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本当に、どうしようもない※話の重複により話数が変わっています。
しおりを挟む※話が重複しており、一話分削除させていただきました。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
目が覚めて一番初めに目に入った景色は、見慣れた我が家の天井で、そんなことに心の底からほっとした。
「ルイーゼ、気分はどうだ?」
「ゼノ、兄様」
視線を横に移すと、ゼノ兄様にお父様、お母様。
家族が揃って私の様子をうかがっている。
「…アレスは?」
また、いないのね。
なんて思ってつきりと胸が痛んだ。
「もうずっと我慢したのに、」
「ああ、アレスも同じ思いだろう。すぐに痺れを切らして会いに来るさ」
家族から事の顛末をうかがうと、私は半日程娼館に閉じ込められていたらしいが、危害が加えられる前にアレスやロイド様が対処してくれたらしい。
やはりあの時出会ったクリスという騎士の犯行で、アレスと私の関係を引き裂くことが目的だったようだ。
マーナさんをひどく慕っていたことから、マーナさんの関与も疑われたみたいだけれど、自白剤を使った取調べの結果否認されたらしい。
クリスは騎士処分を剥奪され、国境の戦地に追放されることとなった。
一般の兵士と共に、最前線で戦うということは、以前よりも一層過酷な戦果の中に身を置くということ。
そう甘い罰ではなかった。
こんなにも早く刑が決まったのはひとえにロイド様の力だと思う。
とにかく、この件はこれで幕を閉じたのだ。
それなのに、
次の日になっても、アレスは姿を見せなかった。
その次の日も、次の日次の日になっても。
「本当に、どうしようもないね、あの男は」
お見舞いに来てくださったロイド様が少し怒った口調でそう言った。
「…私が迷惑をかけてしまったから、怒っているのかもしれません」
「どちらかと言うと迷惑をかけられた側だと思うけどな」
「……アレスに、会いたい」
「会いに行こうか。アレスに一発ぶちかまして気合いを入れ直してあげよう」
私の呟きににっこりと笑みを浮かべる彼は存外口が悪くて、なんだか小さい頃のロイド様を見ているみたいだった。
侍従によく叱られていた。
「勝手に会いに行って、迷惑に思われるかも…」
「ルイーゼにそんなこと思わせるなんて、ますます罪な男だ。大丈夫、ないと思うけど、万が一の時はアレスなんてやめて私に鞍替えするといい。全身全霊を込めて、慰め、甘やかしてあげるから」
「ふふ、何をおっしゃっているんですか。相変わらず冗談がお好きですね」
王太子殿下にそこまで言って貰えたなら、私も頑張らなければ。
背中を押してくれるロイド様には感謝してもしきれなかった。
「体調はもう大丈夫なの?」
「はい、元々暴行を受けたわけでもありませんから。囚われていただけです」
「そっか。じゃあ、早速今から行こうか。アレスのもとに」
■□
アレスの家の少し前に馬車をつけ、門まで歩く。
緊張して歩みが遅くなる私に合わせて歩幅を狭めるロイド様は相変わらず紳士的だった。
屋敷の門に近付いてきた頃だった。
「クリスは何をしたんですか!?騎士の身分を剥奪して国境へ追放などあんまりです!」
叫ぶような気迫めいた声が耳に届く。
声の先に視線をやると、マーナさんがアレスの家の門の前で汗を流しながら必死に思いの丈をぶつけているのがわかった。
「仲間だった私たちにもなんの説明もせず、こんなことあっていいはずがない!副団長!!どうして何も答えないんだ!!」
「…ルイーゼ、今日はやめておこうか」
私の様子をうかがいながら、殿下がそんなことを口にする。
タイミングが悪かったようだ。
踵を返そうとしたその時、
「玄関先でそうやって騒ぎ立てて、マーナは一体何がしたいんだ?お前がそうやって声を上げたって、クリスの罪が消えることは決してないというのに」
現れたアレスは、めいっぱいの冷たさを宿す声色でそんなことを口にした。
「っ、副団長」
「追放なんて随分甘い処分だろ。第一騎士団だったおかげで…こんなことなら、俺が直々に手を下しておくべきだった」
