図書感想 六月

『怪奇探偵小説名作選１小酒井不木集』

　怪奇！ 犬神伝説

　小酒井不木こざかいふぼくほ、かの江戸川乱歩が兄事した医学博士の探偵小説家であります。四年余りの執筆活動で発表した作品は、百篇以上。もっと世に広まって欲しい作家であります。
　海外留学の折り、不木はホームズの住むベイカー街221Ｂを訪れたようで、コナン・ドイルのファンのみならず、もちろん乱歩や、夢野久作を好まれる方などにも、ぜひともおすすめしたい。
　短篇どころか、掌篇ほどの長さのものも多く収録されているので、幻想怪奇な、あるいは医学的なＳＦ風味の、あるいは『雨月物語』のような怪談などなど、多彩な作品からお選びいただけます。
　心臓をモチーフにした、さすがの医学的描写が異様な熱気で迫る『恋愛曲線』などが人気なのでしょうか。
　ですが、ここはひとつ、まずは『犬神』を強く推したい。『黒猫』のオマージュで、猫ではなく、犬がきっかけの女殺しのお話です。不木の語り口にゾワゾワしつつ、ポーをも思い出しつつ、二度美味しい。
　青空文庫でも、多くの作品が読めます。