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後日談
疑念2
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翌朝。シオン様は珍しく早くに出かけてしまったらしい。シオン様らしい柔らかい字で置き手紙が残されていた。
「今日は少し用事があるから早く出かけるね。置いていってしまってごめんね。今日はクエラリ婦人とお茶会なんだろう?楽しんでおいで。一度でも僕のこと思い出してくれたら嬉しいな」
くすり。笑みが漏れた。わざわざ残していってくれる律儀さと、文で伝わる愛。朝が弱いあの人が早起きして、しかもわざわざ忙しい中ここまで文を書いてくれて。私のスケジュールも覚えてくれてるんだなあ。ああ、この人が好きだなあ。そっと手紙を折りたたんで、大切に部屋の宝箱にしまった。
「ご機嫌よう、サシャさん」
にこりと、感じのいいご婦人が挨拶をした。この人がクエラリ婦人。今日のお茶会の主催者。この国に来てから良くしてくださる方の一人で、彼女のお茶会はいつも人で溢れかえっている。
「ご機嫌よう、マダム。本日はお招きありがとうございます」
「ふふふっ、今日はね、あなたに会いたいって子が来てるのよ。私の孫なのだけれどね」
「?私に……ですか」
なんの用だろう。前の癖で嫌な想像ばかりが浮かぶ。クエラリ婦人がちょいちょいと招き寄せる仕草をすると、1人の、歳は10を超えたころだろうか、少年が現れた。端正な顔立ちをした爽やかな、でも年相応の可愛らしさも残る、素敵な子だった。
「は、はは、初めまして。カサンドラ様。僕はノエルと言います」
そんな子が、私を前にして赤面した。
「え、ええ。あの……ノエル?どこか体調でも悪いの?顔が赤いわ」
「えっ!?えっと、その……」
「ふふ、心配しないでサシャさん。憧れのあなたを前にして照れているだけなの」
私?思わず素っ頓狂な声が出た。この、同年代の女子全員を魅了していそうなこの子が、私を前にして?のっぽの私なんかを、前にして?
「も、もうお祖母様!秘密にしてって言ったでしょ!」
「やあねえ、いいじゃない。そのくらい楽しみにしていたんでしょう?」
「う、うう……こほん。カサンドラ婦人、僕はシオン様に剣を教わってるんです。そこで、たくさん貴方様のお話を聞いて」
ふと思い出す。そういえばシオン様は休みの日に子供たちに剣を教えることがある。私も幾度か見させてもらったが、この子もいたのだろうか。いや、でもこんな美形の子、一度見たら忘れない。そんな私の疑問に答えるように、ノエルは続けた。
「僕、国を守りたくて。でも体が弱いんです。その理由で沢山の人に剣を習うことを断られたんですけど、シオン様だけは了承してくださって!しかも「体の弱いも強いも関係ない。同じ国を守ろうという志。それだけで君は僕と同じ騎士だ」って言ってくれたんです。はあ、かっこよかったなあ……」
目に浮かぶ。優しく気高いシオン様がおっしゃいそうなことだ。そうして2人、しばらくシオン様のかっこよさについて語っていると、ノエルがはっと思い出したように言う。
「そんなシオン様が、あなたがいなければ騎士にはなれなかったって言うんです!「彼女は真っ直ぐで正義感が強い、本当に素敵な女性だ」……いつも言っています。そして、そんな彼女と結婚できた自分は世界一幸せだって」
つむぎだされる言葉に顔が熱を持つ。止まらない。火照って火照って、やけどしそう。でも同時に、どうしようもなく嬉しかった。
「だから、貴方様に会いたかったんです!お話通り、素敵な方で、僕すごく嬉しいです。いつか、貴方様のような素敵な女性を僕も見つけます!」
そう言って一礼するとノエルは去っていった。その後ろ姿に将来騎士として剣を構える姿を重ねた。見計らったように、クエラリ婦人が入れ替わりでこちらに来る。
「今日は少し用事があるから早く出かけるね。置いていってしまってごめんね。今日はクエラリ婦人とお茶会なんだろう?楽しんでおいで。一度でも僕のこと思い出してくれたら嬉しいな」
くすり。笑みが漏れた。わざわざ残していってくれる律儀さと、文で伝わる愛。朝が弱いあの人が早起きして、しかもわざわざ忙しい中ここまで文を書いてくれて。私のスケジュールも覚えてくれてるんだなあ。ああ、この人が好きだなあ。そっと手紙を折りたたんで、大切に部屋の宝箱にしまった。
「ご機嫌よう、サシャさん」
にこりと、感じのいいご婦人が挨拶をした。この人がクエラリ婦人。今日のお茶会の主催者。この国に来てから良くしてくださる方の一人で、彼女のお茶会はいつも人で溢れかえっている。
「ご機嫌よう、マダム。本日はお招きありがとうございます」
「ふふふっ、今日はね、あなたに会いたいって子が来てるのよ。私の孫なのだけれどね」
「?私に……ですか」
なんの用だろう。前の癖で嫌な想像ばかりが浮かぶ。クエラリ婦人がちょいちょいと招き寄せる仕草をすると、1人の、歳は10を超えたころだろうか、少年が現れた。端正な顔立ちをした爽やかな、でも年相応の可愛らしさも残る、素敵な子だった。
「は、はは、初めまして。カサンドラ様。僕はノエルと言います」
そんな子が、私を前にして赤面した。
「え、ええ。あの……ノエル?どこか体調でも悪いの?顔が赤いわ」
「えっ!?えっと、その……」
「ふふ、心配しないでサシャさん。憧れのあなたを前にして照れているだけなの」
私?思わず素っ頓狂な声が出た。この、同年代の女子全員を魅了していそうなこの子が、私を前にして?のっぽの私なんかを、前にして?
「も、もうお祖母様!秘密にしてって言ったでしょ!」
「やあねえ、いいじゃない。そのくらい楽しみにしていたんでしょう?」
「う、うう……こほん。カサンドラ婦人、僕はシオン様に剣を教わってるんです。そこで、たくさん貴方様のお話を聞いて」
ふと思い出す。そういえばシオン様は休みの日に子供たちに剣を教えることがある。私も幾度か見させてもらったが、この子もいたのだろうか。いや、でもこんな美形の子、一度見たら忘れない。そんな私の疑問に答えるように、ノエルは続けた。
「僕、国を守りたくて。でも体が弱いんです。その理由で沢山の人に剣を習うことを断られたんですけど、シオン様だけは了承してくださって!しかも「体の弱いも強いも関係ない。同じ国を守ろうという志。それだけで君は僕と同じ騎士だ」って言ってくれたんです。はあ、かっこよかったなあ……」
目に浮かぶ。優しく気高いシオン様がおっしゃいそうなことだ。そうして2人、しばらくシオン様のかっこよさについて語っていると、ノエルがはっと思い出したように言う。
「そんなシオン様が、あなたがいなければ騎士にはなれなかったって言うんです!「彼女は真っ直ぐで正義感が強い、本当に素敵な女性だ」……いつも言っています。そして、そんな彼女と結婚できた自分は世界一幸せだって」
つむぎだされる言葉に顔が熱を持つ。止まらない。火照って火照って、やけどしそう。でも同時に、どうしようもなく嬉しかった。
「だから、貴方様に会いたかったんです!お話通り、素敵な方で、僕すごく嬉しいです。いつか、貴方様のような素敵な女性を僕も見つけます!」
そう言って一礼するとノエルは去っていった。その後ろ姿に将来騎士として剣を構える姿を重ねた。見計らったように、クエラリ婦人が入れ替わりでこちらに来る。
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