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没落貴族のご子息様のペットは虎視眈々とその喉元を狙っている
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今貴族の間では、ペットが大流行していた。
エルフはもちろん、フェアリー、マーメイド。飼育が難しい亜人種を飼うことが、ステータスに繋がった。とりわけ尊敬されたのは、ヴァンパイアやドラゴンを飼っている者。誇り高き彼らをしつけるのは専門家でも大変難しいとされ、貴族の中でも持つ者は少数だった。
そんな中で、一人の少年がヴァンパイアをペットにしたという。没落貴族の、年若き当主。噂はすぐに方方を駆け巡った。しかもその噂が広まってすぐ、その家で宴が催されるという。好奇心、懐疑心。理由は様々なれど、これまでとは桁違いの人数が、その宴に赴くこととなった。
「ようこそ諸君。歓迎しよう。今宵の宴、どうか心ゆくまで楽しんでいってくれ」
まだ15、6だろう。年端も行かぬ少年のすぐそばには、重い鎖と頑丈そうな首輪で繋がれた、世にも美しい生物がいた。
腰まで届く長い艶やかな黒髪、雪のように真っ白い肌、そして、見た者全てを引きつける深い黄金の瞳。身につけているのは薄布一枚。下手をすれば肌が透けて見えてしまう。そんな屈辱的な扱いをされようと、ヴァンパイアは従順に、主の膝の上に跨っていた。
「おっと、失礼……エサの時間だ」
少年はそういうと懐からナイフを取り出し、見せつけるように指の腹を薄く切り裂いた。鮮血が、滴る。
「ありがとうございます、ご主人様」
ヴァンパイアはれろりとその長い舌を使って舐めとる。丹念に丹念に、吸い尽くす。溢れ出る紅を舌で受け止めて、飲み込んで。ちゅぱちゅぱと音を立てて舐めしゃぶる。
その光景はどこか神々しさを感じさせるとともに、どこまでも艶めかしくて。観衆が、ごくりと息を飲む。それを見た少年は、満足気に笑って、観衆を見下す。
「貴殿らもどうだ……?ヴァンパイアはいいぞ。美しく、賢い」
誰だって、喉から手が出る程欲しい代物。それをわかった上で少年は嘲笑う。
観衆のひとりが、耐えきれなくなったように声をあげた。
「そ、その美しいヴァンパイアはどこで手に入れたのですか」
このような没落した家にヴァンパイアを競り落とすだけの金があるはずがない。そもそも、ヴァンパイアのような珍しい種族が出品されるオークションに、この程度の身分の者が出席出来るはずもない。満場一致の疑問だった。
「ああ、こいつはな……拾った」
は?と素っ頓狂な声がいくつもあがる。生態系の頂点、そのヴァンパイアを?
「い、いやーそれにしても見事に懐いておられますね。ご自身で教育を?」
またひとつ、声が上がった。
その問に少年はニッコリと微笑んで、膝上のヴァンパイアの髪を引っ張りあげ、そのまま椅子のひざ掛け部に額を打ち付けた。
どよめき。驚嘆ではなく、恐怖の。高潔で、何より誇りを重んじるヴァンパイアにこんなことをして、激昂したヴァンパイアに、その光景を見た私たちまで殺されやしないか、という恐怖。けれど少年はそんな雰囲気の中、一人微笑んだまま答えた。
「そうだな、このようにして、少々躾けた」
恐る恐るヴァンパイアの様子を疑えば、表情に変わりはない。どころか、その直後に甘えるように主人に擦り寄った。
こうして信じられないことばかりの宴は終わりを迎えた。
自室にて、少年は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ははっ!これであいつらはもう俺にでかい態度をとれない!父様、母様!!!見ておられますか!?」
狂ったように笑い続ける少年をよそに、ヴァンパイアは部屋の隅、鎖に首輪、加えて足枷をつけられた状態で座りこんでいた。その瞳は、何も映してはいない。
「お前も今日はよくやった……そうだな、ご褒美だ。ほら」
少年は同じように指を差し出す。
「ありがとうございます、ご主人様」
ヴァンパイアは恭しく手を取り、その歯を突き立てた。
少年はうっと息を漏らす。その刹那、ヴァンパイアの目が光をともした。
「っ、ああ」
明確な喘ぎ声。ヴァンパイアの表情が、初めて動いた。唇の端が、つり上がった。
深夜、誰もが寝静まったあと。
ぼきぼきと首を鳴らして、ヴァンパイアが立ち上がる。
「ーったく、凝るんだよなあ、この重っ苦しい首輪」
かちゃりと音を立てて、首輪の錠が、足枷の錠が、外れる。そのまますたすたと、ぐっすり眠る少年のもとへ向かい、口を大きく開け、尖った歯を見せつけて、そして
「うーん……やっぱまだ我慢しとくか」
その先端は、首筋一歩手前で止まる。
18が一番食べ頃だと、その男は心得ていた。
「っつてもならあと2、3年はこの茶番に付き合うのかよ、ったく。だりい」
だが、こいつの血が信じられないほど美味いのも確か。それを他の奴らに横取りされちゃたまらない。しっかりマーキングをしておかないと。それに、この血がこれ以上美味くなるのだとしたら、尚更
「くくくっ!」
想像するだけで、笑いが止まらない。
「それにこいつ、血吸われるだけで感じるとか、才能の塊かよ」
今より少し大きくなった、プライドの高い主が泣き叫びながら処女を奪われる姿……たまらない。なんと加虐心を刺激する光景か。
