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正式な場

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その3日後。私たち、旦那様、もといギルベルト様とそのご家族、さらに私の家族、王様までもが共に王宮の一室にいた。リサ様も、いた。

「王よ、この度は席を設けていただきありがとうございます」

私の父が口火を切った。

「うむ。此度の席、私は公正な立場であろう。存分に話すが良い」

私の家は公爵だが、向こうは子爵。王に対面するのすら初めてのようで、腰が引けていた。対して、シオン様は背筋を伸ばし、王を見据えていた。シオン様が話し出す。

「このギルベルト・カサンドラ。職務を放棄し、果ては不倫。これが資料となります」

そこからは、早かった。私の夫はリサ様のため王宮の金を着服すらしていたらしい。顔がみるみるうちに真っ青になっていった。王が地位没収を命じ、その場を去る。残された私たち。

「なあおい、サシャ。わ、悪かったって。でもお前は私のことが好きだろう。今ならリサの次に愛してやる。ほ、本当だ。だから、戻ってこい」

な、と懇願されるような視線。これが私が愛した男なのだと思うと、なんだか悲しみを覚えた。元々この結婚、地位の格差がありすぎた。我が家にカサンドラ家は釣り合わない。けれどのっぽの私でもいいと言ってくれた家がここしかなかったのだ。両親は善意で送り出してくれた。だがこの結果だ。父も母も、何度もこの席で私に謝った。あの時止めるべきだったと、送り出すんじゃなかったと。でも、最終的に嫁ぐと決めたのは私だ。緩く頭を降った。もう、カサンドラ家には何も残らない。むしろ、着服した分の罰則によって借金地獄に陥るだろう。
未だ我が家に縋り付くカサンドラ一家に一瞥もくれず、私の父はシオン様を見つめた。

「あなたを信じられない。他国に地位があるのはわかりました。腕がよいのもわかりました。それにその役職なら、我が家とも釣り合いが取れる……ですが、あなたは娘を苦しめた男の兄。父として、認められません」
「お父様!でもシオン様は……!」

シオン様が手だけで私を止める。この1ヶ月間シオン様は私を大切に、大切にしてくださった。信じられると、今なら断言出来る。私は彼が好きだ。愛なんて、彼に出会うまで知らなかった。私がギルベルト様に抱いていたのは愛ではなく、執着心だ。好きだと言ってくれた、その言葉だけを愛していた。
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