「何を言って…それが、仲間にかける言葉ですか?!」
「仲間?」
ゾッとするような冷めた表情だった。
「俺の宝物を傷つけるような人間を、俺は仲間とは呼ばない。そんなの、排除するべき害獣だ」
「っ、なにを言って…」
「俺にとってクリスは、この手で殺してやりたいくらい憎い相手ってことだよ」
淡々とし口調で話すアレスに、マーナさんは絶句した様子でわなわなと身を震わせている。
そうして、ぐっと拳を握りしめて口を開いた。
「…がっかりです。第一騎士団の副団長ともあろう人間が、そうも簡単に仲間を見捨てるなんて。副団長は、お前は、騎士失格だ!!」
マーナさんの言葉を耳にするやいなや、私の体は動き出し、つかつかと彼女の元に歩み寄る。
対峙していた二人が、私に気づき目を見開くのがわかった。
早足でマーナさんの前にやってきた私は、大きく手を振りかぶる。
パン、
なんて乾いた音を立てて、私の手のひらは彼女の頬を思いっきり叩いていた。
「騎士失格なのは、貴女が今必死に被っているあの外道の方でしょう?」
「外道、?クリスを馬鹿にしているのか!!」
「外道以外の何者でもないわ。抵抗もできない女性を攫って閉じ込めるなんて、騎士の風上にも置けないじゃない」
「っ、それは、理由があって…大体、貴女は無傷なのに、クリスだけがあまりにも重い罪を被りすぎている!」
何も知らない彼女は、どこまで行ってもあの男を擁護したいようだ。
「そんなに庇いたいなら、教えてあげる。あの男が私に何をしたか」
「ダメだ、ルイーゼ」
慌てた様子で制止をかけるアレスに、首を横に振って答える。
「ただ私を拐ったわけじゃない。あの男は、私のことを娼館に売り飛ばしたんです。私なんてアレスに相応しくないと身勝手な判断を下して、明確な悪意を持って、私の尊厳を踏みにじろうとした」
「娼館、?」
「だから、私もアレスも、あの人を許すことなんて決してできません」
ここに、きっぱりと明言しておく。
「でも、それでも貴女は、なんの不自由もなく、今だって五体満足に生きている…そのように外出しているということは、手を出されることもなかったはずだ。確かにクリスは罪を犯した。けれど、全て未遂に留まった彼には、あまりにも罰が重すぎる!」
彼女の言い分に頭が痛くなった。
「もしも、私があのまま娼館で、他人に穢されるような状況になっていたら、おぞましい指先が一瞬でも私の身体に触れる前に、私は自らの舌を噛みちぎって死んでいたでしょう」
「っ、命をなんだと」
「穢されてしまった私に、自分を責め続けるアレス。そんな絶望の中で生きていける自信なんてありませんから」
あったかもしれない未来を想像するだけで身震いしてしまう。
「…そうやって、副団長に婚約者の死を背負わせて、貴女は逃げるつもりだったのですか?そんなの、身勝手じゃ」
「私が死んだら、多分アレスも一緒に来てくれると思います」
「は…?」
私の言葉にマーナさんは信じられないといった様子で目を見開いた。
ちっともおかしいことではないのに、言葉を失う彼女が少し面白い。
マーナさんに気を取られていた私の手を引き、自分の胸に閉じ込めたのはアレスだった。
「当たり前だよ、ルイーゼ。ルイーゼのいない世界で俺が生きていけるわけないんだから」
「ふふ、知ってる」
久しぶりの彼の温度に、なんだかひどく泣きたくなった。
私がずっとずっと求めていた温かさだ。
真正面から彼の背中に腕を回すと、私を抱く手に力がこもる。
鼻の奥がツンとして痛かった。
私を抱きしめたまま、アレスが口を開く。
「俺さ、前言っただろ?ルイーゼがいるから強くあれるって。ルイーゼのために戦ってるって」
アレスの言葉に、そんなことを言ってくれたのかとじんわりと胸が温かくなった。
「あれ、逆に言うと、ルイーゼがいなきゃ俺は戦えないって意味なんだ。ルイーゼがいないと生きていけない、いや、ルイーゼのいない世界なんて生きていたくない」
私も、そうだ。
アレスのいない世界なんて考えられない。
「だから、俺はルイーゼを壊そうとしたクリスを決して許さない。マーナ、お前がなんと言おうとクリスのことを擁護する気も減刑を願うつもりも微塵もないから。むしろ、そんな戯言を吐くお前に腸が煮えくり返りそうな思いだ」
