2 / 6
美術館でマリアと
公立美術館の別館はかつて、**伯爵が姉娘にあたえた邸宅だった。瀟酒な白い館の扉は、いまや誰にでもひらかれている。前庭に薔薇色の薔薇が咲きほこり、玄関先の石の台坐の上にはギリシア風のスフィンクス。酸性雨にうたれて融けだした頬の水跡が、泣いているように見える。
六月の月曜日の夜明けまえ。雨につつまれた空っぽのサニーサイド・アベニュー。ひくく垂れこめる雲はペールグレイ。道路を横ぎって、モッズコートの少年がはしって来る。フードをかぶり、背中をまるめて、なにかを抱えているらしい。黒い鉄門をおして美術館へはいって行き、なれたようすでカギ穴に針金を刺す。
ドアをあけたとたん、少年のふところから大柄のサビ猫がとびだした。あたりは冷たくしめった薄闇。シャンデリアがほのかに瞬く。猫は伸びをしてネズミ狩の用意。聞こえるのは降りそそぐ雨の音ばかり。
侵入者は濡れたコートを手摺にかけ、赤いじゅうたんを敷いた階段をのぼって、踊り場で足をとめた。壁にマッチをこすりつける。まばゆい炎にてらされ、金箔地の小さな聖母画がうかびあがった。息をこらして凝視める少年は金髪で、クリストファー・ロビンみたいなおかっぱ頭。袖口の擦りきれたチェックのシャツ。肩からななめに茶色い皮のバッグをかけている。
彼のマドンナは甘やかされた可愛らしい少女のよう。みずみずしい肌。やわらかな脣。けれども救世主の母たるひとにふさわしく、眼差しは深く、かぎりなく浄らかだ。少年はすっかり心をうばわれ、永遠を求める憧憬に、胸がひき裂かれてしまいそう。しかし、地上では決してかなわぬ夢だとおもい識らなければならない。彼は涙ぐむ。じっと立ちつくす。絶望に耐えながら、全宇宙の不幸が救済されるよう、けんめいに祈りつづけているのだろうか。彼は指をくみあわせて跪いたりなんかせず、マッチが燃えつきないうちに投げすてると、壁から聖像画をはずしてバッグにしまいこんだ。
丘のうえの屋敷にマリアと呼ばれた老婆がひとりで住んでいて、晴れの日にはテラスのソファに腰かけてすごし、曇りの日はミンスパイを焼き、雨の日には時代おくれのドレスで着飾り、裳裾をひきつつ庭をあるきまわりながら、扇のかげでほほえむ。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。