「だからあと少し……精々18になるまでは付き合ってやるよ、ご主人サマ?」
ペロリと口端を舐めて、男は歪に唇を歪めた。
エルフはもちろん、フェアリー、マーメイド。飼育が難しい亜人種を飼うことが、ステータスに繋がった。とりわけ尊敬されたのは、ヴァンパイアやドラゴンを飼っている者。誇り高き彼らをしつけるのは専門家でも大変難しいとされ、貴族の中でも持つ者は少数だった。
そんな中で、一人の少年がヴァンパイアをペットにしたという。没落貴族の、年若き当主。噂はすぐに方方を駆け巡った。しかもその噂が広まってすぐ、その家で宴が催されるという。好奇心、懐疑心。理由は様々なれど、これまでとは桁違いの人数が、その宴に赴くこととなった。
「ようこそ諸君。歓迎しよう。今宵の宴、どうか心ゆくまで楽しんでいってくれ」
まだ15、6だろう。年端も行かぬ少年のすぐそばには、重い鎖と頑丈そうな首輪で繋がれた、世にも美しい生物がいた。
腰まで届く長い艶やかな黒髪、雪のように真っ白い肌、そして、見た者全てを引きつける深い黄金の瞳。身につけているのは薄布一枚。下手をすれば肌が透けて見えてしまう。そんな屈辱的な扱いをされようと、ヴァンパイアは従順に、主の膝の上に跨っていた。
「おっと、失礼……エサの時間だ」
少年はそういうと懐からナイフを取り出し、見せつけるように指の腹を薄く切り裂いた。鮮血が、滴る。
「ありがとうございます、ご主人様」
ヴァンパイアはれろりとその長い舌を使って舐めとる。丹念に丹念に、吸い尽くす。溢れ出る紅を舌で受け止めて、飲み込んで。ちゅぱちゅぱと音を立てて舐めしゃぶる。
その光景はどこか神々しさを感じさせるとともに、どこまでも艶めかしくて。観衆が、ごくりと息を飲む。それを見た少年は、満足気に笑って、観衆を見下す。
「貴殿らもどうだ……?ヴァンパイアはいいぞ。美しく、賢い」
誰だって、喉から手が出る程欲しい代物。それをわかった上で少年は嘲笑う。
観衆のひとりが、耐えきれなくなったように声をあげた。
「そ、その美しいヴァンパイアはどこで手に入れたのですか」
このような没落した家にヴァンパイアを競り落とすだけの金があるはずがない。そもそも、ヴァンパイアのような珍しい種族が出品されるオークションに、この程度の身分の者が出席出来るはずもない。満場一致の疑問だった。
「ああ、こいつはな……拾った」
は?と素っ頓狂な声がいくつもあがる。生態系の頂点、そのヴァンパイアを?
「い、いやーそれにしても見事に懐いておられますね。ご自身で教育を?」
またひとつ、声が上がった。
その問に少年はニッコリと微笑んで、膝上のヴァンパイアの髪を引っ張りあげ、そのまま椅子のひざ掛け部に額を打ち付けた。
どよめき。驚嘆ではなく、恐怖の。高潔で、何より誇りを重んじるヴァンパイアにこんなことをして、激昂したヴァンパイアに、その光景を見た私たちまで殺されやしないか、という恐怖。けれど少年はそんな雰囲気の中、一人微笑んだまま答えた。
「そうだな、このようにして、少々躾けた」
恐る恐るヴァンパイアの様子を疑えば、表情に変わりはない。どころか、その直後に甘えるように主人に擦り寄った。
こうして信じられないことばかりの宴は終わりを迎えた。
自室にて、少年は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ははっ!これであいつらはもう俺にでかい態度をとれない!父様、母様!!!見ておられますか!?」
狂ったように笑い続ける少年をよそに、ヴァンパイアは部屋の隅、鎖に首輪、加えて足枷をつけられた状態で座りこんでいた。その瞳は、何も映してはいない。
「お前も今日はよくやった……そうだな、ご褒美だ。ほら」
少年は同じように指を差し出す。
「ありがとうございます、ご主人様」
ヴァンパイアは恭しく手を取り、その歯を突き立てた。
少年はうっと息を漏らす。その刹那、ヴァンパイアの目が光をともした。
「っ、ああ」
明確な喘ぎ声。ヴァンパイアの表情が、初めて動いた。唇の端が、つり上がった。
深夜、誰もが寝静まったあと。
ぼきぼきと首を鳴らして、ヴァンパイアが立ち上がる。
「ーったく、凝るんだよなあ、この重っ苦しい首輪」
かちゃりと音を立てて、首輪の錠が、足枷の錠が、外れる。そのまますたすたと、ぐっすり眠る少年のもとへ向かい、口を大きく開け、尖った歯を見せつけて、そして
「うーん……やっぱまだ我慢しとくか」
その先端は、首筋一歩手前で止まる。
18が一番食べ頃だと、その男は心得ていた。
「っつてもならあと2、3年はこの茶番に付き合うのかよ、ったく。だりい」
だが、こいつの血が信じられないほど美味いのも確か。それを他の奴らに横取りされちゃたまらない。しっかりマーキングをしておかないと。それに、この血がこれ以上美味くなるのだとしたら、尚更
「くくくっ!」
想像するだけで、笑いが止まらない。
「それにこいつ、血吸われるだけで感じるとか、才能の塊かよ」
今より少し大きくなった、プライドの高い主が泣き叫びながら処女を奪われる姿……たまらない。なんと加虐心を刺激する光景か。
「だからあと少し……精々18になるまでは付き合ってやるよ、ご主人サマ?」
ペロリと口端を舐めて、男は歪に唇を歪めた。
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