「そんな…どうやっても、副団長は、クリスを見捨てるんですね」
悔しそうに拳を握りしめてそんなことを言うマーナさん。
前提がおかしいことに彼女は気づいているのだろうか。
「罪を犯したのは、あの男だ。先程から黙ってきいていれば、あの男の罪は棚に上げて、どうしてそうも無神経に被害を受けた人間に詰め寄ることができるのか。呆れた人間性だな」
今まで口を開かなかったロイド様が徐に話し始める。
「殿下、しかし、クリスは…」
「お前は、身内を殺した殺人鬼を笑って無罪放免見逃してやるのか?」
「それはあまりにも暴論です!ルイーゼ嬢は殺されていないし、クリスは殺人鬼ではない!」
確かに、殿下の言葉はいささか過激すぎるように思えるが、本質はそこではないのだ。
「たかだか同僚に下された量刑でこうも騒げる人間が、身内を害した人間を見逃せるとは到底思えないな」
ロイド様は、嘲笑めいた表情で淡々と話す。
「大切な友人たちを傷つけられて、私も大分腹に据えかねているんだ。言葉を選ばずに言わせてもらおう。お前は一体クリスに何を言った?」
「は…?」
「お前のために、クリスはあのような罪を犯した。事情は伏せられていたが勘づいていたんだろう?」
「っ、それは」
「お前が私情を切り捨て、騎士道を貫いていれば、こんなことにはならなかったのではないか?訓練所であからさまにルイーゼを貶めたり、アレスの言動を非難したり、そのような一つ一つの浅はかな行動が、クリスの犯行を助長したとは思わないか?」
傷口にたっぷりと塩を塗り込むように、つらつらと紡がれる言葉はひどく冷ややかだった。
「犯行前、クリスに変わった言動は見られなかったか?思い悩んでいる姿は?お前のために罪を犯したクリスは、どんな様子だった?」
「っ、あ、クリスの、様子?」
「罪を犯す程、クリスに慕われていたお前なら、あの男の暴挙を止められたんじゃないか?いや、むしろ…」
一拍置いて、殿下が言葉を吐く。
「お前にしか、クリスを止めることはできなかっただろうに」
「っ!私しか、」
「まあ、そうは言っても自らの行動の責任は自ら取らなくてはならない。お前が気にすることではないさ」
そう言って緊迫した雰囲気を一気に緩めてしまったロイド様は少しだけ怖い。
普段温厚な彼のこれ程までの怒りに触れたのは初めてだった。
「もう一度言うが、悪いのは罪を犯したクリスだ。誰かが止めてあげられたら良かったのだが、優秀な騎士を失って私も残念だよ」
「…私が、止められなかったから。私が、クリスを、」
私のせいで、なんて呟くマーナさんの瞳は、もう私たちを映してはいなかった。
彼女が再度あの男の減刑を願うことは無いのかもしれない。
なんとなく、そんな気がした。
何やらぶつぶつと呟きながら、マーナさんはアレスの屋敷を去っていくのだった。
「…ルイーゼ、中に入る?」
私を腕の中から解放して、そっと声をかけるアレス。
こくりと頷くと、ほっとしたように小さく笑みを零した。
「では、私は城に戻るよ。しっかり話し合え」
「恩に着るよ、ロイド」
「私もゼノも、君たちのことが大切なんだ。だから私たちは、二人が笑って生きていけるような、そんな国を作ってみせるから」
朗らかに笑うロイド様。
「だからさ、アレス、ルイーゼ、君たちが傷ついて悲しいのは、君たちだけじゃないこと、ちゃんと知っていてくれるかい。私たちだって、君たちがいないと、笑って明日を迎えることはできないんだよ」
「わかってる。俺もお前たちが大事だよ。ルイーゼの次くらいにはね」
「…私も、ロイド様もゼノ兄様も、みんな大好き」
私たちはお互いがいなければ決して生きていけないと心からそう思うけれど、それでも、私たちを心配してくれる、愛してくれるみんなを、私たちだって心から愛しているのだ。
だから、願わくば、この世界で、大切な人とずっとずっと笑って生きていきたい。
納得したように頷いたロイド様が手を振ってその場を後にする。
ぎゅっと強く手を握って、私とアレスは屋敷の中に足を踏み入れた。
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