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イエスオアイエス

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翌朝、目覚めたらザキの部屋だった。隣にはザキがいつものように当たり前に眠っていて、一瞬、時間感覚が狂いそうになる。

「っ!結婚式!」

飛び起きようとした私の腰には腕が巻きついていて。動けない。しかもザキも私の声で目覚めたらしい。目をこすりながら、ぼんやりとした眼差しで私の名を呼ぶ。

「っ、ザキ、離して。私、今日、結婚……」
「しないぞ」

え、と思わず声が漏れた。寝ぼけているだけかと思いきや、いつの間にかその翡翠色の瞳ははっきりとした意思を持っている。

「昨日付けでお前をハレムに入れた」
「え!?私了承してないよ?」
「お前、俺を誰だと思っている……王だぞ。そのくらいどうとでもなる」
「職権乱用~」

ぺちと叩かれる。

「お前も望んでいただろう?ああ、でも、ハレムも今日付けで解散するがな」
「は!?」
「お前の国では男は一人の女を愛するのだろう?それに、逆の立場……お前が他の男も愛すと思うと、私は気が狂いそうになる。私にはお前一人で充分だし、お前も私一人で充分だろう?」
「それはっ、そうだけど……そんなことできないでしょ」

ザキは、それはもう清々しい顔でにっこりと笑った。

「俺はお前以外愛するつもりがない、お前以外と子をもうける気もないと伝えて黙らせてきた。これで問題ないだろう?」
「~~っ!もう!!!」

ぎゅっと、覆いかぶさるように抱きつけば、笑って受け入れられた。暖かい。ここが、私の居場所。私の家族。

「さて、あとは……お前が結婚を了承するかどうかだが?」

意地悪そうにザキは笑った。

「……わかってるくせに」
「そう言うな……俺達は随分と遠回りしてきた。これくらいはスムーズにいったって、誰も怒らないだろう?さあ、イエスオアイエスだ」
「……イエス。愛してます」

わしゃわしゃと髪を撫でられる。その顔は、今まで見たどんな顔より年相応で、それでいて、魅力的で。世界で一番、安心できた。
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