか?」


娼館の人間を縛り上げて戻ってきたターナーがそんなことを尋ねる。


「秘密裏に処理しておけ。知らなかったとシラを切り通したところで、これは立派な貴族に対する拉致監禁だ。だが、くれぐれもルイーゼのことは漏れないよう気をつけろ」

「承知しました」


もしも彼女が誘拐されたことが知れたらルイーゼの今後の人生は大きく暗転してしまう。

ましてや娼館だなんて絶対に公にはできない。



「アレス、今回のことはお前がルイーゼを巻き込んだんだ。そのことはゆめゆめ忘れるなよ」

「ああ、わかってる」

「ならいい」


唇を噛み締めるアレスを残し、私はルイーゼを抱えて歩き出した。




side end




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